E2532 – 持続可能性に関する図書館の取組:ALIAによる報告書

カレントアウェアネス-E

No.442 2022.09.01

 

 E2532

持続可能性に関する図書館の取組:ALIAによる報告書

利用者サービス部図書館資料整備課・工藤豊(くどうゆたか)

 

  2022年5月,オーストラリア図書館協会(ALIA)が,持続可能性に関する図書館の取組についての報告書“Greening Libraries Report”を公開した。

  報告書は,ALIAがチャールズ・スタート大学の研究チームに委託した「図書館の緑化」(greening libraries)に関する研究プロジェクトの成果物として作成された。主に環境面での持続可能性に焦点を当てており,序論に続けて,関連する文献を調査し,図書館における取組事例をまとめた上で,提言を行っている。本稿ではその概要を紹介する。

●序論

  図書館は,エネルギーや資源の消費者として,あるいは図書館資料や図書館施設といった地域の資源の提供者として,様々なレベルで持続可能性を考慮する必要がある。また,図書館は普段から様々な地域活動や社会課題の解決に向けて重要な機会を提供しており,持続可能性の向上に関しても,図書館が積極的に取り組み,地域社会を支援することが可能である。

●文献調査

  図書館情報学の論文データベース等を基に関連する49の学術的文献を抽出し,5つの観点に分けて内容を概説している。

  • 「緑化」の意義
    図書館は紙や水,電力,インク等の資源の消費者であり,資料の収集・保存や施設整備,電力消費の節減,廃棄物処理などに対して,持続可能な図書館運営に関する統合的な戦略を策定し,環境負荷を最小限に抑える必要がある。
  • 組織の関与,価値観,方針
    持続可能な取組を進めるためには組織的な関与が不可欠であり,大学や企業,団体,地方議会等の様々な組織が持続可能性に関する方針を策定し,図書館が他組織と協力したり,より広い文脈で支援を受けたりできる必要がある。また,自館の価値観を環境に配慮したものに見直すことが図書館の緑化の第一歩である。
  • 教育における役割
    図書館は,持続可能性に関する文献や情報を提供することで,また図書館が実施するプログラムやイベントを通じて,環境意識を高めるための役割を果たすことができる。
  • 図書館における持続可能性に関する活動
    紙や電力等の資源の使用削減や,環境行動計画の策定,他機関との連携,持続可能性に関する学習機会の提供,環境認証制度の活用等の事例がある。
  • 効果の測定
    持続可能性に関する指標や評価モデル,認証制度,支援プログラム等を活用し,持続可能性向上の活動の評価や支援を行うフレームワークづくりが進められている。

●取組事例

  持続可能性に関する取組を実践している図書館のうち,示唆に富んだモデル事例として,オーストラリアの公共図書館(ウラーラ図書館,ヌーサ図書館サービス,グローブ図書館),オーストラリア国立図書館,チャールズ・スタート大学図書館,米国のロングウッド公共図書館の6館を紹介している。

  例えば,ウラーラ図書館では,緑化に関連する電子書籍のリストの作成やオンライン講習会の開催,地域のガーデニングイベントへの参加など,地域の緑化の推進に焦点を当てた活動を行っている。また,チャールズ・スタート大学では,教育機関における持続可能性を評価・改善するフレームワークである「LiFE指標」を採用しており,組織運営や研究・教育等の各分野における目標設定や評価等を行い,図書館を含む大学運営における持続可能性の向上を図っている。

  このほかの主な取組内容としては,以下などがある。

  • 持続可能性に関する指針や行動計画の策定
  • 持続可能性に関する情報発信,学習プログラムの開催
  • 図書館運営や施設整備における環境負荷の低減
  • 事業やサービスの持続可能性を評価・改善する指標の導入

●提言

  文献調査や取組事例を踏まえて,図書館における持続可能性に関する取組について3つの側面から提言を行っている。

  • 図書館運営
    日常の図書館業務について,持続可能性を向上するための正式な方針を策定することが重要である。また,図書館の緑化活動について積極的に広報することや,業務に関する実践的なガイドラインを方針に盛り込むこと,業績評価に持続可能性の指標を含めること等を提言している。
  • 地域社会への関与(コミュニティ・エンゲージメント)
    図書館が地域社会と関わる活動に注力することにより,図書館の緑化に地域社会を巻き込み,地域社会に情報を提供し,また図書館が地域社会の模範となることができる。そのために,地域社会とのコミュニケーションに関する計画を策定し継続的な対話を行うことや,信頼されるわかりやすい情報発信を行うこと,地域社会に適用できる緑化の事例を提供すること等を提言している。
  • パートナーシップ
    図書館と他のステークホルダーとの連携・協力としては,地域の団体や教育機関,企業の取組への参加や活動スペースの提供,他館や関連団体との協力や情報共有等が挙げられる。このような継続的なパートナーシップにより,自館の計画や活動に不足している部分を認識し,改善することを提言している。

  日本においても持続可能性に関して各図書館が取り組んでいるところであるが(CA1797CA1964参照),国際連合(UN)の持続可能な開発目標(SDGs)への貢献も念頭に置きつつ,地域社会や他機関との連携・協力を含めた多様な取組が広がることが期待される。

Ref:
“Greening Libraries report showcases cutting-edge sustainability initiatives”. ALIA. 2022-05-10.
https://www.alia.org.au/Web/News/Articles/2022/May-2022/Greening_Libraries_report.aspx
Garner, Jane et al. Greening libraries report. ALIA, 2022, 46p.
https://read.alia.org.au/greening-libraries-report
“Targets and Reports”. Woollahra Municipal Council.
https://www.woollahra.nsw.gov.au/environment/targets_and_reports
“Sustainability”. Charles Sturt University.
https://www.csu.edu.au/sustainability
岩見祥男. 米国および日本におけるグリーンライブラリーの事例紹介. カレントアウェアネス. 2013, (316), CA1797, p. 18-23.
https://doi.org/10.11501/8228835
中村穂佳. SDGsと図書館 ―国内の取組から―. カレントアウェアネス. 2019, (342), CA1964, p. 6-8.
https://doi.org/10.11501/11423546