カレントアウェアネス-E
No.524 2026.06.11
E2885
横浜市立図書館におけるAIの活用に向けた取組
横浜市中央図書館・澤田るい(さわだるい)
近年、図書館においてAI活用の動きが広がっており、横浜市立図書館においても複数のサービス導入を試みている。本稿においては、導入の背景と、主に二つの取組について紹介する。
●導入の背景
当館がAI活用に取り組む背景には、蔵書検索やレファレンスといった既存サービスが、情報を扱うという点でAIと親和性が高いということに加え、市全体でのDX推進がある。2022年9月に策定された「横浜DX戦略」では、業務効率化の観点からAIの活用が示され、「横浜市中期計画2026~2029」においては、市民サービス向上の観点からも利活用の可能性が示されている。
一方で生成AIは、誤った情報の提供リスクも伴うため、市民サービスにおける活用については、慎重な運用が求められる。自治体図書館においては、図書館単体ではなく、自治体全体での方針との整合性をもって進める必要がある。
●蔵書探索AI
青山学院大学と富士通Japan株式会社が共同開発したものであり、2024年1月に全国に先駆けて導入した。利用者が入力した語句をAIが拡張・類推し、関連性の高い図書を紹介するもので、従来の検索とは異なった観点の本と出会うことができる。学習データは書誌情報に限定し、50文字以上の情報量をもつ書誌データのみを対象とすることで、入力語句とAIが提示する結果が大きく乖離することを防いだ。どんな言葉を入力しても検索結果がゼロにならない安心感がある一方で、著者名を正確に入れても、該当著者の本が上位に挙がってこない、といった指摘もある。本が特定されている場合はこれまで通りの蔵書検索を、偶発的な本との出会いを楽しむには蔵書探索AIを、というように、各々の長所に合わせた使い方を案内している。
●AIとお話ししながら本を探す
音声応答AIを活用したサービスで、「ことばデータベース」を提供しているSHANRI株式会社との連携により、2025年12月から2026年3月まで実証実験を行った。利用者が、AIと対話を繰り返しながら、興味や気持ちを整理する過程で生成されたキーワードを、上述の蔵書探索AIに連携して関連図書を紹介するウェブサービスである。
本サービスでは生成AIを用いている。本市において、市民サービスでの生成AIの活用にあたっては、市民が入力した内容が生成AIの学習に利用されない仕組みであること、生成AIの回答が必ずしも正確でないことを踏まえた運用であること等が求められる。そのため、本サービスでは、生成AIの役割を、蔵書検索の体験向上の補助、対話の自然化、検索語句の補完用途で利用することを前提として運用された。
短期間の実証実験ながら、読書へのインセンティブがなくても、対話を通じて関心や心の動きが明確化し、図書との新たな接点が生まれる効果も見られた。また、本サービスを紹介する趣旨で開発関係者を講師に招いて開催した、講座「スマホで体験する 図書館×AI」は好評で、市民の関心の高さがうかがえた一方、生成AIへの漠然とした不安なども見られ、図書館におけるAIリテラシー教育の必要性を実感する機会となった。
●まとめ
この他にも、AIを活用した絵本推薦システム「ぴたりえ」シリーズ(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)も実証導入中である。これらの取組を踏まえ、今後は、以下の点に留意して取り組んでいくことが重要ではないかと考える。
- 図書館が学びの場であるということも踏まえ、誰もがAIを適切に活用できるように学習機会を提供し、市民のリテラシー向上に貢献すること。
- より多くの市民が、AIをフックとして、最終的には本や司書、図書館といったリアルな体験とつながること。
引き続き、多様な実証実験を踏まえながら、AIの利活用について検討を進めていきたい。
Ref:
“「横浜DX戦略」について”. 横浜市.
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/gyosei-kansa/yokohamadx/dx-strategy/dx-strategy.html
“横浜市中期計画2026~2029(原案)”. 横浜市.
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/seisaku/hoshin/4kanen/2026-2029/genan.html
“蔵書探索AI”. 横浜市立図書館.
https://newopac.library.city.yokohama.lg.jp/home
“【革新技術と社会共創研究所】富士通Japanとの共同研究において、AIを活用した蔵書探索システムを開発し、横浜市立図書館に導入”. 青山学院大学. 2023-12-15.
https://www.aoyama.ac.jp/center104/2023/news/20231215_01
横浜市.“【全国初!蔵書検索AIを導入】横浜市立図書館で情報システムリニューアル!”. PR TIMES. 2023-12-22.
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001278.000013670.html
SHANRI株式会社. “横浜市立図書館「AIとお話ししながら本をさがす」実証実験を実施”. PR TIMES. 2026-02-10.
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000032.000061997.html
“新たなデジタル技術の導入”. 横浜市.
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kyodo-manabi/library/unei/digital-innovation.html
SHANRI株式会社.“図書館でAIを学ぶ時代へ ヨコハマライブラリースクールでAIと新しい本探し体験講座を実施”. PR TIMES. 2026-03-18.
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000035.000061997.html
“絵本検索システム「ぴたりえ」”. NTT研究開発. 2018-08-27.
https://www.rd.ntt/research/CS0036.html
横浜市. 親子でもっと楽しめる野毛山に!動物園と図書館を一部リニューアルします~のげやまインクルーシブ構想第1弾~. 2025.
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/kankyo/2024/0228nogeyama.files/0003_20250228.pdf
“「ぴたりえタッチ」、「ぴたりえ」で絵本と出会えます!”. 横浜市.
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kyodo-manabi/library/tshokan/kanagawa/oshirase/pitarie.html
