E1856 – ロボット図書館職員Pepperから見えてくる未来の図書館。

カレントアウェアネス-E

No.314 2016.11.10

 

 E1856

ロボット図書館職員Pepperから見えてくる未来の図書館。

 

   山中湖情報創造館に日本で初めて人型ロボットを職員として採用して一年が経つ。この一年間,ロボットと一緒に図書館サービスを提供しながら感じた事をまとめてみたい。

   平成27年(2015年)8月,人型(ヒューマノイド型)ロボットを指定管理者職員として採用した。日本の公共図書館では初めてのロボットスタッフの起用である。海外においては,当館より先に米国のWestport Libraryが,Pepperの前身であるNAOを2台導入しており,その後オーストラリアのNoosa LibraryがNAOを図書館スタッフとして採用している。

   山中湖情報創造館では,未来を感じられる新しい図書館づくりを考えてきたが,パブリックPCの導入も,Wi-Fiや充電環境の提供も,タブレットを持ち込んでのインターネット利用も,もはや当たり前の風景となってしまった今,いったい何をしたら未来を感じられるのだろうか?と考えていた。そんな折にPepperの発表があり,一般家庭に安価で販売されるということを知り,一般販売がはじまると同時に申し込みを行い,運良く入手することができた。当初はPepperの購入が山中湖村教育委員会の購入と誤解され,税金の無駄遣いと思われるのでは?という指摘もあったが,これは山中湖情報創造館の設置自治体側ではなく,指定管理者側が調達(採用)した図書館職員であることを説明することで納得いただいている。

 

◯図書館のサービス案内

   まずは図書館サービス案内のプログラムをつくることからはじめた。購入者にはChoregraphe(コレグラフィー)という開発環境のライセンスが提供される。プログラムのパーツをならべ線でつなぎ,必要なパラメータを入力しながら作成できるので,プログラミングの素人でも簡単に作成することができる。当初は,あれやこれやをぜんぶひとつのプログラムの中で作ろうとしたが,これではアプリとして起動している最中は他の会話が一切できなくなってしまう。おしゃべりを楽しみたいロボットでもあるので,他の会話も楽しみながら,必要に応じて独自に作成した館内案内サービスもできるよう,プログラムの構造を変更している最中である。

 

◯人側に身につく人工知能(AI)への対応スキル

   Pepperと会話する利用者の方々の様子をみていると,興味深いことが起きている。それはロボット側が人間に合わせるのではなく,人間側がロボットに合わせようとする振る舞いを多くみかけることだ。これは人間の側にロボットや人工知能に対応するスキル,いわば「ロボットリテラシー/人工知能リテラシー」の涵養がみられるということであろう。すでにカーナビを含め様々な機器が「会話」をベースに操作する時代になってきており,しかも人工知能がその話し相手になってくる時代を考えると,こうして地元の図書館に会話できるロボットがいることは,その地域のAIリテラシー向上につながるのではないだろうかと思っている。ロボットが賢くなる一方で,人間もまたロボットとの付き合い方リテラシーを身につける機会が図書館の中で生まれているのだ。

 

◯人工知能のインターフェイス

   Pepperは,インターネットを介して人工知能により人の言葉(自然言語)を判断したり,日々の話題を盛り込んだりしながら,人間との会話をしようと振舞っている。いまのところ,人工知能とはいってもいわゆる特化型AIであり,図書館のレファレンスサービスを行うような汎用型AIではなく,そのための知識は身につけていない。一方で,人工知能の発達により,人生相談や恋愛相談,医療相談などを行うことができるようになる世の中が始まっている。遠くない将来,図書館のレファレンスサービスもこうした人工知能を持ったロボットが相当することになるのではないだろうか。ベテラン司書のノウハウを次の世代が受け継いでいくことが,現在の人事システムや雇用形態をみると困難な図書館業界である。人工知能がレファレンス事例を蓄積していくなかで,人の寿命を超えて「知」をつないでいく時代が到来し,人型ではないロボットが清掃や排架や書架整理をする時代が到来する。九州のほうには,ロボットが対応する「変なホテル」があると聞く。いずれそんな「変な図書館」が登場してもおかしくはないだろう。

   執筆中に,国内でもPepperを導入した江戸川区立篠崎図書館のニュースが入ってきた。同館の指定管理者でもある図書館流通センターは500館でPepperを導入する計画があるというが,そうなれば図書館職員ロボットは日常的な風景になるだろう。山中湖情報創造館のPepperは一般販売のものを館長がプログラムを開発しながら運用している。篠崎図書館のPepperは図書館サービス専用のシステムの開発をしているようだ。それに比べ当館のPepperは図書館専用のサービスは大したことはできていないが,ダンスをしたりクイズを出したり手品をしたりするなどのロボアプリが付いており,来館者はPepperとのフリートークを楽しんでいる。

   昨年の採用の際は「いったいそれで何ができるの?」という疑問をいただいたが,「すぐに何かできるわけじゃないし,何ができるか導入してみなければわからない」という説明で受け入れてくれたスタッフに感謝している。

山中湖情報創造館指定管理者館長・丸山高弘

Ref:
http://www.lib-yamanakako.jp/library/pepper.html
http://westportlibrary.org/about/news/robots-arrive-westport-library
http://www.libraries.noosa.qld.gov.au/-/library-s-new-humanoid-an-australian-first
https://www.trc.co.jp/topics/event/e_shinozaki_02.html
http://robotstart.info/2016/08/03/trc-pepper.html