E939 – 欧州におけるデジタルリポジトリの現状と課題とは?

カレントアウェアネス-E

No.152 2009.06.24

 

 E939 

欧州におけるデジタルリポジトリの現状と課題とは?

 

 欧州連合(EU)の支援の下,欧州全体でのデジタルリポジトリの連携体制構築を目指す「欧州における研究のためのデジタルリポジトリ基盤ビジョン」(DRIVER)は2008年,2006年の1回目の調査以来2回目となる,EU加盟国を中心とした欧州各国のデジタルリポジトリの概況調査を実施した。このほど,この調査の結果をまとめ,欧州におけるリポジトリ関連のインフラ整備の今後を展望する記事が,オープンアクセス誌“Ariadne”に掲載された。

 調査には,欧州22か国から,178の「学術機関リポジトリ」(現在の研究者の研究成果をコンテンツとし,OAI-PMHに準拠しているリポジトリのうち,機関が運営するもの)と,14の「主題リポジトリ」(機関運営ではないもの)が参加した。Ariadneの記事ではこのうち,学術機関リポジトリに関する調査結果を中心に取り扱い,その最新状況として下記のような点を紹介している。

  • 調査結果から見積もると,欧州の学術機関リポジトリの数は280から290で,ここ3年は毎年25~30ずつ増加している。
  • 学術機関リポジトリに登録されているレコードの種類は,メタデータのみが51%,フルテキストが33%である。またフルテキストレコードの刊行タイプは,灰色文献(論文,会議録等)62%,雑誌論文34%,書籍4%となっている。
  • 学術機関リポジトリへの登録プロセスにおいて,セルフデポジットと機関スタッフによるデポジットの併用など,いくつかの手法のコンビネーションが占める割合が,2006年と比べて増加している。

 最もよく用いられているリポジトリ構築用ソフトウェアは,DSpace(30.3%)で,次いでGNU Eprints(19.7%),独自開発(16.9%)となっている。細分化が進んでいるため,高いレベルでの相互運用性,コンテンツの検索を保証する目的から,DRIVERはガイドラインを作成している。

 さらに,学術機関リポジトリのステークホルダー3者(著者,機関,利用者)それぞれの観点から,現状と課題を整理している。著者の観点からは,自身の研究成果のアーカイブとしてのリポジトリの機能が重要となるが,その鍵となる研究成果の永続的識別子を付与している機関が全体の8割を超えたほか,長期の利用保証をしている機関が5割を超えた。またフルテキストの登録に当たっては著作権に係る問題があるが,リポジトリに登録されている論文のほとんどがプレプリントという機関が10%,論文のほとんどがポストプリントで利用可能という機関が46%となり,後者の割合が2006年の調査時よりも増加したことが分かった。

 機関の観点からは,研究成果の管理ツール,ショーケースとしての学術機関リポジトリの機能が注目される。これに関連する調査結果としては,自機関の研究成果のうち,リポジトリがカバーできているのは35%程度と推測され,前回調査時とほぼ変わっていないこと,また回答者の3割近い機関が,全面的に,あるいは部分的に,研究成果の登録を義務付けていることが分かった。

 利用者の観点からは,アクセシビリティと検索可能性が重要となる。調査結果からは,2006年と比較して,検索エンジンからリポジトリの情報にたどり着く利用者が大幅に増加したことなどが分かった。

 調査から明らかになった課題を踏まえて記事は,リポジトリによるセルフアーカイビングの広報等を著者に対して,チュートリアルサービスの継続的な提供や未設置機関の意思決定者に対するロビー活動を機関に対して,アクセシビリティの改善等を利用者に対して,図っていく必要があると指摘している。なお調査結果の全文は,DRIVERのウェブサイトで公開されている。

Ref:
http://www.ariadne.ac.uk/issue59/vernooy-gerritsen-et-al/
http://www.driver-repository.eu/component/option,com_jdownloads/Itemid,83/task,view.download/cid,49/
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