E2291 – ACRL「アクセスサービス図書館員の枠組み」の紹介

カレントアウェアネス-E

No.396 2020.08.20

 

 E2291

ACRL「アクセスサービス図書館員の枠組み」の紹介

利用者サービス部サービス運営課・野上恭代(のがみやすよ)

 

   米国の大学・研究図書館協会(ACRL)は,「アクセスサービス図書館員の枠組み」(A Framework for Access Services Librarianship)が承認されたことを2020年5月7日に発表した。本稿では,その概要を紹介する。

   本枠組みは,ACRLのアクセスサービス・インタレストグループ(ASIG)によってまとめられた。広範囲で多様,かつ変化し続けているアクセスサービス(E1548参照)について定義,説明を行うことにより,大学図書館や研究図書館等で同業務に携わる人々の指針となることを企図している。全4章から成り,各章の内容は以下のとおりである。

  • 第1章 アクセスサービスの定義
  • 第2章 アクセスサービス図書館員および同サービスの管理者に求められるコンピテンシー
  • 第3章 マーケティングとアウトリーチの検討
  • 第4章 アクセスサービス図書館員が専門性を高める機会

   全体を通して,状況や条件は各館・機関によって異なることが念頭に置かれており,多くのアクセスサービス図書館員が参考にしやすいようにという意図がうかがえる。

   第1章では,アクセスサービスの領域がその歴史の中で拡大してきたことを踏まえ,現代のアクセスサービス部門の一般的な業務として,貸出し,コースリザーブ(指定図書),ドキュメントデリバリー,相互貸借,書架管理等16の業務を挙げている。ノートパソコン,カメラ等の機器類の貸出しや,電子リザーブ(E341参照),遠隔地にいる利用者を対象としたサービスなど,比較的新しく加わったとされる業務まで幅広くカバーされている。また,各業務の項には関連する第2章の項番号が記されており,各業務で必要なコンピテンシーを参照することができる。

   その上で,アクセスサービスとは,図書館利用者と図書館資源をつなぐサービスを展開・提供するものであり,図書館利用者の経験が満足のいく有益なものになるように努める,利用者との第一の接点である,と定義づけている。

   第2章では,アクセスサービスを蔵書と書架の管理,リーダーシップ,人的資源,安全とセキュリティ,サービスの提供と開発,サービスとしての空間の6つの領域に分け,それぞれの領域で必要とされるコンピテンシーをまとめている。例えば,第1章で挙げられた貸出しとコースリザーブの業務はどちらもサービスの提供と開発に分類されるが,この領域では,中核的なサービス機能の管理,利用者サービス・利用者との関係,マーケティングとアウトリーチ,ワークフロー,方針・手続,技術情報サービスの6つの観点から,求められるコンピテンシーを示している。

   加えて,学習や能力開発に資するものとして,各種のオンライン研修教材や,アクセスサービスに関連したコンピテンシーをまとめた他の文書を紹介している。なお,それ以外の学習・能力開発の機会の紹介は第4章に譲っている。

   第3章では,過去の文献レビューを踏まえ,アクセスサービス図書館員は,サイネージやパンフレット,ツアーガイド,ソーシャルメディア等を通じて利用者に正確な情報をわかりやすく提供することや,最前線で利用者のニーズを観察し,サービス,機器,空間に還元することによりマーケティングとアウトリーチの活動(E2111参照)に貢献してきたとしている。その一方で,2018年にASIGが大学図書館や研究図書館を対象に行った調査の結果から,アクセスサービス図書館員の役割を盛り込んだマーケティングとアウトリーチのための戦略的計画の欠如や,活動時間の不足,多様なツールを使いこなすためのスキルの必要性といった課題を指摘している。これらの課題に対し,本章ではマーケティングとアウトリーチの活動のための研修の提案や,役立つコミュニティ,論文,各種ツールの紹介をしている。

   第4章では,アクセスサービス図書館員が専門職として自らの専門性を主体的に高め,専門職の発展に貢献することが,所属する組織のアクセスサービス全体に好影響をもたらすとした上で,そのための具体的な場を執筆,会議,奉仕の3つの項目ごとに紹介している。執筆の場としては,ジャーナルやメーリングリストが,会議としては,1機関の主催するものから国際図書館連盟(IFLA)のフォーラムまで様々な規模の会議が挙げられている。図書館団体における委員活動等の奉仕の機会については,先の2項目で挙げられた出版物や会議のほか,関連図書館団体を情報源として紹介している。

   以上が本枠組みの概要である。大学・研究図書館における一般的なアクセスサービスについて検討・提言されているため,個別の機関における同サービスについて検討する際に有用であると考えられる。また本枠組みには,マーケティングとアウトリーチに従事するアクセスサービス図書館員の情報共有のためのイベント開催等,ACRL-ASIG自体への提言も含まれるため,今後の動向が注目される。

Ref:
A Framework for Access Services Librarianship. 2020, 33p.
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/standards/acrl_access_services_framework.pdf
“New ACRL Framework for Access Services Librarianship”. ACRL. 2020-05-07.
https://web.archive.org/web/20200520215106/https://www.acrl.ala.org/acrlinsider/archives/19773
加藤信哉. 21世紀のアクセスサービス<文献紹介>. カレントアウェアネス-E. 2014, (256), E1548.
https://current.ndl.go.jp/e1548
電子リザーブの著作権問題(米国). カレントアウェアネス-E. 2005, (60), E341.
https://current.ndl.go.jp/E341
益本禎朗. アウトリーチへのアプローチ:北米研究図書館協会(ARL)調査. カレントアウェアネス-E. 2019, (364), E2111.
https://current.ndl.go.jp/e2111