E2781 – 令和6年度東日本大震災アーカイブシンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.499 2025.4.17

 

 E2781

令和6年度東日本大震災アーカイブシンポジウム<報告>

国立国会図書館電子情報部電子情報流通課・廣田和也(ひろたかずや)

 

  国立国会図書館(NDL)と東北大学災害科学国際研究所は、2025年1月11日に東北大学青葉山キャンパスにて「令和6年度東日本大震災アーカイブシンポジウム―震災アーカイブが残すべき「記録」と「記憶」について―」を開催した。本シンポジウムは2012年から毎年開催されているもの(E2359参照)で、本年度は現地・オンライン合わせて約130人が参加した。

  阪神・淡路大震災(1995年)、新潟県中越地震(2004年)、東日本大震災(2011年)などの震災の記録や記憶を次世代に継承するために、多くの震災アーカイブが構築・運営されてきた。しかし、震災から時間が経過すると共に、その存続が危ぶまれる事態も生じている。今回のシンポジウムでは震災アーカイブに関する研究業績を持つ研究者を招き、震災アーカイブの意義や役割について改めて問い直し、今後の在り方について議論した。

  冒頭、東北大学災害科学国際研究所所長・栗山進一氏から開会挨拶、同研究所教授・今村文彦氏から趣旨説明が行われ、その後、研究報告3件、進捗報告2件、パネルディスカッションが行われた。

●研究報告

  1件目は、専修大学教授・佐藤慶一氏が、「災害対応史と日本災害デジタルアーカイブの活用」と題し、米・ハーバード大学が運営する「日本災害DIGITALアーカイブ」を活用した災害対応史研究について講演した。災害対応史研究の重要性について日本近現代史、災害史、社会情報学の視点から整理し、災害対応史研究におけるデジタルアーカイブ活用の重要性や研究の広がりについて述べた。

  2件目は、情報科学芸術大学院大学研究員・高森順子氏が、「防災志向型デジタルアーカイブの問題点の整理と提案―「災間の社会」における震災アーカイブの意義を更新する―」と題し、防災志向型デジタルアーカイブの課題と、その解決に向けた提案について講演した(事前収録した動画を上映)。震災デジタルアーカイブが「防災」を目的に掲げたことにより、活用の在り方が狭まったのではないかと問題を提起した上で、災害アーカイブは「防災」等の何らかの目的を掲げずにあらゆる記録を集め続けていくことが重要であると述べた。

  3件目は、神戸学院大学教授・水本有香氏が、「ニュージーランド・カンタベリー地震関連資料と震災アーカイブ」と題し、東日本大震災とほぼ同時期に発生したニュージーランド・カンタベリー地震のアーカイブについて講演した。震災アーカイブの在り方について、既存の組織が地震を契機に新規アーカイブを構築して運営する、または、既存のアーカイブに震災関連資料を追加していくという形が、持続可能な震災アーカイブの枠組みではないかと述べた。

●進捗報告

  進捗報告1件目は、NDL主任司書・小林芳幸が、「震災アーカイブポータル「ひなぎく」の役割と現況」と題し講演した(E1413参照)。「知識インフラ」(E1149参照)の考え方に基づく震災アーカイブポータルの役割について触れた上で、幅広いコンテンツを保存しつつ震災記録の全体を「見える化」することが必要であると述べた。

  続けて、東北大学災害科学国際研究所准教授・柴山明寛氏が、「近年の自然災害のデジタルアーカイブについて」と題し、2024年1月に発生した令和6年能登半島地震のアーカイブを含めた、近年の自然災害アーカイブについて講演した。災害アーカイブが今後増加する要因はあるものの、個別の機関がデジタルアーカイブのシステムを持つことは難しく、機関横断的に利用できるプラットフォームが必要であるとした。そして、そのためには数多くの関係機関の協力や財源の確保が重要だと述べた。

●パネルディスカッション

  パネルディスカッションでは佐藤氏、水本氏、柴山氏、小林が登壇し、参加者からの質問に答える形で進行した。特に、各地域で保存されている価値のある資料をデジタル化し、広く共有するためのプラットフォームが必要であるという考えが共有された。また、研究報告に関連して、内容や形態を問わず、様々な資料が広く収集、保存、共有されることで、各利用者が自らの興味や関心に基づき多様な資料にアクセスできる環境が維持されることが重要であるという意見も挙がった。そのほかにも、震災当時の姿をそのまま残した資料・遺構の保存、記録の信頼性など幅広い話題について議論が交わされた。

  地震を含め自然災害が多発する日本において、その記録・記憶の継承は普遍的な問題である。その機能を担う震災アーカイブの歩みを振り返り、今後の在り方について議論された本シンポジウムは意義深いものになったと感じた。

  本シンポジウムの記録及び登壇者の発表資料は、ひなぎくにて公開されている。

Ref:
“令和6年度 東日本大震災アーカイブシンポジウム―震災アーカイブが残すべき「記録」と「記憶」について―【令和7年1月11日(土)開催】”. 国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく). 2024-11-06.
https://kn.ndl.go.jp/static/2024/11/06
“令和6年度アーカイブシンポジウム(令和7年1月11日開催)発表資料掲載・視聴案内メール送信しました(1/9 AM)”. みちのく震録伝. 2024-11-06.
https://www.shinrokuden.irides.tohoku.ac.jp/symposium/20250111/
“みちのく震録伝とは”. みちのく震録伝.
https://www.shinrokuden.irides.tohoku.ac.jp/?page_id=160
日本災害DIGITALアーカイブ.
https://jdarchive.org/ja
国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく).
https://kn.ndl.go.jp/#/
相原雅樹. 令和2年度東日本大震災アーカイブシンポジウム<報告>. カレントアウェアネス-E. 2021, (409), E2359.
https://current.ndl.go.jp/e2359
電子情報部電子情報サービス課次世代システム開発研究室. 国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)の公開. カレントアウェアネス-E. 2013, (234), E1413.
https://current.ndl.go.jp/e1413
主題情報部科学技術・経済課. 「知識インフラ」の構築に向けて国立国会図書館が果たす役割. カレントアウェアネス-E. 2011, (188), E1149.
https://current.ndl.go.jp/e1149