E2722 – 『図書館員のための「やさしい日本語」』刊行イベント<報告>

カレントアウェアネス-E

No.485 2024.08.08

 

 E2722

『図書館員のための「やさしい日本語」』刊行イベント<報告>

日本図書館協会多文化サービス委員会・阿部治子(あべはるこ)

 

  2024年6月15日、日本図書館協会(JLA)が、『図書館員のための「やさしい日本語」』刊行記念イベントとして、「あなた1人からでもはじめられる図書館員のための「やさしい日本語」」を開催した。本イベントは、第1部「本の製作裏話」と、第2部パネルディスカッション「図書館からまちづくりを考える~図書館×「やさしい日本語」×共生~」の2部構成である。当日は全国各地から定員の50人を超える参加者を迎えることができた。本稿では本イベントの概要を報告する。

●『図書館員のための「やさしい日本語」』とは?

  JLAは、図書館員が言葉と心のバリアフリーを1人からでも実践できるよう、『図書館員のための「やさしい日本語」』(JLA Booklet no.15)を2023年11月に刊行した。

  「やさしい日本語」とは、外国人や高齢者、障害のある人などを対象に、相手に合わせてわかりやすく、伝わりやすい言い方に換えることであり、本書では主に外国人住民向けのものを紹介している。刊行からわずか3か月弱で増刷が決まるなど、予想以上の反響を受けて、JLA、企画者、共著者とで話し合い、本書を作る上で大切にしたこと、伝えたいことを語る場を設けることを決め、参加者との対話を中心とした本イベントを企画した。

●第1部「本の製作裏話」

  第1部は、筆者が司会となり、まず本書の概要・構成について、加藤佳代氏(神奈川県立地球市民かながわプラザ(あーすぷらざ)外国人教育相談コーディネーター)が説明した。続いて、槇盛可那子氏(JLA出版委員会委員)、新居みどり氏(NPO法人国際活動市民中心(CINGA)コーディネーター)、樋渡えみ子氏(JLA出版委員会委員)が登壇し、製作の裏話を語った。ほかにも、司書でありイラストレーターでもある竹丸たかゆき氏も飛び入りで参加し、本書のイラストを担当した経緯を語った。

  槇盛氏は、本書の企画者として「外国人住民の多国籍化が進んでいる今、出版するのであれば『図書館員のための英会話ハンドブック 国内編』の改訂よりも、外国人住民の共通言語である「やさしい日本語」の方がニーズはあり、優先して出版した方がよいのではと思った」と企画の趣旨を説明した。

  新居氏は、「私1人ではなくみんなでこの本をつくっていくことを大切にしたいと思った」と執筆時の思いを語り、「外国人住民が増えていく際にどのような接点を地域でつくれるかと考えたとき、図書館を利用しない手はないと思った」と自身の考えを述べた。

  加藤氏は、「単なるハウツー本ではなく「やさしい日本語」を使う動機づけとなる本にしようと決め、外国人住民当事者の声や願い、図書館への期待を載せた」と編集の方針を語った。

  筆者は、「理念や知識だけでは行動に繋がりにくい。心の奥底に訴えかける当事者の声や図書館員の率直な感想も載せることで、自ら実践したくなる本にしたかった」と本書に込めた思いを述べた。

  樋渡氏は、本書で紹介している、東京・三鷹市立図書館で共著者が講師となり実施した「やさしい日本語」職員研修について、「共著者が決めたコンセプトを読んで驚いた。図書館員や外国人住民を巻き込んで実践(「やさしい日本語」職員研修)を行い、そのプロセスを振り返り、図書館員に役立つものを作るとあったためだ。本当にできるか半信半疑だったが、実現できたのは、共著者が示した研修計画がすばらしかったことと、「やさしい日本語」の必要性を理解して受け入れてくれた三鷹市立図書館の判断があったからだ」と語った。

●第2部パネルディスカッション「図書館からまちづくりを考える~図書館×「やさしい日本語」×共生~」

  第2部は、新居氏が司会となり、パネルディスカッションを行った。図書館に可能性を感じたのはなぜか、なぜ「図書館から」なのかとの問いに対し、パネリストが話した内容の一部を紹介する。

  • 図書館は誰も排除されない場所であり、ほとんどの自治体に存在する公的空間。この図書館の持つ可能性を活用できないだろうかと考えた。
  • あーすぷらざ外国人教育相談窓口は、図書館内にあり、司書と連携できるからこそ可能なことがある。
  • 図書館は路上生活者や生活困窮者を含め、あらゆる人が無料で利用できる公の施設。そして図書館には何でも相談できる図書館員がいる。
  • 全国に3,300か所以上ある図書館(『日本の図書館 統計と名簿』(JLA刊行)2023年4月1日現在)で「やさしい日本語」が使われていけば、より多くの人にとって図書館が魅力ある場所になる。
  • 図書館員は支援を必要とする人に必要なことを届ける人であると改めて気づかされた。

  その後、参加者全員から示唆に富んだ意見が寄せられた。「図書館の可能性は無限。地域にいかに図書館員が入り込んでいくかが大事」「図書館は、むすぶ場所、うつわだと思っている」「日本人の行動変容が大事という言葉が胸に響いた」など、開催時間を延長するほど一人ひとりの参加者が熱い思いを語ってくれた。

●イベントを終えて

  対面で実施した本イベント終了後、新たな動きもあった。会場で出会った参加者同士のつながりのほか、「外国語資料を図書館に寄贈したい」「職員研修を実施したい」「障害者サービスに応用したい」といった嬉しい連絡もあった。これからは、本書を通じて「あなた1人からでもはじめられる」けれど、みんなで取り組めばもっとよりよい社会になれることも伝えていきたい。

Ref:
“『図書館員のための「やさしい日本語」』刊行記念イベント<あなた1人からでもはじめられる図書館員のための「やさしい日本語」>開催します”. JLA. 2024-05-13.
https://www.jla.or.jp/home/news_list/tabid/83/Default.aspx?itemid=7705
阿部治子, 加藤佳代, 新居みどり. 図書館員のための「やさしい日本語」. JLA, 2023, 87p., (JLA Booklet, no.15).
“図書館員のための「やさしい日本語」”. JLA.
https://www.jla.or.jp/publications/tabid/87/pdid/p11-0000000644/Default.aspx
古林洽子ほか. 図書館員のための英会話ハンドブック. 国内編, JLA, 1996, 241p.
“職員研修を実施しました”. 三鷹市立図書館. 2023-04-27.
https://www.library.mitaka.tokyo.jp/info?2&pid=1759
日本の図書館 統計と名簿 2023. JLA, 2024, 521p.