E2741 – 石見銀山から、バーチャルを活用した「とどける博物館」

カレントアウェアネス-E

No.489 2024.10.17

 

 E2741

石見銀山から、バーチャルを活用した「とどける博物館」

石見銀山資料館・佐藤愛(さとうまな)

 

  石見銀山資料館は、島根県大田市、世界遺産石見銀山史跡の町並みの玄関口に建つ、鉱山資料の展示や調査研究を行う博物館である。1976年に開館し、まもなく創立50周年を迎える今、能動的に博物館を「届ける」アウトリーチ活動に取り組んでいる。本稿では、当館が取り組む所蔵資料のデジタル化とアウトリーチ活動「とどける博物館」について紹介する。

●所蔵資料のデジタル化とバーチャル展示

  島根県では、山間部等の中心市街から離れた場所に住む人の場合、博物館に辿り着くまでに公共交通機関を用いても片道2、3時間を要する。当館は、こうした地方の交通条件といった地理的理由のほか、経済的、身体的理由で博物館に行けない人々がいる環境に目を向け、本来は平等に開かれた生涯学習の場である博物館として社会的包摂を目指してきた。

  まず、博物館を「届ける」ために、所蔵資料のデジタル化に取り組んでいる。古文書や絵巻、絵画といった平面作品はスキャン、また鉱物や民具などは3Dデータ化し、それらのデジタルデータをアーカイブとして整理していく。その整理したデジタルアーカイブを、離れた地域にいる人に見てもらい、また理解してもらう手法として光を見出したのが、バーチャルの活用である。仮想空間に博物館展示を作るプラットフォーム「Virtualion®︎(バーチャリオン®︎)」と出会い、活用を行っている。

  仮想空間にデジタル化した資料を展示するバーチャル展示では、展示ケース内ではすべてを広げられない長尺の絵巻物や、保存の観点で現実では展示が困難な資料を制限なく公開できるほか、これまで博物館内の学芸員に限定されがちだったキュレーション作業の間口を広げ、より多くの人々が博物館活動に関わることを可能にしている。

●「とどける博物館」活動について

  バーチャル展示は、2022年の博物館法改正により努力義務化された博物館の所蔵品のデジタルアーカイブを、専門家に限らず一般に触れる場所としての役割を果たしている。当館では、常設で公開していない資料を用いたバーチャル展示を制作し、地域の放課後児童クラブや福祉施設に赴いて、モニター等に展示を写しながら学芸員がギャラリートークを行っている。

  また当館では、「Virtualion®︎」のバーチャル展示機能を使って、学生や福祉施設にいる人々が、アート作品などをバーチャル空間で展示するワークショップにも取り組んでいる。美術部の高校生が自分達の作品でバーチャル展示を作り、それを用いて学外の催しで発表することや、就職、受験活動に利用することもサポートしている。認知症ケアを行う福祉施設で行ったワークショップでは、モニターに映し出しながら利用者が描いた絵を用いてバーチャル展示を制作し、それを見て対話を行った。絵を描いた人からは「画家になった気分。自宅にしまっている絵も展示したい。」などの反響があった。このように、発表の機会を持てずにいた作品を紹介する場としての活用を進めている。

●「とどける博物館」の進展のために

  こうした活動を実現するために、当館では2024年度の夏にクラウドファンディングで活動資金の調達にも取り組んだ。クラウドファンディングを通して、資金調達に留まらず当館の問題意識や活動指針の広報も行った。また、資料のデジタル化やキュレーションに関するワークショップの実施のほか、民家にある地域資料回収などに携わる「つながり学芸員」を募り、「とどける博物館」に参加する人を増やしていくことにも取り組んでいる。このように、バーチャルを活用することで資料に触れたり展示を作ったりすることのハードルを下げ、より多様な人が関わる方法を模索することで、持続可能な博物館の在り方を目指している。

Ref:
いも代官ミュージアム(石見銀山資料館).
https://igmuseum.jp/
“バーチャルを活用した「とどける博物館」の活動にご支援を!”. READYFOR.
https://readyfor.jp/projects/iwamiginzan_museum
Virtualion. Inc.
https://virtualion.co.jp/