E2723 – 情報メディア学会第23回研究大会シンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.485 2024.08.08

 

 E2723

情報メディア学会第23回研究大会シンポジウム<報告>

八洲学園大学生涯学習学部・下山佳那子(しもやまかなこ)

 

  2024年6月22日、情報メディア学会第23回研究大会が、跡見学園女子大学文京キャンパスにおいて、オンライン形式とのハイブリッドで開催された。当日は、会場40人以上、オンライン50人弱の参加者があった。本稿では、基調講演とシンポジウムの概要を紹介する。

●基調講演

  木村麻衣子氏(日本女子大学)が、「AIで作れるでしょと言われてしまう日本の図書館目録について」というテーマで基調講演を行った。

  講演の中で、木村氏は、今回の話題に関わる目録の側面として、知識体系の表現手段、コレクションのリスト、ディスカバリー・ツールの3点を説明した。特にディスカバリー・ツールとしての日本の図書館目録の問題点として、件名標目からの網羅的検索の困難さ、件名標目以外の標目のコントロールの不完全さ、(目録によるが)同一情報資源の識別の難しさ、およびこれらの問題点への関心の低さがあることを指摘した。つまり現状は国際図書館連盟(IFLA)図書館参照モデル(Library Reference Model;CA1923参照)の「発見」「識別」「探索」タスクに十分に対応できておらず、かつこれらの問題点は、人間による解決も困難であることから、生成AIによる解決も不可能であると述べた。

  今後、AI活用で目録作業のうち単純作業が減り、それに伴って目録担当職員(カタロガー)が減少しても、高度な作業は人間が行うため、現状の人材の養成方法では課題がある。そして、人員の減少に任せて目録の質が下がれば、「発見」「識別」は今以上に果たせず、結果としてパブリックサービスの質も低くならざるを得ないことから、目録の問題は図書館の価値にも関わっている、と強い危機感を示した。最後に、目録に関連する業務のうち、「現在の生成AIにできること」「できるかもしれないこと」「できないこと」を表に整理した形で提示した。

●シンポジウム「目録の現状と課題:意義を再確認する」

  まず、コーディネーターの今野創祐氏(東京学芸大学)が、シンポジウムの背景として、近年の国内外の目録の動向について説明したうえで、改めて図書館界における目録の現状と課題、および意義を再確認したいと趣旨説明を行った。

  次に、渡邊隆弘氏(帝塚山学院大学)が「件名標目表の現状とこれから」というテーマで、基本件名標目表(BSH)と国立国会図書館件名標目表(NDLSH)との関係性について話題を提供した。まず、BSH第4版の特徴と意義、公表後の変化、実際の件名付与の状況について説明した。そのうえで、BSHは歴史的な任務を終えており、今後の標準件名標目表はNDLSHで良いのではないかという意見を示した。また、その根拠として、現行形式でのBSH維持の困難さと、NDLSHの優位性、および既に実質的にBSHとの統合がなされていることを説明した。ただし、一館の件名標目表に標準をゆだねるよりも、何らかの共同体制の構築が望ましく、その一例として、米国議会図書館件名標目表(LCSH)に対する、共同目録プログラム(Program for Cooperative Cataloging:PCC)の主題典拠共同プログラム(Subject Authority Cooperative Program:SACO)の仕組みを挙げた。

  続いて、橋詰秋子氏(実践女子大学)は「組織法において「著作」とは何か、なぜ重視されているのか」というテーマで、著作の典拠データ作成の概要とその必要性について話題を提供した。FRBR(CA1480CA1713参照)モデルの知的・芸術的成果を示す4つの実体群(著作、表現形、体現形、個別資料)の中で、著作が目録法の中心であったことを説明し、関連する研究の変遷を示した。続いて、著作の典拠データの意義を複数示したうえで、著作の境界線には曖昧さが残るため、カタロガーは知的判断が求められ、そのための経験とスキルが重要とされていると指摘した。日本では、これまでの蓄積が乏しい中、『日本目録規則2018年版』(NCR2018)によって著作の典拠データ作成が始まったことから、カタロガーの育成と支援が大きな課題になっていると述べた。

  パネルディスカッションでは、参加者から、目録作成業務と生成AIとの関わりや、目録作業の最終的な責任性、典拠データの重要性を現場に認識してもらうための方策などに関する質問が寄せられ、パネリストからは、それに対する回答がなされたほか、関連する議論が行われた。また、組織化に興味を持った参加者には、研究開発や、日本図書館研究会情報組織化研究グループ等での情報収集などに踏み出してほしいというメッセージが伝えられた。

  目録の未来、ひいては図書館の未来に対する危機感が共有された。図書館関係者一人一人が、できることを主体的に模索し、取り組むよう求められる段階に来ていると言えるのではないだろうか。

Ref:
“第23回研究大会開催のご案内<開催されました>”.情報メディア学会.2024-05-30.
https://www.jsims.jp/kenkyu-taikai/yokoku/23.html
第23回情報メディア学会研究大会発表資料.東京, 2024-06-22.情報メディア学会. 2024, 26p.
木村麻衣子.“AIで作れるでしょと言われてしまう日本の図書館目録について”.第23回情報メディア学会研究大会発表資料.東京, 2024-06-22.情報メディア学会. 2024, p. 3-6.
https://www.jsims.jp/kenkyu-taikai/yokoku/jsims_2024_lecture.pdf
“Program for Cooperative Cataloging”. LC.
https://www.loc.gov/aba/pcc/
“SACO – Subject Authority Cooperative Program”. LC.
https://www.loc.gov/aba/pcc/saco/
日本図書館研究会情報組織化研究グループ.
https://josoken.digick.jp/index.html
和中幹雄. IFLA Library Reference Modelの概要. カレントアウェアネス. 2018, (335), CA1923, p. 27-31.
https://doi.org/10.11501/11062627
和中幹雄. AACR2改訂とFRBRをめぐって―目録法の最新動向―. カレントアウェアネス. 2002, (274), CA1480, p. 11-14.
https://doi.org/10.11501/1012089
和中幹雄. 目録に関わる原則と概念モデル策定の動向. カレントアウェアネス. 2010, (303), CA1713, p. 23-27.
https://doi.org/10.11501/1166472