E2592 – 全国映画資料アーカイブサミット2023<報告>

カレントアウェアネス-E

No.455 2023.04.20

 

 E2592

全国映画資料アーカイブサミット2023<報告>

特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)・内音坊夏奈(うちおんぼうかな)、
佐藤友則(さとうとものり)

 

  2023年1月30日、文化庁は、特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)の運営による文化庁事業「令和4年度アーカイブ中核拠点形成モデル事業(撮影所等における映画関連の非フィルム資料)」の一環として、「全国映画資料アーカイブサミット2023」を開催した。

  立ち遅れている国内の映画資料のアーカイブの状況に対して、各所蔵施設担当者やその他映画資料に係る関係者がアーカイブに関する知識などを共有し連携を深める場として開催している本イベントは、今回で4回目となる。今回のサミットは全6部構成で実施した。本稿では、各部の内容について簡潔に紹介する。

  第1部では、2022年度までの事業を通じて開発された「映画資料所在地情報検索システム(JFROL)」について発表した。連携所蔵施設のデータベースを横断検索できる本システムに、2022年度は早稲田大学演劇博物館と北九州市立松永文庫のデータベースが連携し、計5施設、18万件以上の映画資料のデータを一挙に横断検索できるようになった。本発表では、開発から一般公開の実証実験にいたるまでの経緯と連携作業におけるポイントを解説した。

  第2部では、邦画・洋画のメジャー作品からインディペンデント作品まで幅広く第一線で活躍する映画宣伝デザイナーの岡野登氏によるトークを実施した。デザイナーの立場から、チラシやポスター、試写状など多様な媒体を用いて作品ごとに異なるコンセプトを表現する工夫や苦労が語られることで、宣伝資料への理解がより深まり、映画資料としての価値を再認識する機会となった。

  第3部の福井健策弁護士によるセミナーでは、映画の隣接分野の著作権の動向と併せて映画資料の著作権処理や潮流に関する講義が行われた。2021年度から2022年度にかけて議論されてきた著作権法改正案(簡素で一元的な権利処理)についても触れられ、最新動向を知る機会となった。

  第4部では、映画館の広報物の制作・発行者による発表が行われた。現在全国の映画館が発行するプログラムは、アーカイブの対象物としての認知度が低く、所蔵施設などで十分にアーカイブされているとはいえない。観客とのコミュニケーションを考慮した広報物の内容やデザインの工夫が語られたことで、その資料価値を認識する機会となった。

  第5部では、2022年度事業で実施した映画脚本のデジタル化事例に関する発表が行われた。映画制作時においてスタッフが使用した脚本は、書き込みや貼り付け、挟み込みなど本文以外にも重要な制作のポイントが残されている場合がある。そのような資料をデジタル化する際の注意点や対応について、実施事業者であるナカバヤシ株式会社の担当者がわかりやすく解説した。

  第6部では、「映画資料を文化的リソースに-関係者の連携強化と今後の展開」と題したシンポジウムを実施した。2022年度はより広い地域の様々な映画資料所蔵施設同士の議論を深めるべく、国立映画アーカイブの岡田秀則氏がモデレーターを務め、北海道地区よりNPO法人北の映像ミュージアムの佐々木純氏、関東地区より世田谷文学館の庭山貴裕氏、東海地区より木下惠介記念館の戴周杰氏、九州地区より北九州市立松永文庫の凪恵美氏が登壇した。また、映画資料を利用する研究者であり東映太秦映画村・映画図書室の資料整理にも携わる京都大学大学院人間・環境学研究科教授の木下千花氏も加わり、全国規模かつ所蔵館と利用者との双方向性のある議論を展開することができた。

  最初に各氏所属の所蔵施設の活動について紹介の後、映画資料の活用(画像使用等)における著作権関係の現状や課題などが議題に挙がった。また2022年度の博物館法改正で事業内容に博物館資料のデジタル化が追加され、さらにニーズが高まっている映画資料のデジタル化についての現状、各館が抱える課題が共有され議論された。そしてそのような現状を踏まえた上で、岡田氏が重複資料の分配の可能性を含む全国各地の映画資料所蔵施設同士の情報共有の取り組みについて触れ、さらに議論が展開された。4回目を迎えた本シンポジウムで、映画資料を保存・活用していくことの基本的な意義に今一度立ち返りつつ、映画資料を若い世代や新たな層により広く認識してもらうために今後取り組むべきことなどについても意見が交わされて、シンポジウムは締めくくられた。

  多種多様な映画資料のアーカイブは、未成熟な分野であり、各所蔵施設がそれぞれ試行錯誤して取り組んでいる状況であるため、このような議論や情報共有の場を設けてきた。こうして少しずつ全国の映画資料所蔵施設の連携が進むことで、国内の映画資料の収集、保存、活用という有機的なアーカイブのサイクルが生成し発展していくと考える。

  なお、各部の動画は本事業YouTubeチャンネルで2024年3月(予定)まで公開している。本サミットにおける各登壇者の貴重な話やシンポジウムにおける活発な議論等については、ぜひそちらを視聴されたい。

Ref:
“イベント・セミナー・公募情報セミナー・イベント【オンライン参加募集】1/30(月)「全国映画資料アーカイブサミット2023」”. VIPO. 2023-01-06.
https://www.vipo.or.jp/news/33054/
“【一般公開開始】「映画資料所在地情報検索システム(JFROL)」がオープン”. VIPO. 2023-01-20.
https://www.vipo.or.jp/news/33446/
“「全国映画資料アーカイブサミット2023」実施報告”. VIPO. 2023-02-20.
https://www.vipo.or.jp/news/34166/
“アーカイブ中核拠点形成モデル事業”. YouTube. 2023-03-30.
https://www.youtube.com/channel/UC2FLJ8enRbZYx9kDV2fFcUg