カレントアウェアネス-E
No.442 2022.09.01
E2531
Data Citation : A guide to best practiceについての所感
国立情報学研究所オープンサイエンス基盤研究センター・河合将志（かわいまさし）
2022年5月，欧州委員会出版局（Publications Office of the European Union）は，データ引用のベストプラクティスのための推奨事項や表記方法などをまとめたガイド“Data Citation : A guide to best practice”を公開した。ガイドは“Foreword”，“PART ONE – Citing data is important”，“PART TWO – How to cite data”， “PART THREE – Other information”，“Annex”から主に構成されている。以下ではそれぞれの要点を摘記するとともに，データ引用のベストプラクティスを普及していくうえでの課題について論じる。
“Foreword”においては，本ガイドの概要が，データ引用のベストプラクティスのための推奨事項や表記方法などの提示であることが述べられている。加えて，研究における引用の一般的な意味が，参考情報の文献への付加であることが確認されている。
“PART ONE – Citing data is important”においては，データ引用の目的が，透明性や再現性の担保であることが言及されたうえで，データ引用についての推奨事項が，引用データや引用管理ソフトウェア，ライセンスなどの説明を通して紹介されている。章末では，データ引用とデータ公開が関連するとして，データ公開についての推奨事項が取り上げられており，公開場所や識別子などの説明がなされている。
“PART TWO – How to cite data”においては，“PART ONE”記載の推奨事項に準じたデータ引用の表記方法が紹介されている。具体的には，著者名や出版日といった構成要素それぞれの説明に次いで，本文中での引用や脚注での引用など，形式ごとの説明がなされている。
“PART THREE – Other information”においては，本ガイドの推奨事項や表記方法と，ISO 690:2021やInterinstitutional Style Guide（ISG）といったデータ引用に関連する他のガイドの推奨事項や表記方法の違いが簡潔にまとめられている。
“Annex”においては，脚注と参考文献リスト作成用のチェックリストや解説図，記載例が掲載されており，解説図と記載例はデータ用メタデータ規格である“Data Catalogue vocabulary Application Profile for data portals in Europe”（DCAT-AP）とISGの表記方法それぞれに準じたかたちに書き分けられている。
増加が見込まれるデータ引用に特化した本ガイドの公開は時流に沿ったものといえるが，推奨事項や表記方法の提示を通したデータ引用のベストプラクティスの普及という本ガイドの目的の実現には課題が残る。一般に，論文執筆にあたって参照されるのは，こうした手引書ではなく，投稿先となる学術雑誌の執筆要項やテンプレートである。したがって，本ガイドの推奨事項や表記方法が各学術雑誌の執筆要項やテンプレートに反映されない限り，本ガイドが高い実効性をもつことは難しく，ベストプラクティスの普及は見込めない。こうした課題がどのように解消されていくのか，今後の展開を注視していく必要がある。
Ref:
Publications Office of the European Union; Jessop, P. Data Citation : A Guide to Best Practice. Publications Office of the European Union, 2022, 62p.
https://data.europa.eu/doi/10.2830/59387
ISO 690:2021. Information and documentation – Guidelines for bibliographic references and citations to information resources.
https://www.iso.org/standard/72642.html
Publications Office of the European Union. Interinstitutional Style Guide. 2022, 284p.
https://data.europa.eu/doi/10.2830/215072
“About DCAT Application Profile for data portals in Europe”. joinup.
https://joinup.ec.europa.eu/collection/semantic-interoperability-community-semic/solution/dcat-application-profile-data-portals-europe/about
