カレントアウェアネス-E
No.489 2024.10.17
E2740
日本玩具博物館50年の歩みと活動継承への取り組み
日本玩具博物館・尾崎織女(おさきあやめ)
●個人が創設した博物館の歩み
日本玩具博物館(兵庫県姫路市)は、現館長の井上重義が創設した私立博物館である。
1963年、若き日の井上館長は、一冊の本『日本の郷土玩具』(斎藤良輔著/1962年・未来社刊)に触発され、加速する近代化のなかで姿を消していく郷土玩具を残そうと、会社勤めのかたわら全国を歩いて収集を始める。1974年、収集品公開のために私費で「井上郷土玩具館」を開設。その後も資料の充実と施設の拡充に努め、1984年、館名を「日本玩具博物館」に改称する。1990年には学芸員が着任し、スタッフ一同、資料の収集・保存、調査・研究、展示、教育・普及という4つの機能を備えた博物館づくりに奮闘してきた。
現在は、白壁土蔵造6棟の建物に日本と世界の玩具資料、約9万点を所蔵する。館内外での多彩な展示企画や伝承玩具教室の開催など、継続的な博物館活動が社会的信頼を受け、1998年には個人経営ながら博物館法の規定に基づく「博物館相当施設」(現「指定施設」)に認可された。同年に「サントリー地域文化賞」、2007年には井上館長が文部科学大臣より「地域文化功労者表彰」を受け、国際観光面では2016年に「ミシュラン・グリーンガイド」二つ星の評価を得ている。
●多彩なコレクション群
当館のコレクションには、大きく分けて日本の郷土玩具、近代玩具、伝統人形、伝承手芸資料、世界の玩具の5つのグループがある。項目別には、日本の郷土凧や郷土独楽、雛人形、世界の民族人形や動物玩具、乗り物玩具、発音玩具、クリスマス飾り、裁縫細工物などが代表的なコレクション群で、国別に分類すれば、日本、ドイツ、メキシコ、中国の資料が大きなボリュームを占めている。
多彩なコレクション群形成には、井上館長が収集した郷土玩具を基盤としてフィールドを世界へ広げ、調査・収集活動を自由自在に展開できたこと、幾人もの著名な収集家からコレクション寄贈を受けたことが大きな力となっている。世界の玩具については、現地へ出向いて収集するほか、各国の民芸品を輸入する業者を介しての入手や欧州の玩具博物館との交換収集にも力を注いできた。
当館では、こうしたコレクションに様々な方向から光を当てることで、時空をこえる玩具の普遍性を描き、同時に小さな造形が表現する民族性や地域性、時代性を導き出すことをテーマとして館内外での展示活動を続けている。
●コレクションと事業継承のために
2024年11月に開館50周年を迎える当館では、設立以来、その使命に「人々の玩具文化への理解を深め、玩具の文化財としての評価を高めること」を掲げてきた。この使命を果たすべく、現在新たな取り組みを進めている。そのなかの一つは、2022(令和4)年度と2023(令和5)年度に文化庁のInnovate MUSEUM事業の採択を受け、コレクションのデジタル化に着手したことである。専門業者作成のシステムを使用して、書庫に積み上がる受け入れ台帳や写真資料、また新たに撮影した画像を「日本玩具博物館 収蔵品データベース」に登録している。そのなかから、テーマごとに希少性の高い20~40件を選んで公式ウェブサイト内で企画展として公開を始めた。2024年7月の「戦前の琉球玩具」を皮切りに、8月は「世界のままごと道具」、9月は「1920年代後半の朝鮮玩具」、10月は「世界の仮面」を取り上げた。11月は「世界の動物玩具」、12月は冬の特別展と連動して「世界のクリスマス玩具」の公開を予定している。
コレクション形成や展示・普及活動を通して、博物館や団体、個人とつながり、それぞれが持つコレクション情報を共有しながら、玩具文化をともに探究できるネットワークづくりを目指したい。デジタルアーカイブの充実と公開はその一助になると考えている。
Ref:
日本玩具博物館.
https://japan-toy-museum.org
斎藤良輔. 日本の郷土玩具. 未来社, 1962, 253p.
日本玩具博物館 収蔵品データベース.
https://jmapps.ne.jp/japan_toy_museum/
“日本玩具博物館開館50周年記念 デジタルコレクション・1「戦前の琉球玩具」”. 日本玩具博物館.
https://japan-toy-museum.org/archives/exhibition/plan/50thwebryukyu
“日本玩具博物館開館50周年記念 デジタルコレクション・2「世界のままごと道具」”. 日本玩具博物館.
https://japan-toy-museum.org/archives/exhibition/plan/50thwebmamagoto
“日本玩具博物館開館50周年記念 デジタルコレクション・3「1920年代後半の朝鮮玩具」”. 日本玩具博物館.
https://japan-toy-museum.org/archives/exhibition/plan/50thwebkorea
“日本玩具博物館開館50周年記念 デジタルコレクション・4「世界の仮面」”. 日本玩具博物館.
https://japan-toy-museum.org/archives/exhibition/plan/50thwebmask
“日本玩具博物館開館50周年記念 動画デジタルコレクション「動きや音が楽しい郷土玩具」”. 日本玩具博物館.
https://japan-toy-museum.org/archives/exhibition/plan/50thwebvideo