E1682 – 高校生の読書に関する意識等調査報告書(日本)

カレントアウェアネス-E

No.283 2015.06.25

 

 E1682

高校生の読書に関する意識等調査報告書(日本)

 

 文部科学省の「第三次子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」(2013年5月)では,小学生,中学生,高校生と進学するにつれて読書離れが進む傾向があるとされている。文部科学省は2015年4月16日,不読率(1か月間に1冊も本を読まなかった「不読者」の割合)が高い高校生の読書の実態を把握するため,「高校生の読書に関する意識等調査報告書」(以下,報告書)を公開した。本調査は,文部科学省からの委託によって,浜銀総合研究所が調査を実施している。学校が立地する地域や,学科のバランスを考慮して,全国から無作為に抽出した150校の高等学校(教員)及びその生徒,保護者を調査対象としている。調査にあたっては,読書活動に関する専門的知識を有する有識者等からなる調査検討委員会が設置され,調査手法・内容に対して指導助言が行われている。

 調査方式は,調査対象とした各学校に対して調査票等を発送し,学校向け調査,生徒向け調査については各学校が実施し返信する方式,保護者向け調査は生徒が家庭に調査票を持ち帰り,各家庭が回答し返信する方式をとっている。本調査では,生徒向け調査として,「基本属性」,「生活習慣」,「読書習慣」,「読書環境」の4つの内容について,また保護者向け調査として,「保護者の読書習慣」,「高校生の読書推進の課題認識」の2つの内容について,そして学校向け調査として,学校の規模・特徴,学校図書館の状況,読書推進活動,高校生の読書推進の課題認識の4つの内容についてそれぞれ調査を行っている。

 報告書第2章の全体概要では,読書に対する意識,1日あたりの読書時間,1か月あたりの読書冊数などの14項目にわたる単純集計結果が示されている。紙幅の都合上,個々のデータについて詳細に取り上げることは避けるが,高校生の6割は読書が好きでありながら,半数以上は1か月に1冊も本を読んでいない,読書する場所としては自宅,教室などが挙げられているなど,それぞれの項目ごとに興味深い結果が示されている。

 第3章では,次のような詳細な分析がされている。

(1)どのような生徒が多く本を読んでいる(読んでいない)のか,背景にどのような要因があるのか

「個人属性等に関する要因」として生徒自身の忙しさ,「家庭環境要因」として保護者の読書冊数,家庭の読書冊数や幼少期からの読書に対する保護者の関わり方,「学校・図書館環境要因」として,全校一斉読書などの取り組みが提示されている。

(2)「多くの本を読んでいる高校生はどのように本を読んでいるのか」

 本を読んでいる生徒は,教室での読書機会に恵まれており,本を購入する以外にも学校図書館で借りている者の割合も大きかった。また,読まない生徒と比べて,読書を「楽しみ」と考えている回答が多く,「能力等を高める」と考えている者の割合は小さかった。この点から,報告書では普段本を読まない生徒は,読書を難しいものとして捉えがちなのではないかと分析されている。

(3)高校生がなぜ本を読まないのか

 普段から本を読む習慣がなく,興味関心等に合う本が身近にないことが理由として挙げられ,生徒自身が忙しいこと,地域の図書館や書店が近くにないことも要因として考えられると示されている。

(4)高校生がどのようにすればもっと本を読むようになると考えられるのか

 学校図書館の充実や,地域の図書館等の利便性を高める方策は,読書をあまりしない生徒に対しては効果が限定的である。また,忙しいという要因については高校での取り組みや環境整備が必要であるとされている。また,そもそも本を読むのが苦手であったり,読書習慣を持たなかったりする生徒に対しては,高校以前の段階を含めた取り組みや方策が必要であるとも示されている。

 第4章のまとめでは,高校生の読書冊数について「個人属性等に関する要因」,「家庭環境要因」,「学校・図書館環境要因」の全てが影響している可能性があったとしている。その上で,時間がない生徒に対しては,学校・教室内で読書の機会を設けることや,長期休暇の期間を活用した読書の推進を図ることが必要だとしている。そして,読書習慣がない生徒については,高校生以前の段階を含め興味を持たせる取り組み・環境整備とともに,文字が少なく堅苦しくない書籍に触れる機会を増やすこと,アニメやマンガ,テレビや映画等と関連のある書籍をPRする方策等について検討すること,無料の電子書籍コンテンツの紹介・普及,本の交換や配布のイベントを行うことが必要ではないかとしている。

 本調査は高校生の読書について諸要因や全容を把握することが主眼にあり,今後の方策について,あくまで示唆的な提言しか行われていない点は物足りなく感じるかもしれない。しかしながら,対象とする生徒の性別,学校の設置主体,学科などは実際の母集団をほぼ反映した形で調査が行われていることから,今後の方策を考える上では重要な基礎資料となり得ると思われる。

白百合女子大学文学部共通科目・今井福司

Ref:
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/05/1335078.htm
http://www.kodomodokusyo.go.jp/happyou/datas.html

 

 

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