E2530 – 成人教育戦略に図書館を組み込むためには:IFLAレポート

カレントアウェアネス-E

No.442 2022.09.01

 

 E2530

成人教育戦略に図書館を組み込むためには:IFLAレポート

都留文科大学共通教育センター・日向良和(ひなたよしかず)

 

  国際図書館連盟(IFLA)は2022年6月に“Realising the Potential: Integrating Libraries into Adult Education Strategies”(以下「レポート」)を発表した。

  本レポートは1994年に採択されたユネスコ公共図書館宣言にて宣言されている公共図書館の「2. あらゆる段階での正規の教育とともに,個人的および自主的な教育を支援する。」および「3. 個人の創造的な発展のための機会を提供する。」という使命を果たすために,現在の公共図書館が何を行っているのかの世界的な調査と,各国の政策における公共図書館の位置づけ,そして今後の社会の変化に対応するための行動方針をまとめている。レポート内の各国での成人教育政策の位置づけの分析には,ユネスコ生涯学習研究所にある44か国の資料,「成人教育の国際調査」(Global Report on Adult Learning and Education:GRALE)の予備調査としておこなわれた197の国と地域からのアンケート回答,および欧州連合(EU)域内の教育システムに関するデータベースであるEurydiceに含まれる38か国の教育政策が利用された。これらのドキュメント内を「図書館」を表すキーワードで検索し,ヒット箇所の法律や政策に関わる部分を抽出し分析をおこなっている。

  レポートでは,世界にある250万の図書館のうち50万が公共・コミュニティ図書館であり,残りの大多数を占める学校図書館は学校教育を支援しているが,これら以外の図書館も含めて,図書館が生涯学習のための情報資源を提供する基盤となっている現状が報告されている。図書館活動の目標や計画,評価といった行動戦略については,国レベルで作成・実行されている国もあれば自治体レベルの国や地域もある。日本については教育基本法第12条が引用され,生涯学習における国と自治体の役割が法にて定められていることが触れられているが,国レベルでの具体的な行動戦略については触れられていない。筆者の管見では,定期的に改定されている日本の図書館に関わる行動戦略としては,「子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」(現在は第4次)と「学校図書館図書整備等5か年計画」(現在は第6次)の2つがあるが,生涯学習全体の行動戦略としては不足していると言えよう。

  レポートでは成人教育に対しての国際的なテーマとして,まず識字率の上昇において図書館が要であることを挙げている。続いて学習のための情報資源へのアクセスの保障,地域と人をつなげる役割,他の生涯学習機関との連携,遠隔学習のための場所や情報資源の提供,成人教育・生涯学習支援者としての司書の重要な役割,地域の生涯学習システム構築への積極的な関わり,学校図書館の成人教育・生涯学習に果たす役割の可能性について言及されている。各国の事例とともに紹介しているので参照いただきたい。

  レポートの結論として,現在図書館は成人教育システムの中で,利用の任意性や情報資源の多様性などの要因により重要な基盤の一つとなっているが,多くの国では報道や政治の場面での言及が少なく,それが資金や人的資源の調達を困難にさせているため,繰り返しメッセージを社会に投げていくことが求められるとしている。筆者の意見としては,これからの図書館が成人教育のプラットフォームとして成長していくためには,メッセージの発信だけでなく各国の各種図書館や国際的な図書館界が有機的につながり,全地球的な「生涯学習システムとしての図書館」をインターネット空間に構築することが必要であると考える。

  日本の公共図書館は図書館法の制定により成人教育を支える基盤として活動してきたが,2000年以降インターネットの普及で図書を通じた情報提供の唯一性が相対的に低下した。今後日本の図書館が成人教育のプラットフォームとして成長するために以下の点を指摘したい。2015年以降,武蔵野プレイス(東京都)に代表されるような,さまざまな文化的体験の場の提供や,市民グループでの課題解決支援を行う公共図書館が増えている。こうした公共図書館では今後は来館でのサービスに加えて,インターネット上での非来館サービスを進展させることが必要である。また学校図書館においては,学校教育の展開を支援する中で,卒業後の成人教育に必要な能力・スキルの育成などが求められる。そこで,学校図書館と公共図書館は連携して地域学習情報の提供や情報リテラシー教育プログラムの開発を行う必要があろう。このように地域内の公共図書館,学校図書館が共に連携して生涯学習基盤としての情報プラットフォームをインターネット上に構築することと,実社会の図書館でさまざまな文化体験を提供する場を提供することが,今後の成人教育を支えていくと考える。

Ref:
IFLA. Realising the Potential: Integrating Libraries into Adult Education Strategies. 2022, 14p.
https://repository.ifla.org/handle/123456789/1951
IFLA. ユネスコ公共図書館宣言 1994年.
https://repository.ifla.org/handle/123456789/185
“Global Report – GRALE”. UNESCO Institute for Lifelong Learning.
https://uil.unesco.org/adult-education/global-report
Eurydice.
https://eurydice.eacea.ec.europa.eu/
“関係法令等”. 子ども読書の情報館.
https://www.kodomodokusyo.go.jp/happyou/hourei.html
“第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」”. 文部科学省. 2022-01-24.
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/mext_01751.html
柳与志夫. 「ユネスコ公共図書館宣言」改訂へ. カレントアウェアネス. 1994, (177), CA939.
https://current.ndl.go.jp/ca939