CA1297 – レファレンスデスクの向こう側から−フォーカス・グループ・インタビューによる利用者研究− / 阪脇孝子

カレントアウェアネス
No.245 2000.01.20


CA1297

レファレンスデスクの向こう側から
−フォーカス・グループ・インタビューによる利用者研究−

技術の進歩により学術図書館が変わりつつある。変化は特にレファレンス・サービスにおいて著しい。インターネット上でOPACが公開されたり,各種の商用オンライン・データベースが登場するなど,非来館型のサービスが増加している。これに伴い,利用者の利用スタイルや,図書館に対する要求も変化しつつある。このような状況下で,レファレンスに携わる図書館員の役割についても変化が求められている。

このような変化に対応するためには,特に利用者の視点から,レファレンスの質と効果を測定することが必要である。図書館は本当に利用者が必要とするサービスを提供しているかを確認し,よりよいサービスの方向を見いださなければならない。

こうした問題意識から,ジョンズ・ホプキンス大学図書館では,1995年春〜1996年春にかけて図書館利用者に対しフォーカス・グループ・インタビューを行い,図書館利用経験や図書館に対する意見を調査した。フォーカス・グループ・インタビューとは,比較的同質な人々を複数集め,ある特定の話題について見解を出すように司会者が仮説と質問を用意して,自由に議論してもらう調査手法である。フォーカス・グループに与える質問を作成するために,2週間の間,いくつかのサービスポイントで,比較的忙しい時期に,実際の利用者の質問を集めた。

フォーカス・グループは,学部生のグループ2つ,大学院生のグループ2つ,継続学習部学生のグループ1つ,教職員のグループ1つの計6グループで,全38名の参加者が各々4〜10人のグループに分かれた。参加者の選考に当たっては,学部,学年,勤続年数などが分散するように配慮した。また,留学生も含めている。

調査結果としては,まず第一に,参加者の多くが図書館員に対して質問がしづらいと考えている。利用者は,図書館が複雑な情報組織をもっているとは考えていないし,図書館を使うための訓練を受けてもいないのに,必要な情報は自分で見つけだすことができて当然だと思っている。質問をすれば自分の無知をさらけだし,図書館員に責められるのではないか,といった感覚もある。

第二に,多くの人は自分が情報の見つけ方をよく知っていて,図書館もうまく使いこなせていると思っている。

第三に,図書館を使いこなせていると自信を持っているにもかかわらず,多くの人は基本的な情報検索のやり方すら十分には理解しておらず,また多くのサービスや手段に気がついていない。大学院生は比較的良く理解しており,ヘルプ画面などを自分で読んだりしていたが,それでもオンライン目録についてよくわかっていなかった。

第四に,図書館の使い方や情報検索の仕方を教えるクラスを取ることは,学生や教員にとって優先事項ではない。図書館を利用する技術は経験によって向上すると多くの参加者は考えている。また,学生は友人や経験から図書館の使い方を学ぶ事が最も多い。学生は,図書館員がこういったクラスに高すぎる水準のものを求めていると感じていることがコメントから伺える。データベースの限界について,雑誌がどのように排列されているかについて,雑誌の所蔵情報をどのように読みとるかについて,オンライン目録とデータベースとの違いについて理解する必要があるのに,学生達は進んでそのようなクラスを受講したいとは思っていない。また,参加者は図書館の配布物について,長たらしく,たくさんの内容を詰め込んだものを好まず,もっと簡潔なものでよいと思っている。

第五には,総合案内カウンターは不親切で役に立たないと思われている。総合案内カウンターの職員は,利用者を手助けしようという気がない,と思っている。さらに,総合案内カウンターの職員は,ほとんど利用者を専門職員に案内していない。総合案内カウンターに寄せられた質問のうち,約40%以上は,専門職員に案内されるべきものだったのに,実際には6%くらいしか案内されていなかった。総合案内カウンターの職員が,自分の力量以上の問題を扱おうとするために,利用者には役に立たない,と思われてしまうのである。レファレンス担当の職員は,有能で知識があって,優れていると思われているのに,上記の事情に加えレファレンスカウンターの位置の問題もあって,多くの人は専門職員のところまでたどりつけていない。

第六に,サインがよくない。案内板の場所がわかりづらいこともあり,総合案内カウンターで尋ねられた質問の3分の1は資料の所在や施設の配置に関するものであった。また個別のサインがあまりに多く,結果として利用者がそれを見ないなどの問題もあった。

これらの結果から,以下のような提案がなされている。まず,利用者のセルフサービス的な姿勢に気づき,見直す必要があるということである。図書館は複雑な情報システムであり,援助を提供する専門家がいるということをはっきりと伝えていき,実際の図書館の複雑さと利用者の直感的な把握とのギャップを埋めていく,という問題に取り組んでいく必要がある。

さらに,図書館利用教育は最優先事項ではない。それよりもランガナタンの図書館学の五法則の四番目,「図書館利用者の時間を節約せよ」ということが重要である。図書館員は利用者の手助けをし,案内をしていく必要がある。サイン,案内や地図,1枚ものの案内,WWWなど,対策はいろいろある。サインについては,職員のみにまかせておくべきではなく,外部の専門家に依頼することも必要である。

また,専門の図書館職員がいる,ということを広報し売り込むことが大切である。専門職員は非専門職員と区別されるべきであり,総合案内とレファレンスという2つのサービスポイントがあるということだけでなく,それぞれの役割分担に関してもはっきりとわかるように案内をすべきである。

このようにレファレンス部門は,利用者との連携と,利用者のニーズや好みを理解することに焦点をおき,これまでのサービスに固執せず利用者が情報を手に入れやすくするようにサービスを考えていかなくてはならない,ということがここで主張されている。

阪脇 孝子(さかわきたかこ)

Ref: Massay-Burzio, V. From the other side of the reference desk: a focus group study. J Acad Librariansh 24 (3) 208-215, 1998
Vaughn, Sharon et al. グループ・インタビューの技法 慶應義塾大学出版会 1999