E2289 – Code4Lib JAPANカンファレンス2020,オンラインにて開催

カレントアウェアネス-E

No.396 2020.08.20

 

 E2289

Code4Lib JAPANカンファレンス2020,オンラインにて開催

物質・材料研究機構・田辺浩介(たなべこうすけ)

 

   2020年6月20日から21日にかけて,Code4Lib JAPANカンファレンス2020が開催された。8回目の開催(E2198ほか参照)となる本カンファレンスは,当初は愛知大学(愛知県豊橋市)で開催される予定であったが,新型コロナウイルス感染症の影響により現地開催を行わず,オンライン会議システムZoomを用いた開催となった。カンファレンスには過去最高となる148人の参加があり,例年以上の活発な議論や質疑応答が行われた。筆者は本カンファレンスに実行委員として参加しており,カンファレンスの発表に加えて,オンライン開催という運営面の話題においても本報告で触れたい。

   基調講演は2件設定され,1日目は橋本雄太氏(国立歴史民俗博物館),2日目は岡田美智男氏(豊橋技術科学大学)によって行われた。

   橋本氏の講演は,オンライン翻刻プロジェクト「みんなで翻刻」について行われた。翻刻作業に多くの参加者を継続的に取り込むためのサービスデザイン,またその成果を他のサービスやコミュニティへ波及させていくためのシステムの実装例やアウトリーチの実例が紹介された。岡田氏の講演は,「弱いロボット」をテーマとして行われた。ロボットの動作にたどたどしさや頼りなさを持ち込み,コミュニケーションの受け手である人間との間に「委ね合い」の関係を構築することで,人間から問題解決の手助けを引き出すという,人間とロボットとの間の「弱さ」や「不完全さ」に基づくコミュニケーションデザインについての考察が行われた。

   両者の講演に共通した話題は,アプリケーションやサービスとその利用者を結びつけるインターフェースのデザインであった。講演の中でも,図書館の利用者による地域資料の解題や人工知能(AI)による本の読み聞かせなど,具体的な図書館サービスへの応用が考えられる例が紹介されていた。両者の基調講演で述べられていた「他者の参加や対話を促す」という仕組みのデザインは,図書館サービスのさまざまな場面で応用できるものであると感じた。

   通常発表のセッションは「デジタルアーカイブ・コンテンツ活用」「サービス設計・UX」「COVID-19への対応」というテーマに分けられ,合計8件の発表が行われた。また,ライトニングトーク(開催当日に募集する5分間の短いプレゼンテーション)では,2日間で合計18件の発表が行われた。

   本カンファレンスを主催するCode4Lib JAPANは,必ずしもプログラミングやシステム開発のみを対象としたものではなく,広く図書館の情報技術の活用に関するコミュニティである。このため,比較的大規模な組織とみなされる大学などの研究機関だけでなく,学校や公共図書館での事例が紹介されることは,コミュニティにとって非常に意義の大きなものである。本カンファレンスでも,大井将生氏(東京大学)による学校教育でのジャパンサーチ(E2176参照)の活用事例や,中野ひかる氏(関西学院千里国際キャンパス)による新型コロナウイルス感染症の影響を受けて閉鎖された学校図書館でのリモートワークの事例,伊藤孝良氏(豊橋市図書館)によるiPadアプリ「ピッケのつくるえほん」を用いた同館での外国人児童を対象とした物語づくりワークショップの事例が発表された。また,新型コロナウイルス感染症と図書館での情報技術の活用についても,常川真央氏(saveMLAK COVID-19libdataチーム)の「COVID-19の影響による図書館の動向調査」(E2283参照)の発表や,アンカンファレンス(参加者がその場で議題を決め,その議題に興味のある他の参加者が集まって実施する会議)で議論が行われた。

   先述のとおり,今回のカンファレンスは初めて全面的にオンラインで行われた。本カンファレンスの開催は6月中旬で,すでに筆者が参加する外部組織との会議や学会・研究会はほぼすべてオンライン開催となっていた時期ではあるものの,今回のようなカンファレンスで発表者や参加者が集まるかどうか,またオンラインでの発表の際に映像や音声に問題が発生しないかなど,進行に不安を持っていた。しかしながら,蓋を開けてみると150人近くが参加し,期間中の参加者間のやりとりに用いるSlackのチャンネルでも,例年以上に活発なやりとりが行われた。また,開催1週間前に発表者に参加してもらいリハーサルを実施したこともあり,オンラインでの発表もほとんど不具合なく行うことができた。カンファレンスの実行委員,そして円滑な進行に協力していただいた発表者や参加者のみなさまには,改めて御礼を申し上げたい。

   カンファレンスの発表資料と当日の発表のほぼすべての映像は,通常発表・ライトニングトークとも,例年どおりカンファレンスのウェブサイトで公開されている。次回のカンファレンスの開催は,2021年9月11日から12日を予定している。オンライン開催となるか通常開催となるかは未定だが,新たな参加者とユニークな取り組みに出会えることを心待ちにしている。

Ref:
Code4Lib JAPAN.
https://www.code4lib.jp/
“Code4Lib JAPAN Conference 2020”. Code4Lib JAPAN.
https://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2020
“C4ljp2020/program”. Code4Lib JAPAN.
https://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2020/program
みんなで翻刻.
https://honkoku.org/
ピッケのつくるえほん.
https://www.pekay.jp/pkla
ICD-LAB.
https://www.icd.cs.tut.ac.jp/
宮澤優子. Code4Lib JAPANカンファレンス2019,大阪にて開催<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (380), E2198.
https://current.ndl.go.jp/e2198
国の分野横断統合ポータル ジャパンサーチ試験版公開後の動向. カレントアウェアネス-E. 2019, (376), E2176.
https://current.ndl.go.jp/e2176
saveMLAK COVID-19libdataチーム. 現在(いま)をアーカイブする:COVID-19図書館動向調査. カレントアウェアネス-E. 2020, (395), E2283.
https://current.ndl.go.jp/e2283