E823 – プライバシーを保護した図書館,ネットで批判の的に(米国)

カレントアウェアネス-E

No.134 2008.08.27

 

 E823

プライバシーを保護した図書館,ネットで批判の的に(米国)

 

 図書館が国家権力などによる介入から利用者のプライバシーを守ること,またその限界はどこにあるかという議論は,米国において新しいものではないが(CA652参照),2001年9月11日の同時多発テロ後に成立した愛国者法(CA1474CA1547E462参照)以降は,特に注目される機会が増えたとも言われている。このほど,この愛国者法とは直接関係はないものの,図書館側が利用者のプライバシーを守ったことが全米に波紋を呼び,米国図書館協会(ALA)の関係者も「図書館が直面した最も困難な局面の1つ」と語る事件が起きた。

 2008年6月25日,12歳の1人の少女が行方不明となった。その翌日の6月26日,バーモント州警察が同州のキンボール公共図書館を訪れ,利用者向けに提供している図書館のパソコンを全て提出するよう求めた。少女が行方不明直前に,図書館のパソコンでインターネットを利用し,ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の1つ“MySpace”で誰かと連絡を取っていたことが分かったからである。しかし警察が裁判所の令状を持っていなかったため,対応した図書館司書は「令状がない場合には,利用者に関する情報を提供しない」という図書館のポリシーに従い,警察の求めに応じなかった。この出来事から7時間後,警察は令状を取得して改めて図書館を訪れ,対応した図書館長が今度はパソコンを警察へ引き渡した。結局この少女は7月2日に遺体となって発見され,殺害に関与した容疑で少女の叔父らが逮捕された。図書館から押収したパソコンから,少女の誘拐に関連する情報が得られたかどうかについて,警察当局から発表はなかった。

 上記のニュースが報道されて以来,キンボール公共図書館の対応について,全米からさまざまな反響が寄せられている。インターネット上の反応は,「官僚主義的であり,少女を救うための貴重な時間を浪費した」「少女の命を救うことよりも図書館利用者のプライバシーを守る方を選んだのは,図書館のエゴ」というように,すぐにパソコンを引き渡さなかった図書館側の対応を批判するものが大半だった。一方,AP通信の取材に答えたインディアナ大学のサイバーセキュリティの専門家は,今回の図書館の対応を適当なものとする見解を述べている。

 キンボール公共図書館長はSchool Library Journalの取材に対し,「国中から匿名の批判メールが届いているが,地元の人々からは,賞賛・感謝の意を多くいただいている」と答えた。また図書館長は,バーモント州図書館協会のウェブサイトに記事を寄せ,今回の図書館の対応が誤っていないことを強調するとともに,今後同様の事態を招かないために,図書館はどのような準備をしておくべきかについて述べている。

Ref:
http://www.schoollibraryjournal.com/article/CA6583907.html
http://www.resourceshelf.com/2008/07/19/library-confrontation-points-up-privacy-dilemma/
http://www.vermontlibraries.org/when-law-enforcement-comes-aknocking#more-299
http://online.wsj.com/article/SB121674582611274013.html
http://www.topix.net/forum/source/brattleboro-reformer/T5DHSC034O752DRIB
CA652
CA1474
CA1547
E002
E462
E645