E714 – 図書館蔵書デジタル化の「パートナー」をどう選ぶか?

カレントアウェアネス-E

No.117 2007.11.14

 

 E714

図書館蔵書デジタル化の「パートナー」をどう選ぶか?

 

 Googleによる書籍検索サービス「Googleブック検索」,またその対抗馬としてMicrosoftが展開している“Live Search Books”のいずれかと提携して,蔵書を大規模にデジタル化する図書館が増えている中,誰もが自由に利用できるという「オープン」の考え方を尊重し,Internet ArchiveとYahoo!が主導するデジタル図書館プロジェクト“Open Content Alliance(OCA)”(E392参照)に参加して大規模なデジタル化を進める図書館も出てきている。2007年10月22日付けのNew York Times紙が,米国の図書館における蔵書デジタル化のパートナー選びの戦略について紹介する記事を掲載している。

 この記事によると,Googleと提携してデジタル化する場合,デジタル化費用はGoogleが負担してくれるが,デジタル化された資料はGoogle以外の商用検索サービスに提供してはならないという条件に合意しなくてはならないという。OCAに“MSN”として名前を連ねているMicrosoftも,OCAに参加した当初は自由利用を認めていたものの,“Live Search Books”を開始した以後は,同様の制限を設けているという。これに対しOCAの場合は,1冊あたり,およそ30ドルのデジタル化費用を図書館が供出しなければならないが,デジタル化された資料はいかなる検索サービスからも利用できる。Internet Archiveの設立者で,OCAの産みの親でもあるケール(Brewster Kahle)氏は,この記事やLibrary Journal誌2007年8月15日号に掲載されたインタビューにおいて,GoogleやMicrosoftが著作権の保護期間が切れているデジタル化済み資料を無償でダウンロードできるようにしている点を評価しながらも,一営利企業がパブリックドメイン=公の所有物であるはずの資料のデジタル化・流通を独占することになりかねないことを危惧し,「皆が様々な方法で利用できる共同のコレクションを作るコミュニティプロジェクト」から端を発したOCAの「オープン」という理念の重要さを強調している。

 このケール氏の見解のとおり,2007年9月にボストン図書館コンソーシアムの一員としてOCAに参加することを発表したボストン公共図書館は,GoogleおよびMicrosoftと交渉を行い,各々の商業的な価値を理解した上で,すべての人が利益を得られる方法での配布を認めているOCAを選択した,としている。2007年11月12日の段階でウェブサイトで公開されている情報によれば,ボストン公共図書館のようにOCAに参加している図書館は80強(ただし分館等も含む)と,Googleの29,Microsoftの6を上回っている。もっともこの数字には,より早くデジタル化できる,リスクを分散させることができるといった理由で複数に参加している図書館(カリフォルニア大学図書館など)も含まれている。

 費用負担の少なさを重視する,理念を重視する,リスク分散を重視するなど,いくつか選択肢が存在する状況において,各々の図書館がどのような理由でどのようなデジタル化戦略を取るのか,またそれによって各プロジェクトはどのように進展していくのか,今後の展開が大変興味深い。

Ref:
http://www.nytimes.com/2007/10/22/technology/22library.html
http://www.nytimes.com/2007/10/22/technology/22library.html?pagewanted=2
http://www.blc.org/news/blc_oca_release.html
http://ia350616.us.archive.org/1/items/bostonpubliclibrary/BLPagreementnosignatures.pdf
http://www.libraryjournal.com/article/CA6466634.html
http://www.opencontentalliance.org/contributors.html
http://books.google.com/googlebooks/partners.html
http://help.live.com/Help.aspx?market=en-US&project=BookSearchHelp&querytype=topic&query=BookSearchHelp_CONC_ObtainBooks.htm
E392