カレントアウェアネス-E
No.155 2009.08.05
E957
大学・研究図書館の将来を考えるキャンペーン(英)
英国情報システム合同委員会(JISC)が展開してきた,大学・研究図書館の課題や将来像について議論するキャンペーン“Libraries of the Future”が,このほど終了した。情報のデジタル化・オンライン化が急速に進み,書籍を保管する物理的な場所としての図書館の役割が学生や研究者のニーズと合わなくなりつつあるなか,図書館が学習,教育,研究を支援する方法を再考することを目的に,有識者によるディベートや講演が2009年4月まで約1年間にわたって催され,活発な議論が交わされた。
JISCはイベント開催のほか,英国の新聞「ガーディアン」とタイアップしてデジタル化の波の中で変容する図書館の活動を紹介したり,ブログやソーシャルネットワークを使ってディベートに参加できる仕組みを作るなど,関係者に幅広く参加と議論を呼びかけてきた。
4月2日にオックスフォード大学で開催されたディベート“What is the Library of the Future?”では,専門家5人がそれぞれの視点から,これからの図書館やライブラリアンに求められることについて持論を展開した。オックスフォード大学ボドリアン図書館のトマス(Sarah Thomas)館長は「ITのスキルはもちろんだが,これから最も重要になるのは多くのパートナーと共同できる能力だ」と指摘。科学研究者のマレー=ラスト(Peter Murray-Rust)氏は,大学がWikipediaに協力的でないことに疑問を投げかけたうえで,「ライブラリアンは積極的に図書館以外の活動にも参加してほしい」と注文した。一方,ハーバード大学図書館のダーントン(Robert Darnton)館長は「高齢者はデジタル化についていけず混乱している」として,そうした人々への手助けも重要な仕事だと主張した。
またJISCはキャンペーン終了後の7月,ライブラリアンや学生へのインタビューを収めた約10分間のドキュメンタリー動画を公開した。この中で,Googleなどの技術が発展することで「コンピューターがすべてをやってくれるようになるから,ライブラリアンはいらなくなるのではないか」といった学生の指摘に対し,ロンドン大学政治経済学部の司書サイクス(Jean Sykes)氏は「Googleは情報を創造したり,分類したり,蓄積したりすることはできない」として,ライブラリアンを軽視する風潮に警鐘を鳴らしている。
なおドキュメンタリー動画と同時に,4月2日のディベートの模様や,キャンペーンの活動を総括した小冊子も,JISCのウェブサイトで公開されている。キャンペーンを主導してきたJISCのポーター(Sarah Porter)氏はこの小冊子の中で,「各図書館はデジタル化による変化への対応の仕方について戦略を立てる必要がある」と述べ,「図書館が将来に向けどのような計画を立てたらよいかを示すために,キャンペーンでの議論を生かしたい」と意欲を見せている。
Ref:
http://www.jisc.ac.uk/Home/publications/documents/librariesofthefuturebrochure.aspx
http://www.jisc.ac.uk/media/documents/publications/lotfbrochure.pdf
http://www.jisc.ac.uk/Home/news/stories/2009/07/lotfdocumentary.aspx
http://www.jisc.ac.uk/whatwedo/campaigns/librariesofthefuture.aspx
http://librariesofthefuture.jiscinvolve.org/2009/04/02/libraries-of-the-future-session-1/
http://www.jisc.ac.uk/events/2009/04/lotf.aspx
http://www.jisc-events.co.uk/biographies.vc