カレントアウェアネス-E
No.162 2009.12.02
E998
図書の貸出記録を活用するためのプログラムコンテスト(英国)
英国情報システム合同委員会(JISC)が2009年8月から実施していた,図書館の貸出記録のデータを用いたプログラムのコンテストの結果が,2009年10月に発表された。優勝したのは「本の銀河(Book Galaxy)」というプログラムで,銀河を模した画面の中で,それぞれの図書が動く点(星)として表示され,いずれかの星を選ぶと,その図書に関連のある複数の図書が,その利用頻度に応じた大きさで,星座のように結ばれた形で表示されるというものである。授業コースも異なった色の星として表示されており,授業コースと図書とのつながりも同様に表示される。
コンテストで用いられた貸出記録のデータは,英国のハダーズフィールド大学図書館の利用データである。同図書館は,2008年12月に,13年分の貸出記録約300万件を基に,8万冊分のデータをオープン・データ・コモンズという形式で公開した。データは統計的処理を加えられ匿名化されており,「貸出データ」と「推薦データ」に大別される。「貸出データ」は,学年・学部・授業コースが分かるものであり,「推薦データ」は,「この本を借りた人は,こんな本も借りています」という推薦をするためのもので,同図書館のOPACでは実際にこの機能が用いられている。
このデータ公開を受けて,JISCは,図書館利用データの収集・使用方法等を調査するプロジェクト“Mosaic”(Making Our Shared Activity Information Count)の一環として,このプログラムコンテストを実施した。コンテストで使用したのはハダーズフィールド大学図書館の4年分のデータで,借りられた図書のタイトルと,借りた人の学年や受けている授業コースが分かるようになっていた。
審査は,「使いやすさ」「利便性」「今後の可能性」「かっこよさ」という基準に基づいて行われた。応募6作品の中から最優秀に選ばれた「本の銀河」の作者であるサウサンプトン大学の学生パーカー(Alex Parker)氏は,「自分の求めているものがはっきりしない場合などは,キーワード検索だけでは必ずしも満足のいく結果を得られない。自分のアイディアが一つの選択肢となれば」とコメントしている。その他のエントリー作品には,自分が読んで満足した本に基づき授業コースを推薦してくれるもの,自分の読書リストを他人とシェアするもの,ある授業コースをとっている学生達がどのような本を借りているのかが分かるもの,などがあった。
貸出記録データの使用にあたり,最も課題となるのは利用者のプライバシーの問題であると思われるが,ハダーズフィールド大学の担当者パターン(Dave Pattern)氏(E702参照)は,サービス改善のためのデータ使用とプライバシー保護は両立できると述べている。同氏は,求めているのは類似の行動を取る一定規模のグループの分析により得られる「傾向」であり,グループの規模の基準を適切に設定することで匿名性は確保できるとし,より広いコミュニティでのデータ活用のため,他の図書館にも同様の試みを呼びかけている。
Ref:
http://www.jisc.ac.uk/news/stories/2009/10/bookgalaxy.aspx
http://infteam.jiscinvolve.org/2009/10/21/look-what-you-can-do-with-library-circulation-data
http://www.daveyp.com/blog/archives/528
http://webcat.hud.ac.uk/ipac20/ipac.jsp?profile=cls#focus
http://www.jisc.ac.uk/Home/news/stories/2009/08/mosaiccomp.aspx
http://www.jisc.ac.uk/whatwedo/programmes/inf11/mosaic
http://www.sero.co.uk/jisc-mosaic.html
http://www.shizuku.ne.jp/forumppt.php
E702