E1689 – 司書を配置しない大学図書館カウンターの事例<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.284 2015.07.09

 

 E1689

司書を配置しない大学図書館カウンターの事例<文献紹介>

 

Timothy Peters. Taking librarians off the desk: one library changesits reference desk staffing model. Performance Measurement and Metrics. 2015, 16(1), p. 18-27.

 米国ミシガン州の,約2万7,000名の学生が在籍するセントラル・ミシガン大学(以下CMU)図書館で,2013年度にカウンターの人員配置が変更された。変更後の人員配置は「司書待機型配置モデル」(以下新モデル)と呼ばれ,司書はレファレンスカウンター(以下カウンター)に常駐せず,学生スタッフや准専門職では回答できないレファレンスに関してのみ,対応するというものである。CMU図書館の職員数は約70名で,レファレンス部門には,課長と8名の司書,その他2名の准専門職と10名程度の学生スタッフが所属する。

 このほど,新モデルについて検証した論文が同館の職員によって発表された。以下その内容を紹介する。

◯2012年度までの検討と結果

 2012年度夏期に,CMU図書館は,カウンターに司書を配置せず,学生スタッフを配置することとした。その後2013年度夏期に,新モデルを本格的に適用するための検討が行われ,(1)カウンターでの利用者からの質問の数,(2)(1)に占めるレファレンスの割合,という2つに着目したという。

 (1)は,2012年度は,2003年度の半数近くになり,2010年度からしても32.2%減少したという。その一方で,CMUの主要な図書館であるパーク図書館における入館者数は,2012年度は2003年度から比べると減少幅は17.7%で,2010年度からでは,8.8%しか減っていないことが示された。(2)は,統計採取の方法が変更されたため,2008年度以降のデータが用いられたが,2008年度の32.2%から2012年度は26.2%にポイントが減少したという。

 (1)のデータから,オンラインでコンテンツが利用可能になったことや,利用者がバーチャルコミュニケーションを好む傾向にあるといった要因で,来館はしてもあまりカウンターは利用しなくなった,という利用者行動の変化が指摘されている。また(2)については,一定の専門知識を要する質問は全体の4分の1程度しかないことから,司書をカウンターに置くこと自体に疑念が呈されている。

 この他,論文では,新モデルを導入できた要因の1つとして,図書館で全学共通の印刷システムが導入されたことが挙げられている。また,プリンターの管理業務が2012年度春期に他の部門へ移管し,レファレンス部門が対応せずに済むようになったことも大きいとされている。印刷関連の質問は2003年度以降で最多だった2010年度の1万592件から6,335件にまで減少し,例年新学期になると印刷関連の質問対応とプリンター修理に追われていた学生スタッフが,他の質問にも対応できるようになったという。加えて,2011年度春期から,司書の代わりを務めるため,准専門職がカウンターに出るようになったことも重要な要因として挙げられている。

 また論文では,北米研究図書館協会(ARL)による「レファレンス業務」の定義の広範性についても言及されている。ARLの定義上,例えば,蔵書目録で本を検索する,製本された逐次刊行物の排架場所を回答する,といった司書以外でも容易に対応可能な質問も含めているので,同館が「レファレンス業務」としてとらえ,計上しているレファレンスの数に比べ,司書の専門知識を要するような真の意味でのレファレンスは少ない,という可能性が指摘されている。

◯2013年度‐新モデル導入から1年を経て‐

 カウンターでの質問数の減少が最も顕著で,2012年度から18%減少し,2002年度の約3分の1にまで減少した。司書へのレファレンスも,2008年度から比較すると,46.2%減少した。また,統計採取方法についてもテキサス工科大学図書館長のBella Karr Gerlich氏が開発した,“Reference Effort Assessment Data(READ) scale”という,レファレンス業務に要する労力,技能,時間等からレファレンスを分類する手法などを参考にして,改善された。その結果,“Reference1”(司書ではなくても回答できる基本的なもの)と,“Reference2”(司書の支援を要する複雑なもの)の区分が設けられた。カウンターでの質問に占める,両者合計の割合は28%であったが,“Reference2”の割合はわずか2.7%であったという。

 また,新モデルの導入により,司書は事務室で他の業務をこなすこと並びにより多くの文献利用指導講習会の開催及び学生相談への対応が可能になり,特に2010年度まで1年度に約150件程度であった学生相談は,329件も対応することができたという。

 一方で,新モデルに関して生じた唯一の懸念として,学生スタッフが勝手にレファレンスに回答している可能性が挙げられている。新モデルでは,学生スタッフは,“Reference1”のみ回答し,“Reference2”は司書に照会することとしたが,上述のように2.7%しか照会がなかった。そのため,CMU図書館では,学生スタッフが指示通り対応しているかどうか確認するため,レファレンスの記録の監視を始めたという。

 最後に,この新モデルの成功は,図書館におけるカウンターの人員配置に一石を投じるものであると結ばれている。

関西館図書館協力課・葛馬侑

Ref:
http://dx.doi.org/10.1108/PMM-11-2014-0038
http://libguides.cmich.edu/c.php?g=104212&p=675807
https://www.cmich.edu/about/locations_maps/CampusMap/NortheastCampus/Pages/Park_Library.aspx
http://www.ala.org/rusa/resources/guidelines/definitionsreference
http://readscale.org/
CA1297