カレントアウェアネス-E
No.162 2009.12.02
E999
欧州の図書館の資料デジタル化に関するワークショップ(報告)
2009年10月19日~21日,オランダ王立図書館(KB)で,欧州の図書館における資料デジタル化について議論する“Workshop on the Digitization of Library Material in Europe”が開催された。これは,欧州の資料デジタル化に係るコミュニティや欧州委員会(EC)の活動に資することを目的に,欧州研究図書館協会(LIBER)と欧州図書館・情報・ドキュメンテーション協会連合(EBLIDA)が協同で実施しているワークショップで,今回で2回目となる。1回目は2007年,デンマーク王立図書館で開かれ,その成果は,欧州における資料デジタル化をどのように促進すべきかをまとめたロードマップに集約され,ECに提言された。今回のワークショップの目標は,2007年のロードマップの内容を更新することである。筆者は欧州以外からの参加者4名のうちの1人としてワークショップに出席した。以下にワークショップの概要を報告する。
ワークショップは,オープンアクセス週間(10月19日~23日)の記念Tシャツに身を包んだKB館長らの開会挨拶で始まった。1日目から2日目にかけて,(1) イントロダクション,(2) 財政的側面,(3) 利用者ニーズ,(4) 公共図書館,(5) 機関間連携,(6) デジタル化資料へのアクセスというテーマでセッションが行われ,各セッションにつきそれぞれ3~4,全部で22のプレゼンテーションがあった。
(1)では,ECの情報社会メディア総局情報アクセスユニットの代表(Head of Unit, Access to Information, DG Information Society and Media)であるエルナンデス-ロス(Javier Hernandez-Ros)氏が,ECのデジタル化戦略(CA1632参照)を実現するために私企業の資源とスキルは必須であると強調し,資料デジタル化における官民パートナーシップの重要性を訴えた。このようなパートナーシップの模索は参加者の多くが関心を寄せるところであり,ワークショップ期間中何度も話題に上ることとなった。
このトピックの中心にある企業の1つ,Google社のハンリー(Jason Hanley)氏は,(2)の登壇者の一人として発表した。ハンリー氏は同社の電子書籍ビジネスモデルを紹介したが,質疑応答では,Googleブックス和解案(E991参照)に関する質問が複数寄せられた。ただし,ハンリー氏から質問に対する明確な回答はなかった。ハンリー氏の発表の直後には,Google社とパートナーシップを結び,資料デジタル化を実施するとも言われているフランス国立図書館(BnF)のマルタン(Frederic Martin)氏が登壇した(E969参照)。マルタン氏は,BnFの電子図書館“Gallica”を例にとって,BnFの資料デジタル化プロジェクトのビジネスモデルについて紹介し,プロジェクトの持続性確保のため,民間企業の参入等を検討していることを話した。質疑応答では,BnFとGoogleの関係について質問が集中したが,マルタン氏は,たとえBnFが民間企業と提携して資料のデジタル化を行っても,その資料は提携先の企業のウェブサイトだけでなく,GallicaやEuropeana(CA1632,E862参照)等でも自由に閲覧できる,パブリックなものになると強調した。
(2)ではその他に,オーストリアのチロル大学・地域図書館(Universitäts und Landesbibliothek Tirol)のグストライン(Sylvia Gstrein)氏から,新しい資料デジタル化のビジネスモデルとして,“eBooks on Demand”(EOD)の紹介があった。EODは,欧州13か国の図書館が2006年から取り組んでいるプロジェクトで,著作権フリーの図書館資料のデジタル化をオンデマンドで実施するというものである。EODでは当該資料のデジタル化を希望する利用者が,デジタル化に必要な費用を負担する。こうしてデジタル化された資料は注文者の手元に届けられた後,最終的にEODの電子図書館のコンテンツとして誰でも自由にアクセスすることができるようになる。
(4)では,OPAC用ソフトウェア“Aquabrowser”(E641参照)を活用し,図書館に関連する情報に加えて,地域コンテンツなども充実させたポータルサイト“Cabrio”を開発したベルギーのブリュージュ公共図書館,フランスで初めてGoogle社と提携して資料デジタル化を実施しているリヨン市立図書館の取組(E817参照)が,それぞれの図書館のスタッフ,ブレックマン(Jan Braeckman)氏とエティジェール(Magali Haettiger)氏によって紹介され,注目を浴びた。
(5)の登壇者の1人,英国情報システム合同委員会(JISC)のダニング(Alastair Dunning)氏からは,「結局,なぜ私たちはデジタル化するのか?」という,本質的な問題提起があった。資料デジタル化を継続していくためには,資金調達等のために,その必要性をアピールしていかなければならない。ダニング氏によると,これまでに資料デジタル化に関する量的な調査は行われているが,資料が誰に,どのように使われ,どのように役立っているかといったエビデンスを収集する質的な調査はほとんど行われていない。ダニング氏は,JISCが資金援助したプロジェクト“The Toolkit for the Impact of Digitised Scholarly Resources”を取り上げ,資料デジタル化が利用者に与える効果をよりよく評価するための方法論について紹介した。
最終日は,前日までのプレゼンテーションの内容を踏まえ,(a) メタデータ・基準・相互運用性・永続的識別子,(b) 資金調達と商業的パートナーシップ,(c) 利用者ニーズ,(d) 機関間連携という4つのグループに分かれて,参加者が議論を行った。その後の全体セッションで,各グループが議論の成果報告を行い,その内容が新しいロードマップに取り入れられることになった。新しいロードマップはLIBERのウェブサイトで公開されている。
約30の欧州各国から125名の参加者が一堂に会し,資料デジタル化に関する欧州各国,また,欧州全体の取組について議論し,情報共有することが持つ意味は小さくないだろう。ワークショップへの参加を通じ,欧州が引き続き,1つの大きな地域として協働し,効率的・効果的に文化遺産のデジタル化に取り組んでいくという意気込みを強く感じた。
(関西館図書館協力課・堤 恵)
Ref:
http://www.libereurope.eu/node/391
http://www.libereurope.eu/node/142
http://microsites.oii.ox.ac.uk/tidsr/
http://books2ebooks.eu/
http://cabrio.bibliotheek.brugge.be/?q=material:%22in%20de%20pers%22
http://xmacex.wordpress.com/2009/10/22/2nd-liber-eblida-workshop-on-digitisation-of-library-material-in-europe/
http://information-literacyblog.blogspot.com/2009/11/liber-eblida-digitization-conference.html
http://twitter.com/#search?q=%23liber
CA1632
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