カレントアウェアネス-E
No.524 2026.06.11
E2886
著作物の裁定制度における国等の例外規定の実質的な廃止
人間文化研究機構・鈴木康平(すずきこうへい)
●はじめに
従来、国や地方公共団体など(国等)が著作物の裁定制度を利用する場合は、例外的に補償金の事前の供託が免除され、権利者が見つかった後に補償金を支払えばよいとされていた。しかし、2026年4月以降に裁定を申請する場合は、国等も事前に補償金を支払うことが求められるようになった。本稿では、裁定制度における国等の例外規定の実質的な廃止について簡単に紹介する。
●裁定制度における国等の例外規定
日本の著作権法には、権利者が不明等である著作物の裁定制度(以下「権利者不明等裁定制度」。CA1873、E2277参照)と、著作権等管理事業者に管理されておらず、かつ、利用可否に関する権利者の意思が確認できない著作物の裁定制度(以下「未管理著作物裁定制度」。E2800参照)がある。未管理著作物裁定制度は、令和5(2023)年改正(令和5年法律第33号)で新設されたものである。2つの裁定制度の詳細は、文化庁ウェブサイトで公開されている「裁定の手引き」や「裁定の手引き 概要版」の最新版を参照されたい。なお、2つの裁定制度は、著作隣接権の対象である実演、レコード、放送、有線放送にも準用されている(著作権法103条。以下「著〇条」と略す)。
裁定制度を利用して文化庁長官の裁定を受けた場合、使用料相当額の補償金を事前に供託する必要がある(著67条1項、著67条の3第1項)。ただし、権利者不明等裁定制度において、申請者が国等である場合には、補償金の供託が免除され、権利者と連絡が取れるようになったときに補償金を支払えばよいという例外規定がある(著67条2項)。この規定は、アーカイブの利活用促進の一環として、平成30(2018)年改正(平成30年法律第30号)において新設されたものであった。未管理著作物裁定制度においても、同様の例外規定が設けられている(著67条の3第11項)。
●国等の例外規定の実質的な廃止
令和5年改正では、未管理著作物裁定制度の導入とともに、2つの裁定制度に関する手続の迅速化・簡素化と適正な手続を実現するために、民間機関を「指定補償金管理機関」として文化庁長官が指定し、その機関が窓口となって補償金管理業務(補償金の受領や権利者への支払など)を行う仕組みが新設された。そして、指定補償金管理機関が補償金管理業務を行う場合は、国等の例外規定は適用されず(著104条の21第1項)、補償金の供託に代えて、指定補償金管理機関に補償金を支払うものとされた(同2項)。
指定補償金管理機関として、公益社団法人著作権情報センターが指定されており、2026年4月から補償金管理業務が行われている。したがって、2026年4月以降に裁定の申請をし、文化庁長官の裁定を受けた場合は、国等の例外規定は適用されず、国等も指定補償金管理機関に補償金を支払う必要がある。国等の例外規定自体は残っているものの、適用されることになる状況は考えにくく、実質的に廃止されたと言えよう(ただし、申請中利用の担保金(著67条の2第1項)には、国等の例外規定(同2項)が引き続き適用される)。
実質的に廃止された理由について、文化庁著作権課による令和5年改正の解説では、概略、次のように説明されている。国等の例外規定が平成30年改正で新設されたのは、供託の手続的負担を回避し、裁定制度の利用を円滑化するためであった。しかし、令和5年改正で新設された指定補償金管理機関に係る制度が機能する場合には、そもそも供託手続は行われない。そうすると、国等の例外規定を設けた理由である供託の手続的負担もなくなる。したがって、国等も他の利用者と同様に、指定補償金管理機関に対して補償金を事前に支払うものとされた。
●おわりに
今回の法改正により、国等も指定補償金管理機関に一括で補償金を支払うことになるため、従来のように権利者が見つかるごとに個別にやり取りして補償金を支払うよりも手続的負担が小さくなると考えられる。
一方で、国等の例外規定は、もともとアーカイブの利活用促進の一環として整備されたものであった。もし、その実質的な廃止により、アーカイブの利活用が従来よりも停滞するようであれば、国等の例外規定には供託の手続的負担の軽減以外の意義もあった可能性がある。そのような場合には、今回の改正の見直しも検討する必要があるだろう。
※本稿は、『デジタルアーカイブの権利処理入門』(勉誠社、2026)の筆者執筆章の一部を改稿したものである。
Ref:
“著作権者不明等の場合の裁定制度”. 文化庁.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/1414110.html
“未管理著作物裁定制度”. 文化庁.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/tyosakubutsu/index.html
文化庁著作権課. 裁定の手引き 概要版. 2025, 11p.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/tyosakubutsu/pdf/94314901_01.pdf
文化庁著作権課. 裁定の手引き. 2026, 123p.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/tyosakubutsu/pdf/94342301_01.pdf
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https://www.kanpo.go.jp/old/20251118/20251118h01591/20251118h015910006f.html
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https://sss.cric.or.jp/
文化庁著作権課. 著作権法の一部を改正する法律(令和5年改正)について. p. 22, 36.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r05_hokaisei/pdf/93999801_01.pdf
文化庁著作権課. 著作権法の一部を改正する法律(平成30年改正)について(解説). p. 12, 21, 47-49.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/pdf/r1406693_11.pdf
鈴木康平. “アウト・オブ・コマース著作物の権利処理:2つの裁定制度の比較をふまえて”. デジタルアーカイブの権利処理入門. 数藤雅彦責任編集, 小山紘一ほか編. 勉誠社, 2026, p. 138-157.
星川明江. 権利者不明著作物の活用促進について. カレントアウェアネス. 2016, (328), CA1873.
https://current.ndl.go.jp/ca1873
長野栄俊, 田川雄一. 文化庁長官裁定制度による明治期地方紙のインターネット公開. カレントアウェアネス-E. 2020, (394), E2277.
https://current.ndl.go.jp/e2277
文化庁著作権課. 2026年度から始まる未管理著作物裁定制度について. カレントアウェアネス-E. 2025, (504), E2800.
https://current.ndl.go.jp/e2800
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