E827 – 「動くコンピュータ教室」,2008年「学習へのアクセス賞」獲得

カレントアウェアネス-E

No.134 2008.08.27

 

 E827

「動くコンピュータ教室」,2008年「学習へのアクセス賞」獲得

 

 ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団が授与している「学習へのアクセス賞」(E245E374E559E691参照)に,2008年はメキシコ・ベラクルス州 教育省が進めるコンピュータ・インターネット教育プログラム“Programa Vasconcelos”が選ばれた。このプログラムはベルトラン(Fidel Herrera Beltran)州知事が2005年から5年計画で進めているもので,Vasconcelosとは,現代メキシコの教育の発展に寄与した哲学者,教育大臣の名にちなんでいる。

 ベラクルス州はメキシコの中東部にある南北に長い州で,メキシコ湾の西岸に位置する。州内の人口は約730万人であるが,コミュニティは小規模で貧しく,それぞれが孤立している。コンピュータやインターネットアクセスの設備を備えた図書館を維持していくために必要不可欠である,電力,設備,資金,スタッフのいずれもが,不十分な状況であるという。

 Programa Vasconcelosでは貧困地域の人々に,コンピュータやインターネット利用の機会を提供するとともに,コンピュータに関する基本的なスキルやインターネットの有効な利用法を人々に伝授する。また,州や政府の支援により公立学校などに設置されたものの,有効に活用されず放置されている「コミュニティ・テクノロジーセンター」のコンピュータ設備をアップデートして,コミュニティ・テクノロジーセンターを通じて必要な情報やサービスにアクセスできるようにする。そしてこれらを遂行するため,スキルの伝授,技術的サポート,コミュニティの活動支援を行う,高度なトレーニングを受けた7名の熱い「旅団」が乗り込んだ,24台の「全地形万能型バス」が州内全域を巡回している。「全地形万能型バス」には,ノートパソコン,インターネットにアクセスするための衛星通信設備,ビデオプロジェクター,双方向のやり取りができるホワイトボードが搭載され,動くコンピュータ教室となっている。「旅団」はコミュニティに2週間ずつ滞在し,どのようなプログラムがコミュニティに必要か,また何を提供するかを,地元の指導者とも相談しつつ,任務を遂行する。たとえば小規模農家に対しては,化学肥料や種子,農耕機具を得るための融資の獲得方法,インターネットを用いた生産物販売の知識や技術を伝授しているという。

 Programa Vasconcelosでは,すでに200以上のコミュニティ・約12万人に対するトレーニングを完了したという。これらのトレーニングにより,約6,500戸のコーヒー豆栽培農家は,オンライン上での取引情報の確認や,コーヒー豆の国際価格の調査方法を学び,取引価格の再交渉が可能となった。その結果,コーヒー豆栽培農家は以前より収入が増加した。とある会社経営者は,子どもをプログラムに参加させるとともに,自らが経営する小規模な宝石ビジネスに役立つ知識を学んだ。その経営者はインターネットを利用したマーケティングにより,収入の25%アップに成功した。また,小学校の一部の生徒をコンピュータ教室に招待したところ,子どもたちはコンピュータ技術に興奮し,自分たちが得た興奮を友人たちと共有したいと熱望した。子どもたちの熱意に応じ,Programa Vasconcelosは,各学校のデジタルセンタが州から3台のコンピュータの支給を受けることを支援した。小学校の校長は,授業がより意味深く,興味を引きつけるものになるため,コンピュータは子どもたちの学習を高めることに役立つとコメントしている。

 Programa Vasconcelosに対する需要は現在も増加傾向を示していることから,2010年までに約50台の「全地形万能型バス」を準備し,20万人以上の人々にプログラムを提供する予定であるという。

Ref:
http://www.proyectovasconcelos.com.mx/v2/
http://www.gatesfoundation.org/GlobalDevelopment/GlobalLibraries/AccessLearningAward/2008Award/default.htm
http://www.libraryjournal.com/article/CA6587455.html
http://www.ala.org/ala/alonline/currentnews/newsarchive/2008/august2008/gatesaccess2008.cfm/
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