CA1348 – ヨーロッパ保存・アクセス委員会創立から5年の活動報告 / 村本聡子

カレントアウェアネス
No.254 2000.10.20


CA1348

ヨーロッパ保存・アクセス委員会創立から5年の活動報告

ヨーロッパ保存・アクセス委員会(European Commission on Preservation and Access: ECPA)は,ヨーロッパ内の図書館,文書館,関係各機関に対する「資料の保存と利用」のための協力活動の支援と促進を目的に,1994年3月に非営利組織として発足した。事務局はアムステルダムにあるオランダ王立芸術科学院に置かれている(CA1298参照)。

ECPAはヨーロッパにおいて「資料の保存と利用」に関係する機関を一つにまとめる唯一の組織であり,ヨーロッパ研究図書館連盟(Ligue des bibliotheques europeennes de recherche: LIBER)の保存部門,国際文書館評議会ヨーロッパプログラム(European Programme of International Council on Archives),IFLA資料保存コアプログラム(IFLA Core Programme on Preservation and Conservation : IFLA-PAC),ユネスコなどの関連組織とも協力し,活動に取り組んでいる。特に,ECPA設立のモデルとなった米国の保存・アクセス委員会(US Commission on Preservation and Access: CPA)(注)とは,互いに情報の提供や交流活動を積極的に行っている。ECPAの評議会は学協会,図書館,文書館,出版界を代表する14人の委員から構成される。各委員と委員の所属する機関の役割は,地域内での活動とヨーロッパ全体での活動を調整し,ECPAを積極的に支援していくことである。

ECPAは,酸性紙問題を契機に発足したが,人類の文化遺産を後世に伝えていくためには,フィルムや磁気ディスクのような新しい媒体で提供される大量の情報の保存も不可欠と考え,紙だけでなくあらゆる形態の出版物と文書類の保存と利用の確保を目的にうたっている。以下,主な活動を紹介していく。

ECPAの活動の第一は,専門家および一般の人々に対する情報の提供と普及にあり,発足した当初からWebサイトを開設している。ここでは,関係機関が提供している資料保存に関する情報へのリンク,会議日程,出版情報などが提供されている。ヨーロッパの各国が取り組んでいる資料保存活動のデータベース”ヨーロッパ資料保存活動地図”や,関連機関と協力し開設しているインク焼け(鉄インクによる資料劣化)や写真画像保存のページも設けられている。また,インターネットへの接続が難しい地域や人々を対象にした印刷物による情報の提供や,一般には入手しにくい文献リストの作成およびCPAの出版物やユネスコ記録・文書管理プログラム(Records and Archives Management Programme: RAMP)(注)のリポートの配布などを行っている。

ECPAはまた,人材育成支援に関する活動を展開している。これは資料保存の考え方が,従来行われてきたような保存部門だけに独立した仕事から,いかにして各図書館や文書館が館全体の方針に「資料の保存と利用」を取り込み,実行していくかという活動に変化してきた流れを受けている。そのためには,優れた保存技術者(コンサベータ)であるだけでなく,活動計画を立て,交渉し,予算を獲得し,実行していける人材の育成が求められている。この方針に基づき,夏期集中講座の開催や教材の作成と提供,会議の開催などを行っている。

ECPAでは,教材や出版物ができるだけ各国の言語でも提供されることが重要だと考え,その実践に努めている。これは,保存活動実施には各機関における第一線者の活動が不可欠であり,そのためには実践者の言語による情報提供が重要であるという考えに基づく。例えば現在のところ,ハンガリー語,エストニア語,ルーマニア語などへの翻訳に対する支援活動が実施されている。ECPAのこのような方針は,「情報の入手から実践へ」という方針と並び,IFLA-PACのアジア地域センターである国立国会図書館でもおおいに参考になる。

加えてECPAでは,資料保存に関する研究開発も活動の一つとしている。例えば最近では,時代の流れを受け,写真をはじめとする資料の電子化による保存や,最初から電子的に出版される資料の保存に積極的に取り組んでいる。資料の電子化や電子資料の保存は,資料の利用を考える上でも,図書館や文書館が避けては通れない課題であるが,この分野はまだまだ発展途上の段階にある。ECPAは,これを,設立方針である「資料の保存と利用」という考え方を発展させていく好機と捉え,研究成果としてまとめるほか,関連情報の提供や議論のための場づくりなどといった活動を展開している。

設立から5年が経ったECPAの活動は,一定の成果をあげているといってよいだろう。古くて新しい「保存」という問題に対する,さらなる国際的な協力が期待される。

村本 聡子(むらもとさとこ)

(注)CPAは,1997年に統合され,現在はCLIR(Council on Library and Information Resources)のプログラムのひとつとなっている(T18参照)。
RAMPは,ユネスコのPGI(General Information Programme)の一部で,その多くは管理・運営に関するものだが,資料保存に関する研究リポートも刊行されている。
Ref: Lunsnet, Yola de et al. Preservation and access: two concepts, one goal: the work of the European Commission on Preservation and Access (ECPA). J Soc Arch 20 (2) 161-168, 1999
Commission on Preservation and Access. Preserving the Intellectual Heritage: a Report of the Bellagio, June 7-10, 1993. 1993.10 [http://www.clir.org/cpa/reports/bellagio/index.html (last access 2000.9.20)
ECPA [http://www.knaw.nl/ecpa/] (last access 2000.9.22)