E2625 – 定有堂書店「読む会」の展開:街の読書運動の可能性<報告>

カレントアウェアネス-E

No.463 2023.09.07

 

 E2625

定有堂書店「読む会」の展開:街の読書運動の可能性<報告>

鳥取県立図書館・中尾有希子(なかおゆきこ)

 

  2023年6月25日、鳥取県立図書館において、郷土文化講演会+定有堂「読む会」フォーラム『定有堂書店「読む会」の展開―街の読書運動の可能性―』を開催した。きっかけは、全国の本好きや書店員の聖地として知られた「定有堂書店」(鳥取市・1980年開店)が今年4月18日に閉店するという衝撃的な出来事であった。

  本フォーラムでは、定有堂書店で街の中にある本好きな人が集う読書会として1988年から毎月開催されてきた「読む会」を取り上げ、民間での読書運動や図書館の取り組みを知り、読書運動の重要性を考える機会とした。本稿ではその概要を報告する。

  第1部では、「読む会」の選書担当である岩田直樹氏(公立鳥取環境大学特任教授、元高校教諭)が「定有堂書店「読む会」と教育哲学の発見」と題して講演した。

  まず初めに、「読む会」が始まった経緯と、「読む会」主宰であった故・濱崎洋三氏(元鳥取西高等学校教諭、元鳥取県立図書館長)との出会いについて話した。1980年代、鳥取西高等学校では職員の憩いの場であった研修室において、時に本屋が新刊の即売会を行っていた。当時、本屋をつかまえては、なぜ今この本が重要なのかを説いていた名物教師の濱崎氏に対し、定有堂書店店主の奈良敏行氏が「自分だけに話すのはもったいないので、街に出て読書会をやりましょうよ」と声をかけたことが始まりであった。そして岩田氏は、濱崎氏との出会いや同氏の言葉「大きな声を信じてはいけない」が自身の人生に大きな影響を与え、「読む会」の精神となっていることも語った。

  次に、自身の著作『橋田邦彦・現象学・アーレントの再解釈』(2023年2月小取舎発行)に織り込まれた思想や哲学の「再解釈」について説明し、「読む会」の仲間がいなければ、この本は生まれなかったと述べた。

  さらに、教育とは「背伸びする力を培うこと」であり、学校を出て以降は、自ら学ぼうとしなければ学ぶことはできない。今までの自分から少し背伸びをすることが大人の自己教育であり、「読む会」は共同的な自己教育の場であると言えるかもしれないと語った。

  第2部では、コーディネーターの安藤隆一氏(総務省地域力創造アドバイザー)の進行のもと、奈良氏、岩田氏、小林隆志(鳥取県立図書館長)による鼎談が行われた。

  奈良氏は、「本が好き、本屋が好き、本屋が好きな人が好き」という気持ちと「身の丈」で営んできた定有堂書店の43年間を、自身と外部の記憶をもとに振り返り、整理したことを語った。そして、「街で輝いた本屋が消え、本が好きな人が残った」ということを、良寛の和歌の言葉を用いて、「淡雪(あわゆき)が消えて沫雪(あわゆき)が残った」と表現した。

  小林館長は、奈良氏に対し感謝の意を伝え、当館は県内書店の見計らいによる現物選書を行っているが、書店が減っても地元から購入するポリシーは崩さないと強調した。また、活字離れ対策として、図書展示コーナーや出前図書館を紹介し、より深く読む読者を増やすための展開を職員と考えたいと話した。

  岩田氏は、鳥取大学の学生であった森本龍哉氏が「読む会」について参加者に聞き取りを行い執筆した2021年度卒業論文「本がある、人がいる―定有堂教室「読む会」をとおしてみえた世界―」からの引用や、翻訳家・向井和美氏が主宰する読書会との比較等を行い、「読む会」について具体的に紹介した。

  その後のディスカッションでは、「読む会」が本を介して人とつながる場所であり「居心地よい場所」(サードプレイス)であること、書店と図書館の協力による「本、書店、図書館にまつわるエピソード大賞」、図書館の居場所づくり、江府町(鳥取県)に書店復活の動きがあることなどの事例紹介があり、関係者が様々な取り組みを共有しつながる意義が示された。

  最後に安藤氏が、「今日のメッセージや公開討論を聞き、皆さんが考えたことが大事」と締めくくり、フォーラムは閉会した。

  なお、関連企画として、「読む会」で読まれた本や定有堂書店発行のミニコミ誌、県内の読書運動に関する資料等を館内で展示したが、本フォーラムや資料展示は多くのマスコミに取り上げられ、県内外からの反響も大きく、今後の読書活動推進につながる事業となった。今後は、図書館、書店、出版界が連携・協力しながら相互に発展し、県民に豊かな地域情報や資料を提供し続けることにより、読書活動推進や文字・活字文化振興に貢献していきたいと考えている。

  なお、本フォーラムの詳細については、定有堂書店のウェブサイトで報告されているので、ぜひ参照されたい。

Ref:
“【終了しました】定有堂書店「読む会」の展開 ―街の読書運動の可能性― 令和5年6月25日”. 鳥取県立図書館.
http://www.library.pref.tottori.jp/event/2023/06/5625.html
“【展示・郷土】鳥取県立図書館郷土文化講演会+定有堂「読む会フォーラム」関連図書展示”. 鳥取県立図書館.
http://www.library.pref.tottori.jp/exhibition/cat10/cat/cat2/post-255.html
“今月読んだ本 第229回 定有堂書店「読む会」と教育哲学の発見―定有堂「読む会」フォーラム第1部(講演)”. 定有堂書店.
http://teiyu.na.coocan.jp/idea_iwata/in_0229.html
“今月読んだ本 第230回 定有堂書店「読む会」と教育哲学の発見―定有堂「読む会」フォーラム第2部(鼎談)”. 定有堂書店.
http://teiyu.na.coocan.jp/idea_iwata/in_0230.html
奈良敏行. 定有堂の生成変化. 7p.
http://teiyu.na.coocan.jp/teiyudo_yowa/forum.pdf