E2359 – 令和2年度東日本大震災アーカイブシンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.409 2021.03.04

 

 E2359

令和2年度東日本大震災アーカイブシンポジウム<報告>

電子情報部電子情報流通課・相原雅樹(あいはらまさき)

 

   国立国会図書館(NDL)は,東北大学災害科学国際研究所との共催により,2021年1月11日に, Zoomを用いて,「令和2年度東日本大震災アーカイブシンポジウム-これまでの10年とこれからの10年-」を開催した。本シンポジウムは,2011年度から東北大学災害科学国際研究所が中心となって開催されてきたもので,2013年度からはNDLも主催者に加わった。例年1月に開かれ,さまざまな機関の震災アーカイブについての情報交換の場として貴重な機会となっている。2020年度は新型コロナウイルス感染症感染拡大防止のため,初めてオンラインで開催され,例年より多い215人の参加が各地からあった。

   2021年は東日本大震災の発災から10年の節目の年である。この10年間,各地で東日本大震災に関するアーカイブが構築され,「国立国会図書館東日本大震災アーカイブ」(ひなぎく;E1413参照)を通じた連携が実現している。本シンポジウムでは,東日本大震災の被災地における震災アーカイブの事例報告のほか,東日本大震災に関するアーカイブのこれまでの取組を総括し,今後の方向性について議論した。

   最初に,東北大学災害科学国際研究所長の今村文彦氏から開会の挨拶と趣旨説明が行われ,事例報告2件,総括報告4件,パネルディスカッションが行われた。

●事例報告

   事例報告では,岩手県大槌町副町長の北田竹美氏が,民宿の屋上に「観光船はまゆり」が打ち上げられるなどの同町の被災状況に改めて言及した後,震災記録誌の編さんなどの震災伝承事業を概観した。さらに,震災伝承事業の一つに位置付けられる,2017年8月に構築した「大槌町震災アーカイブつむぎ」について,タイムライン機能・カテゴリー機能などを紹介した。

   続いて福島イノベーション・コースト構想推進機構東日本大震災・原子力災害伝承館事業課課長代理の瀬戸真之氏が,これまでの日本の災害を空間スケール・時間スケール別に整理した。さらに,2020年9月に開館した東日本大震災・原子力災害伝承館(E2326参照)の資料収集ガイドラインを紹介しつつ,県庁・地方公共団体とも連携した収集体制などについて説明した。

●総括報告

   総括報告として,県立図書館,メディア,国立図書館,研究者の立場から,東日本大震災発災からの10年間について報告された。

   まず,宮城県図書館資料奉仕部震災文庫整備班主事の日比遼太氏が,総務省の「被災地域記録デジタル化推進事業」を活用して構築された「東日本大震災アーカイブ宮城」について紹介した(CA1867参照)。市町村との連携に基づく震災資料収集・保存・メタデータ作成の取組を説明し,メタデータの精度向上が今後の課題であると述べた。

   次に,NHK放送文化研究所メディア研究部主任研究員の山口勝氏から,放送メディアのアーカイブについて,「NHK東日本大震災アーカイブス」や8Kスーパーハイビジョンの空撮画像に基づく熊本地震の被災地の3Dデジタルモデル作成などの取組が紹介された。また,震災後に改訂された新学習指導要領の下で防災教育にアーカイブが活用されることへの期待が示された。

   NDL電子情報部主任司書の中川透は,ひなぎくの活動を通して,震災アーカイブをめぐるこの10年の主な動きを振り返った。そして,NDLは今後もひなぎく事業を継続すること,アーカイブの閉鎖を予定している機関からのデータの承継について調整を行っていることなどについて報告した。

   総括報告の最後に,東北大学災害科学国際研究所准教授の柴山明寛氏が10年間の震災アーカイブ事業で明らかになったことを総括して人員・ハード・ソフト・コスト面の問題などを挙げた。その後,今後目指すべきアーカイブの在り方として,個々の団体が個別にアーカイブを構築するのではなく,オンラインの共有保管庫を用いてそれを基に独自ウェブサイトを構築するという方向性を提示した。

●パネルディスカッション

   パネルディスカッションは柴山氏が進行を担当し,パネリストとして,これまでの登壇者のほか,岩手大学教授・東日本大震災津波伝承館運営協議会会長の南正昭氏を加えて行われた。震災アーカイブのこれまでの10年の取組の総合的な達成度を100点満点で各自評価したところ,点は大きく分かれた。このほか,これからの10年を見据えた方向性についての意見交換が行われた。アーカイブの役割は災害発生を想定してあらかじめ準備をし,災害に強いまちづくりを行う「事前復興」にあるといった指摘がなされた。さらにアーカイブ事業の継続や,今後増えていく東日本大震災を知らない世代への記憶の伝承にどのように震災アーカイブを利活用していくかといった課題について議論した。

   シンポジウム中,Zoomのチャット機能を用いて参加者からの質問を受けた。震災関連の公文書の収集・保存状況,公開資料の利活用状況,教育現場でのアーカイブの活用方法などについての質問があり,パネルディカッションでその一部を取り上げて質疑応答を行ったほか,チャット内でも質問への回答や意見交換を行った。

   コロナ禍に伴ってやむなくオンラインでの開催となったが,被災地からだけでなく広い参加を得ることができたことには大きな意義があると思われる。当日の資料と動画は,近日中にひなぎく上に掲載する予定である。

Ref:
“令和2年度東日本大震災アーカイブシンポジウム-これまでの10年とこれからの10年-【令和3年1月11日(月・祝)開催】”. ひなぎく.
https://kn.ndl.go.jp/static/2020/11/12
国立国会図書館東日本大震災アーカイブ.
https://kn.ndl.go.jp/
大槌町震災アーカイブ つむぎ.
https://archive.town.otsuchi.iwate.jp/
東日本大震災アーカイブ宮城.
https://kioku.library.pref.miyagi.jp/
東日本大震災アーカイブス. NHK.
https://www9.nhk.or.jp/archives/311shogen/
“ICTを活用した東日本大震災からの復興支援”. 総務省.
https://www.soumu.go.jp/shinsai/ict_fukkou_shien.html
電子情報部電子情報サービス課次世代システム開発研究室. 国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)の公開. カレントアウェアネス-E. 2013, (234), E1413.
https://current.ndl.go.jp/e1413
瀬戸真之. 福島における震災アーカイブズの構築と資料収集の方針. カレントアウェアネス-E. 2020, (403), E2326.
https://current.ndl.go.jp/e2326
眞籠聖. 宮城県内の自治体による震災アーカイブの概況. カレントアウェアネス. 2016, (327), CA1867, p. 9-13.
https://doi.org/10.11501/9917289