E2495 – 日本における大学図書館のグランドデザイン<報告>

カレントアウェアネス-E

No.435 2022.05.26

 

 E2495

日本における大学図書館のグランドデザイン<報告>

慶應義塾大学文学部・岸田和明(きしだかずあき)

 

  日本図書館情報学会は2022年3月5日に,シンポジウム「日本における大学図書館のグランドデザイン」をオンラインにて開催した。全体のコーディネータを筆者(日本図書館情報学会会長)が担当し,五十音順に,小山憲司氏(中央大学教授,「これからの学術情報システム構築検討委員会」委員長),竹内比呂也氏(千葉大学教授,千葉大学副学長,附属図書館長,アカデミック・リンク・センター長),野末俊比古氏(青山学院大学教授,青山学院大学図書館長,アカデミックライティングセンター長,変革技術と社会共創研究所副所長)の3人がパネリストを務めた。パネリストはその肩書から分かるとおり,いずれも大学図書館またはそれに関わる組織の「長」であり,その視点から日本の大学図書館の将来的な方向性やそれに付随する課題を語ってもらうことで,参加者がこの問題に対する考えを整理する機会を提供することが本シンポジウムの目的であった。質疑応答を含めて約2時間の本シンポジウムは,三浦太郎氏(日本図書館情報学会副会長)の司会によって進められた。

  本シンポジウムの開催の契機は2021年夏に公表された日本私立大学連盟による提言「ポストコロナ時代の大学のあり方」である。この提言では図書館等の設置・配備を規定した大学設置基準第38条の削除が明記され,大学図書館をはじめとして各方面に大きな衝撃を与えた。この提言に関しては,日本私立大学連盟から日本図書館情報学会に宛てた説明文書が公開されている。その提言の妥当性はともかく,ひとつ言えるのは,この提言が大学図書館の今後の方向性を考える契機を我々に与えたことである。状況としては2018年11月に「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」が中央教育審議会から出され,関連する諸機関により大学図書館の今後の在り方の検討が進められていたわけではあるが,日本私立大学連盟による提言はさらに広い範囲の人々にこの問題を考える契機を与えたと思われる。

  米国においては,University Leadership Councilにより2011年に『大学図書館を再定義する:デジタル情報サービスへ上手に移行する』が出版されている。そこでは,伝統的な図書館サービスに対する需要の減少やオープンアクセスへの対応などが指摘され,米国ではこの刊行を契機として大学図書館の在り方についての様々な議論が展開されている。そこで,2011年の出版物であり,やや古い点は否めないものの,これを議論の土台としてパネリストにプレゼンテーションをお願いした。

  実際には各パネリストからこの問題に関わる多種多様な話題が提供された。最初に竹内氏から,従来的なラーニングコモンズに代わるモデルや,「国立大学図書館協会ビジョン2025」の紹介がなされた。その中では,いわゆる「場としての図書館」という概念の限界と,デジタル資源を土台として学術情報の生産や提供を電子的プラットフォーム上で支援・実践する必要性が印象に残った。一方,野末氏により,その種の機能を実現していく前提としての大学図書館における日常的な問題が語られた。それはすなわち,カネ・ヒトに関わる課題(予算の不足,職員や組織の問題)や図書館に対する関係者の認識の「古さ」である。最後に小山氏からは,大学図書館の将来を考える際に,まずはその存在意義の確立を図ることの重要性が指摘された。具体的には,大学図書館の存在意義をいかに見(魅)せられるか,図書館員が自らその活動をデザインする能力の重要性などがいくつかの実例に沿って示された。

  質疑応答を含め全体としては,デジタル技術の発展によりもたらされる学術情報の生産・流通の変容に大学図書館がいかに対応していくかが鍵となる点があらためて共有されることになった。特にこれをデジタルトランスフォーメーション(DX)の概念を使って整理する際には,大学図書館に関わるDXの意味あるいは解釈を再度問い直してみる必要性が感じられた。このような「気づき」を参加者にいくつか与えることのできた有意義な時間であったと思われる。

Ref:
“臨時シンポジウム「日本における大学図書館のグランドデザイン」の開催(終了しました)”. 日本図書館情報学会. 2022-01-11.
https://jslis.jp/2022/01/11/specialsymposium220305/
日本私立大学連盟. ポストコロナ時代の大学のあり方~デジタルを活用した新しい学びの実現~. 2021, 23p.
https://www.shidairen.or.jp/files/user/20200803postcorona.pdf
“提言「ポストコロナ時代の大学のあり方」における図書館等の記述について”. 日本私立大学連盟. 2021-10-21.
https://www.shidairen.or.jp/topics_details/id=3412
“日本私立大学連盟からの提言について(続報)”. 日本図書館情報学会. 2021-10-22.
https://jslis.jp/2021/10/22/002/
“2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)(中教審第211号)”. 文部科学省. 2018-11-26.
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1411360.htm
University Leadership Council. Redefining the Academic Library: Managing the Migration to Digital Information Services. The Advisory Board Company. 2011, 78p.
https://utlibrarians.files.wordpress.com/2012/01/23634-eab-redefining-the-academic-library1.pdf
“国立大学図書館協会ビジョン2025”. 国立大学図書館協会. 2021-06-25.
https://www.janul.jp/ja/organization/vision2025