E1149 – 「知識インフラ」の構築に向けて国立国会図書館が果たす役割

カレントアウェアネス-E

No.188 2011.02.17

 

 E1149

「知識インフラ」の構築に向けて国立国会図書館が果たす役割

 

 2011年1月19日,国立国会図書館(NDL)において,第52回科学技術関係資料整備審議会(以下,科審)が,九州大学総長の有川節夫委員長ほか審議会委員および専門委員10名の出席のもと開催された。科審では,「国立国会図書館における今後の科学技術情報整備の基本方針に関する提言」(案)について審議が行われ,全会一致で了承後,有川委員長から長尾国立国会図書館長へ提言が手交された。

 科審は,NDLの科学技術関係資料の整備計画について審議するために設けられたもので,館外の学識経験者等から館長が委嘱する委員によって構成されている。これまで答申を9回,提言を1回行っており,最も新しいものは,2004年の「電子情報環境下における国立国会図書館の科学技術情報整備の在り方に関する提言」である。NDLはこれに基づき「第二期科学技術関係情報整備基本計画」(計画期間:2006年度~2010年度)を実施している。今回,第二期計画が最終年度を迎えたため,新しい提言が取りまとめられた。

 今回の提言では,科学技術情報の生産,流通,利用,保存のすべての段階で電子情報資源が主要な役割を果たすようになってきたことを踏まえて,日本全体として新しい学術情報基盤である「知識インフラ」の構築が必要との認識を示している。

 「知識インフラ」は,科学技術研究活動の過程で生じる研究データから文献に至る多種多様な学術情報全体を扱い,収集,保存,識別,組織化,検索といった機能を実現するものである。それにより,生産,流通,アクセス・加工処理,再生産という知識の循環を促進するネットワーク,プラットフォームとなることが目指されている。従来の学術研究の収集,提供,保存が論文を主たる対象にしているのに対し,「知識インフラ」では研究プロセスで生じる研究データや中間成果物をも対象とし,テキストだけでなく,数値,音声,画像,プログラム等の多様な形式を扱う。

 「知識インフラ」構想の背景には,今後の科学技術研究では電子化された大規模で多様な表現形式のデータや情報が研究者間で共有されることで新たな価値の創造が進むとの認識がある。提言の中で紹介されているように大量の予算,人員等が投入されるビッグサイエンスでは既にこのようなデータシステムの構築が取り組まれている。また,名称は違えども,同種の構想は米国,EU等でまとめられている。

 なお,2011年度から始まる政府の「第4期科学技術基本計画」の基になる総合科学技術会議の答申「科学技術に関する基本政策について」(2010年12月)において,国は,「研究情報全体を統合して検索,抽出することが可能な『知識インフラ』としてのシステムを構築し,展開する」とされている。

 このような「知識インフラ」の構築は,単独の機関によってなされるものではなく,NDLを含む図書館,情報提供機関,研究機関,大学,学協会その他の関係機関の関与,協力によって可能となるものであり,関係機関との協議の場の形成が出発点となる。

 NDLの役割について提言では,「知識インフラ」の中核として,これまで取り組んできた電子図書館事業を発展させ国内の電子情報資源の収集,保存等を進めるとともに,「知識インフラ」構築のため関係機関との協議の場の形成に向けた働きかけと調整を行う必要があるとしている。その上で,NDLが近い将来取り組むべき事項として,「国内学術出版物のデジタル化と電子情報資源の収集」,「デジタル化のための環境整備」,「電子情報資源の管理・保存」,「電子情報資源の利活用の促進」,「従来の所蔵資料・サービスと電子情報資源との有機的連携」,「利用情報の解析と利活用」,「知識インフラの中核としての社会的機能の展開」,の7項目を挙げている。 

 今後,NDLは,科審の提言を踏まえて,2010年度中に「第三期科学技術情報整備基本計画」を策定することとなっている。

(主題情報部科学技術・経済課)

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/tec/council_tec_report.html
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/council_technology_about.html
http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/seisaku/haihu05/nagao.pdf
http://www8.cao.go.jp/cstp/output/toushin11.pdf