E857 – Google Book Searchと出版社・著作者団体との和解案がまとまる

カレントアウェアネス-E

No.139 2008.11.19

 

 E857

Google Book Searchと出版社・著作者団体との和解案がまとまる

 

 Google社は2008年10月28日,図書館と協同して蔵書のデジタル化を進めるプロジェクトBook Search事業(CA1564参照)をめぐり,2005年に同社を訴えていた著作者団体“Authors Guild”(E392参照)と米国出版社協会(AAP)との間で,訴訟終結に向けた和解案について合意に達したと発表した。

 今回の和解案では,Book Search事業を通じて著作物のオンラインアクセスを拡大し,読者・研究者の利益を保障するとともに,著者や出版社によるデジタル形態でのコンテンツ頒布の可能性を増やすことも明記している。和解案には,その目的の達成に向けた,以下のような具体的な方策が盛り込まれている。

  • Google社は引き続き,著作権保護期間内にある図書をスキャンして,データベース化,検索ができるほか,スニペット表示にかわり,新たにプレビュー機能を提供することができる。
  • Google社は著作権保護期間内にあるが,商業的な利用が困難な資料について,オンラインでアクセスする権利を,ユーザーが購入できるようにする。価格の設定権は権利者が有し,権利者が設定しない場合は,Google社が適切な価格を算定する。ユーザーはアクセス権を購入した資料を,コピーアンドペーストしたり複写(プリントアウト)したりできる。
  • 公共図書館や非営利高等教育機関向けには,無償サービス“Public Access Service”を提供する。Public Access Serviceでは後述する機関講読制度とほぼ同じ資料(著作権保護期間内にあるが,商業的な利用が困難)を,図書館利用者は自由に閲覧することができる。ただしコピーアンドペーストはできず,複写は別途料金が必要となる。このサービスはアクセスできる端末を限定しており,公共図書館は各建物に1台,高等教育機関は学生フルタイム換算1万人当たり1台を,設置することができる。
  • Public Access Serviceとは別に機関講読制度を創設し,著作権保護期間内にあるが,商業的な利用が困難な資料を利用できるようにする。機関講読制度ではコピーアンドペースト,複写,本文中への注釈(annotation)の追加と共有,電子指定図書(e-reserve)や授業教材提供システムへの活用をできるようにする。購読料金は他のサービス提供事業者の価格を参考に決定する予定で,分野ごとのパック価格や契約規模による割引制度なども導入を予定している。
  • 印刷版の出版物を利用できない障害をもつ人々が,拡大読書機器や読み上げ装置などを利用して出版物を利用できるように,商業的に適切な価格で,電子化した資料の提供義務を負う。
  • 新たなデータベース“Book Rights Registry(BRR)”を構築し,オンラインで著作物にどのようにアクセスさせるか,またそれによりどのように報酬を得るのかを,著作権者(著作者・著作権相続人・出版社など)がコントロールできるようにする。
  • BRRとは別に,研究コーパスを構築する。これは,これまでBook Search事業で電子化した全ての資料を集約してデータベース化したもので,認証を受けた利用者に提供する。一例として,語彙の利用に関する歴史的な変遷を,一括して検索し研究者に提供するサービスなどを想定している。
  • 和解案では,Book Search事業に参加した図書館を,参加形態により4つのカテゴリーに分類している。その中でBook Search事業に著作権保護期間内にある資料を提供し,デジタルコピーを受け取っていた図書館(Fully Participating Libraries)については,BRRとの同意書締結を求める。同意書では,引き続きBook Searchプロジェクトへの貢献が認められるとともに,著作権侵害に対する責任が免除される。また自館が所蔵する資料のデジタルコピーを,一定の条件のもとで,Google社から受け取ることができる。ただしGoogle社から受け取った著作権保護期間内にある資料のデジタルコピーの利用については,厳格な制限が設けられている。
  • 和解案に基づきGoogle社は,合計1億2,500万ドル(約121億円)を拠出する。この資金はBRRの構築や著作権者に対する損害賠償,訴訟費用として用いられる。また今回の和解案の対象となるのは,米国国内に限られる。

 この和解案に対しては,Book Search事業に参加しているカリフォルニア大学,スタンフォード大学,ミシガン大学が共同で,支持・歓迎するコメントを発表している。一方で同様にBook Search事業に参加しているハーバード大学は,今回の和解案には「潜在的な制限が多く含まれている」,また「費用が合理的か確認できない」として,Book Search事業への不参加を表明するに至っている。

 またこれとは別に,2つの訴訟はクラスアクション(集団代表訴訟)として起こされているため,和解案が有効に成立するためには,原告側の訴訟関係者(Authors Guildの場合で言えばAuthors Guildのメンバー8,000人,AAPで言えば加盟260社)の同意が必要となる。原告側はこの和解案に同意しない人々に対して,2009年5月5日を期限として,Book Search事業への不参加を表明できるようにしているが,同意しない人々の動向によっては,今回の和解案に対して,何らかの見直しが迫られる可能性がある。また和解案確定には裁判官の審査が必要となるが,裁判官が今回の和解案を合法的であると認めない可能性も残されている(ただし訴訟を担当するニューヨーク連邦地方裁判所は,2008年11月14日に和解案を承諾する仮決定を行なっている)。

 Google Book Searchをめぐる訴訟は,ひとまず和解案の合意にこぎつけたものの,いまだ不確定要因も存在する状態である。他国における同様の訴訟を含め,今後の行方に目が離せない。

Ref:
http://www.google.com/intl/en/press/pressrel/20081027_booksearchagreement.html
http://books.google.com/intl/ja/googlebooks/agreement/
http://www.ns.umich.edu/htdocs/releases/story.php?id=6807
http://www.vpcomm.umich.edu/pa/key/google_settle.html
http://www.thecrimson.com/article.aspx?ref=524989
http://www.arl.org/bm~doc/google-settlement-13nov08.pdf
http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=/n/a/2008/11/17/national/a160527S62.DTL
CA1564
E392