カレントアウェアネス-E
No.489 2024.10.17
E2739
「きくち圏域電子図書館」の歩みと今後の展望
菊池市立図書館・長尾美穂(ながおみほ)
菊池市立図書館は、熊本県北東部に位置する、中央館1館分館3館からなる公立図書館である。2024年7月、当館を含む菊池圏域の2市2町(菊池市・合志市・菊陽町・大津町)の公立図書館が参加する広域電子図書館「きくち圏域電子図書館」が実現した。本稿では、実現までの経緯と現状、今後の展望を紹介する。
●実現までの道のり
2017年、菊池市は1階に菊池市中央図書館、2階に中央公民館を備えた複合施設、菊池市生涯学習センターKiCROSSをオープンした。中央図書館の開館にともない、「学びの地域格差をなくしたい」との思いから電子図書館の導入を検討した。当初は熊本県全域で利用できる電子図書館を提案しようとしたが、時期尚早との声も多く、まずは「きくち圏域電子図書館」として菊池圏域の公立図書館との広域連携を目指した。導入に際しては、全国の事例を収集した。
菊池圏域の各自治体に、広域電子図書館への参加の検討を依頼した。各自治体には、集めた情報を共有し、共同で運営すればランニングコストが下げられることなどのメリットを示し、説明をした。しかし、「紙の資料の予算が減るのではないか」「運営方法や利用方法が具体的にイメージできない」「電子書籍はタイトル数も少なく、ジャンルも充実しておらず、時期尚早」などの意見が寄せられ、2017年の中央図書館開館時には、菊池市単独で電子図書館を導入することとなった。各自治体には、引き続き参加の検討を依頼した。
その後、新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともない、電子書籍貸出サービスの需要が増したことによって、2020年12月に大津町、2023年10月に菊陽町、そして2024年7月に合志市が参加した。菊池市中央図書館が開館して7年、菊池圏域2市2町すべてが参加する「きくち圏域電子図書館」となった。
●電子図書館の概要と利用状況
菊池市が代表して電子書籍サービス事業者と契約し、他参加自治体から負担金を徴収し、窓口として支払いを行っている。初期費用は菊池市が負担し、ランニングコスト(クラウド使用料)は参加自治体で均等割している。電子図書館の管理権限については全自治体同一であり、電子図書館ウェブサイトの編集や、資料登録などができる。資料については、各自治体が選書し、予算にあわせて購入している。
2024年9月26日現在、電子図書数は合計1万1,454点である。その内、有期限900点、買切り2,168点、青空文庫等8,338点、図書館が独自に追加した資料48点である。一般書・実用書が9割を占め、絵本・児童書が約1,200点、オーディオブックが48点である。
現在の貸出ルールは、1人3点まで15日間、貸出延長は予約が入っていなければ1回可能で、予約は3点までとしている。貸出回数については、菊池市単独だった2019年度は415点だったが、2023年度には1万342点に増加した。2024年7月に合志市が加わったことで、今後さらなる貸出回数の増加が期待される。
●当館と市内学校図書館との連携
菊池市では、2024年度から市内全小中学校(15校)の学校図書館に当館から司書を派遣しており、日頃から連携を密にしている。例えば、2023年、児童生徒用タブレット端末にフィルタリングがかかっており、当館のウェブサイトにアクセスできず、電子図書館の利用もできない状況であることが発覚したが、対応が進まずにいた。しかし、2024年度、司書の派遣により学校との連携体制を築いたことで改修も進み、8月にはフィルタリングを解除した。さらに、当館のデジタルアーカイブときくち圏域電子図書館のショートカットアイコンを作り、タブレット端末のホーム画面に追加し、利用環境を整備することができた。そのほか、デジタル田園都市国家構想交付金を得て、学校を含む図書館のDX化事業も進めている。電子とリアル、双方の図書館活用を推進するためにも、こうした学校図書館との連携は重要であると考えている。
●活用される電子図書館を目指して
電子図書館は、地域の格差なく活用でき、学びの機会均等を得られることが魅力である。公平な学びの機会を提供するためにも、その活用方法を広く発信し、さらなるコンテンツの充実を図りたいと考えている。
電子図書館の新たなコンテンツとしては、各図書館が独自に編集・制作する資料「郷土資料」に可能性を感じている。例えば、当館では館の司書が作る雑誌『KiCROSS TIMES』、おおづ図書館(大津町)では地域の子供の創作絵本などを、「郷土資料」として電子図書館に掲載している。公民館や文化団体、学校と連携して制作した資料をコンテンツに加えることで、電子図書館を地域の文化活動・教育活動の成果発表の場、出版活動の拠点としても活用できるのではないかと考えている。
コンテンツを貸し出すことで学びの機会を提供するだけではなく、電子出版活動の場、学びの可能性を広げる場としても、電子図書館を育てていくことが、きくち圏域電子図書館の次なる目標である。
Ref:
きくち圏域電子図書館.
https://web.d-library.jp/kikuchi/g0101/top/
菊池市立図書館.
https://www.library-kikuchi.jp/
“12月から電子図書館サービスが始まりました”. おおづ図書館. 2020-12-01.
https://www.ozu-lib.jp/news/2020/4161/
“10月から電子図書館が始まりました”. 菊陽町図書館. 2023-10-01.
https://www.kikuyo.library.ne.jp/%EF%BC%91%EF%BC%90%E6%9C%88%E3%81%8B%E3%82%89%E9%9B%BB%E5%AD%90%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8%E3%81%8C%E5%A7%8B%E3%81%BE%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F/
“7月から「きくち圏域電子図書館」が利用できます”. 合志市立図書館. 2024-06-25.
https://www.koshi-lib.jp/news/2024/857/
磯部ゆき江. 広域連携による電子図書館 : きくち圏域・たまな圏域・ありあけ圏域の事例から. 未来の図書館研究所調査・研究レポート. 2023, (7), p. 176-202.