カレントアウェアネス
No.245 2000.01.20
CA1298
P.バッティン氏,米国人文科学勲章受章
保存とアクセス委員会(Commission on Preservation and Access: CPA)の前委員長パトリシア・バッティン(Patricia M. Battin)氏は,1999年度米国人文科学勲章(National Humanities Medal)の受章者に選ばれ,昨年9月29日,ホワイトハウスでクリントン大統領夫妻から他の7名の受章者とともにメダルを授与された。
氏は,1978年から1987年までコロンビア大学図書館長をつとめ,アメリカ研究図書館界で最も優れたリーダーの一人として著名であった。今回の受章理由は,19世紀半ばから20世紀半ばにかけて刊行された多くの劣化した出版物(酸性紙使用)の救済キャンペーンを展開し,指導的役割をつとめたことが挙げられている。1986年,CPAの新設とともに初代委員長となり,1994年までそのポストをつとめた。その間,酸性紙がもたらす脅威を図書館や文書館等に広め,政府機関・学術研究機関・民間機関と協力し問題の所在と重要性を精力的に訴える努力を続けた。1988年議会で行った彼女の証言は議会を動かし,議会は米国人文科学振興基金(National Endowment for the Humanities)に対し劣化した出版物のマイクロフィルム化計画を策定するよう要請した。この計画は翌年からスタートし,77万冊に及ぶ出版物がマイクロ化され,消失の危機をまぬがれることとなった。さらに酸性紙問題は世界的な広がりを持つという危機意識から,米国以外における保存活動に対しても救済の輪を広げ,欧州保存とアクセス委員会(European Commission on Preservation and Access:アムステルダムにある財団。1994年設立)の創設にも指導的役割を果した。
またバッティン氏は,学術研究が情報・通信技術の発達によってどのように変わりつつあるかという問題に関して重要な発言をしている。教育に及ぼす情報技術のインパクトについて書いた最近の共編書The Mirage of Continuity: Reconfiguring Academic Information Resources for the 21st Century(連続性という幻:21世紀に向けた学術情報資源の再形成〈仮訳〉1998)の中で,コンピュータを使った教育と学習は新たな学習パラダイムとなり,今後デジタル時代の大学の本質を変化させるであろうと述べている。
バッティン氏は1987年5月に来日した際,国立国会図書館を訪問,当時コロンビア大学副学長兼図書館長の立場から「Scholarly Information Centerについて−大学図書館とコンピュータ・センターとの融合−」と題する講演を行い,鮮烈な印象を与えた。
人文科学勲章は,1989年に創設されたチャールズ・フランケル賞(Charles Frankel Prize)に代わって1997年に創設された勲章で,国民の人文科学に対する理解を深め,人文科学への市民の関与を広げ,また人文科学分野の重要な資源の保存とアクセスの拡大に貢献するなどで功績のあった個人または団体に与えられるものである。受章者は,毎年米国人文科学振興基金が人文科学の各分野から候補者を選考し,大統領が最終的に決定する。今年の受章者の中には,バッティン氏の他に,映画監督S・スピルバーグ氏や哲学者のジョン・ロールズ氏が選ばれているのが注目される。
枝松 栄(えだまつさかえ)
CLIR Issues (12) 1999
Battin, Patricia. 図書館−歴史と社会の不可欠の絆− びぶろす 40 (4) 78-89, 1989