カレントアウェアネス
No.248 2000.04.20
CA1314
「英国全国書誌の将来」をめぐって
この10年ほどの間,英国全国書誌(British National Bibliography: BNB)を取りまく状況は急激な変化をとげている。中でも電子出版物や地方出版物の著しい増加は,法定納本の既存の枠組みを揺るがすと同時に,全国書誌の果たすべき機能や役割についての再考を促しつつある。
こうした気運を背景として,1997年,英国図書館(British Library: BL)は,図書館団体や関連機関の代表者を招いてセミナーを開催し,BNBをめぐる問題や今後とるべき方向をめぐって集中的な討議を行った。セミナーの成果は「全国書誌の将来」と題する諮問文書として結実し,BLはここで示された6つの提言について,図書館界から幅広く意見を求めてきた。
提言は次のように要約される。
(1)全国書誌は国内出版物の主要な記録であり,全国書誌を支持する考え方には十分な論拠がある。
(2)BLは全国書誌の編集・出版において中心的役割を担う。
(3)BLはこの役割を主要な責務と見なすべきである。
(4)紙媒体によるBNBの提供は継続することが望ましい。
(5)BNBの収録範囲は,全国書誌分担(distributed national bibliography)の推進を通じて拡大されるべきである。これはBLと他の国家機関とのより一層の協力を通じて実現されるべきである。
(6)BNBの改善は,中核となるレコードに対し,さらにデータを追加することによって可能となる。
こうした提言に対し,英国の図書館界からはさまざまな見解が寄せられている。特に意見が集中しているのは,一連の提言のハイライトとも言うべき(5)であるが,全国書誌分担という考え方自体については,おおむね支持を得ていると見られる。すでにBLは著作権登録図書館分担目録プログラム(Copyright Libraries Shared Cataloguing Programme)などを通じて他機関との協力を行っており,今回の提言はこうした従来の方向をさらに推進する意義を持つと認められよう。この点について,例えば,図書館情報協力協議会(Library and Information Co-operation Council: LINC)は,より包括的な全国書誌という見地からこの提案を高く評価する一方,地方出版物の収集・保存のためには,法的・財政的枠組みを持たない地方図書館とも一層の連携をとるべきだと主張している。
また,こうした考え方はあくまで収録範囲の拡大を目的とするものであって,データの利用面にまでこの概念を持ちこみ,利用に供される情報資源や書誌データベースを分担館ごとに分断してしまってはならない,といった指摘も見られる。LINCは別の課題として,全国書誌の分担館における書誌レコードの品質のコントロールをあげている。
このほか,提言(2)に関しては,BLがBNBの所有権を保持すべきだという主張と,所有権を手放した方がかえって編集上のリーダーシップを握ることが出来る,という主張との間で対立が見られる。また,提言(6)は非常に大きな賛意とともに迎えられている反面,データの追加によるタイムラグの拡大や価格の上昇を危惧する声もある。他方,提言(1)や(3)などは全面的に賛同を得ており,出版物の記録として,また文化面における「国民の記憶」として,全国書誌が果たすべき役割の重要性については,ほぼコンセンサスが形成されていると言えよう。提言(4)についても,前述した収集・選書上の使い勝手の良さなどを理由に紙媒体を支持する声が多く,現時点で電子媒体への乗換えを主張する者は少数派にとどまっている。
BLの書誌サービス・文献提供部長であるスミス(Robert Smith)氏は,こうした一連の意見を集約した上で,「BLが果たすべき役割についてはほぼ意見の一致を見ているが,そのための手段については相当見解が分かれている」と総括している。大きな転換期を前に,全国書誌はいかにして新たな道を切り開くか,BLおよびBNBの次の動きに注目したい。
中泉 一浩(なかいずみかずひろ)
Ref: The future of the National Bibliography. New Library World 100(1146) 30-32, 1999
The future of the National Bibliography: Consultation Paper from the British Library. [http://www.bl.uk/services/bsds/nbs/] (last access 2000. 3. 22)
Response to the Consultation Paper on the future of the National Bibliography. [http://www.bl.uk/services/bsds/nbs/conslett.html](last access 2000. 3. 22)
CA1292