E2290 – 英国の子どもの読書傾向に関する調査レポート

 

 E2290

英国の子どもの読書傾向に関する調査レポート

国際子ども図書館企画協力課・繁元康太(しげもとこうた)

 

   子どもたちはどのような本を読んでいるのだろうか――本稿では,子どもの読書に関する英国の調査レポート“What Kids Are Reading”を紹介する。この調査は,英国ダンディー大学教授のトッピング(Keith Topping)氏が毎年実施しているもので,レポートは学習支援ソフトウェアの開発等を行っている米国企業Renaissance Learning社(以下「ルネッサンス社」)の英国支社から刊行されている。

   調査は,ルネッサンス社の提供する読書支援ソフトウェアAccelerated Reader(AR)から得られるデータ等を用いて行われた。ARは英国およびアイルランドの初等学校・中等学校およそ5,000校で導入されており,単に児童・生徒の読書の記録ができるだけでなく,読んだ本の内容を理解しているかを確認するためのクイズを出題し,正答率を記録するなど,幅広い機能を有する。調査では,ARから得られる様々なデータを用いることで,どのような本を読んでいるかということに加えて,いわゆる読解力なども分析されているのが特徴である。2020年版の調査では,2018年8月から2019年7月にかけての113万5,860人分のデータが用いられた。なお,ARは20万以上の書籍に対応しており,本調査は,出版されているすべての書籍ではなく,ARが対応している書籍のデータに基づいたものであるということに留意されたい。

   それでは,調査レポートの内容を見てみよう。レポートは,大きく2つのパート(Part AとPart B)に分かれている。Part Aは“How Kids Are Reading”というタイトルで,2つのセクションから構成されている。セクション1では,ARの出題するクイズの平均正答率(Average Percent Correct: APC)や,読んだ本の難易度(ATOSという指標が用いられている)などから計算された読書時間(Engaged Reading Time: ERT)といった指標をもとに,各指標の関連が分析されている。全体的に,APCやERTが高いほど読書の達成度も高くなる。学年別でみると,初等学校の児童の方が中等学校の生徒より高い数値を示していて,特にERTについては初等学校の5年生や6年生において高い数値を示している。セクション2では,ARを使用している児童・生徒と使用していない児童・生徒について,読書を楽しんでいるか,自由時間に読書をする習慣があるかなどの違いや,読解力との関係が分析されている。ARを使っている児童・生徒の方が,読書を楽しんだり,自由時間に読書をしたりする傾向にあるほか,読解力との関連も示唆されている。

   Part B “What Kids Are Reading”は,総合的に最もよく読まれていた本や著者のほか,生徒の成績別や,ARにおける人気度,地域別の特徴などの観点から,どのような本がよく読まれていたかが分析されている。分析のポイントの一つとして,本の難易度がある。例えば,初等学校の児童が読む本の難易度は学年に応じて上がっているが,中等学校に入ると上がらなくなる。この傾向について,児童・生徒たちによく読まれている著者を例に,より具体的に説明する。ここ数年の調査を見ると,「グレッグのダメ日記」シリーズで知られるキニー(Jeff Kinney)氏の著作が初等学校,中等学校の区別なく人気である。キニー氏の著作は,英国の学年で初等学校の6年生が読む程度の難易度とされている。しかし実際には,少し早く4年生くらいから読まれ始め,中等学校の3年目にあたる9年生以上に至るまで読まれ続けている。つまり,キニー氏の著作の学年を超えた人気の裏には,より低い学年の生徒が背伸びをして読んでいること,そして,より高い学年の生徒がなかなか次のステップに進まないということの,二つの側面があると考えられる。2020年版の調査では,初等学校高学年という,2019年版までの調査結果よりも早い段階で読む本の難易度が上がらなくなっていることも指摘されている。

   以上の調査結果から,全体的にみて年齢の低い子どもほど意欲的に読書に取り組んでいるといえるだろう。その一方で,いわゆるヤングアダルト世代の読書については課題があるように見受けられる。この傾向は,日本においても同様にみられるもので,興味深い(E1682参照)。子どもの読書について考えるとき,海外の動向や取り組みにも注目してみると,課題解決に向けたヒントが得られるのではないだろうか。

   なお,米国においても“What Kids Are Reading”というタイトルの調査レポートがルネッサンス社から刊行されている。こちらは特定の研究者による調査ではなく内容も英国版に比べると簡潔だが,あわせて参照されたい。

Ref:
“What Kids Are Reading 2020”. Renaissance Learning.
http://www.renlearn.co.uk/what-kids-are-reading-2020/
“What Kids Are Reading 2019 – The Big Launch!”. Renaissance Learning. 2019-03-06.
http://www.renlearn.co.uk/renaissance-blog/wkar-19-launch/
“What Kids Are Reading”. Renaissance Learning.
https://www.renaissance.com/learning-analytics/wkar/
“子どもの読書傾向に関する調査 “What and How Kids Are Reading”(英国)”. 国際子ども図書館. 2020-04-28.
https://www.kodomo.go.jp/info/child/2020/2020-057.html
今井福司. 高校生の読書に関する意識等調査報告書(日本). カレントアウェアネス-E. 2015, (283), E1682.
https://current.ndl.go.jp/e1682