E1857 – 米国図書館協会(ALA)栄光の瞬間<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.314 2016.11.10

 

 E1857

米国図書館協会(ALA)栄光の瞬間<文献紹介>

 

Wiegand, Wayne A. ALA’s Proudest Moments: Six Stellar Achievements of the American Library Association in Its 140-Year History. American Libraries. 2016, 47(6), p.32-39.

   1876年に設立された米国図書館協会(ALA)は,2016年で創立140周年を迎えた。本文献は,米国の図書館史研究を牽引するウィーガンド(Wayne A. Wiegand)氏が,ALAの歴史における重要なトピックを6つ選び,それぞれ解説を加えたものである。なお,本文献はALAの140周年を記念して,American Libraries Magazineのブログに,2016年1月から5月にかけて6回にわたり連載された記事が元になっている。

   「正直にいって,執筆中に一番辛かったのは選択だった。ALAの歴史には称賛すべき事柄がありすぎるからである」と文献の冒頭でウィーガンド氏は述べているが,彼が苦心の末に選んだ6つの出来事は次のようなものであった。

   「1.創立のとき」(Present at the creation)では,1876年の米国独立100周年を記念するフィラデルフィア万国博覧会に合わせて同市で開催された初めての図書館員会議の結果,10月6日にALAが結成されたことが論じられる。図書館の利益を増進させ,図書館員及び図書館業務の改善や書誌学の研究に興味を持つすべての人の知識の交換と親善に努めることを目的とした同会の結成に向けて積極的に活動し,結成文書に最初に署名したのはデューイ(Melvil Dewey)だった。

   「2.図書館の戦争奉仕」(The library war service)では,第一次世界大戦中の1917年,ALAが行った兵士への本の配送サービスが取り上げられる。このサービスは,リテラシーを向上させ,人々の間に図書館に対して一層親しみやすさを感じさせるものだった。こうした活動により,公共図書館がアメリカの地域社会にとって必要不可欠なものと認識されるようになっていった。

   「3.「読書の自由」声明の背景」(The story behind the Freedom to Read Statement)では,ALAが米国出版会議とともに,「読書の自由はわれわれの民主主義に不可欠なものである」との一文で始まる「読書の自由」声明(The Freedom to Read Statement)を1953年に発表した経緯が触れられる。これは,1950年代に全米を覆った反共産主義の運動であるマッカーシズム旋風が,共産主義に親和的と見なされた文献を図書館から強制的に排除させたことに対抗したものだった。

   「4.全米図書館週間はどのようにして始まったのか」(How National Library Week got started)では,図書館の支援者と本と読書のかつてないほどの強固な結びつきを示し,大成功を収めた1958年の第1回全米図書館週間の意義に言及している。

   「5.ヒューロンプラザ物語」(The Saga of Huron Plaza)は,20世紀初頭,ボストンやニューヨーク,ワシントンD.C.やマディソンなど様々な候補が取り沙汰されるなかでALA本部がシカゴに決定し,紆余曲折を経て最終的にシカゴの東ヒューロン通り50番地に定着していく過程を紹介する。

   「6.「根拠のないヒステリー?」」(“Baseless hysteria”?)では,2001年9月11日の同時多発テロ事件を受けて制定された米国愛国者法の,「図書館条項」と通称される第215条に対するALAの立場が確認される。捜査のための図書館利用記録の提供に関する条項を含む同法の規定に対し,ALAは利用者のプライバシー保護の観点から反対している。「根拠のないヒステリー」とは,アシュクロフト(John Ashcroft)司法長官(当時)が,愛国者法に反対するALAの立場を皮肉ったものだが,2015年に同規定が失効するまでの間,様々な圧力に屈せずにALAが果たした役割は決して小さくない(E343E462E921CA1547参照)。

   ウィーガンド氏の視点は一見多種多様だが,通常の図書館史が対象とするような制度の変遷や個々の図書館サービスの歴史を追うのではなく,あくまでも利用者の生活のなかに図書館があらわれる瞬間を見極めようとしていることは注目される。そのことは,彼が2015年に出版した米国図書館史に関する著書の書名が“Part of Our Lives: a people’s history of the American public library”であることと無関係ではないだろう。同じような視点で日本の図書館の歴史を振り返ったときに,どのようなトピックが考えられるかという点に思いを巡らせてみるのも意義深いのではないか。

利用者サービス部人文課・長尾宗典

Ref:
https://americanlibrariesmagazine.org/wp-content/uploads/2016/05/AL-0616.pdf
http://www.ala.org/aboutala/history/details-ala-history
https://americanlibrariesmagazine.org/blogs/the-scoop/american-libraries-marks-alas-140th-anniversary/
https://americanlibrariesmagazine.org/2016/01/29/present-at-creation-ala-history/
https://americanlibrariesmagazine.org/2016/02/18/ala-history-library-war-service/
https://americanlibrariesmagazine.org/2016/03/15/freedom-to-read/
https://americanlibrariesmagazine.org/2016/04/13/national-library-week/
https://americanlibrariesmagazine.org/2016/05/05/ala-140-saga-huron-plaza/
https://americanlibrariesmagazine.org/2016/05/31/baseless-hysteria-patriot-act/
http://www.ala.org/advocacy/intfreedom/statementspols/freedomreadstatement
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I026336964-00
E343
E462
E921
CA1547