CA1099 – 目録作成とアウトソーシング−アメリカの事例− / 山岡規雄

カレントアウェアネス
No.208 1996.12.20


CA1099

目録作成とアウトソーシング−アメリカの事例−

人員削減,予算の減額という悪条件の下で,増加し続ける資料をいかにして迅速に利用者に提供すればよいのかというのが,現在多くの図書館が直面している問題であるといえよう。この問題の解決のためにオハイオ州のライト州立大学図書館(WSU)が採用した目録作成部門の全面的アウトソーシングという手段は,アメリカの図書館界に大きな波紋を投げかけた。WSUの担当者は,コスト削減と処理時間の短縮による利用者サービスの向上という2点においてアウトソーシングの効果を肯定的に評価している。

しかし,こうした全面的アウトソーシングに対しては批判の声も高い。まず第一に,生産性のみを重視して図書館業務の核ともいえる部分を業者に委ねていいのかという図書館員としてのプライドを問題にする批判がある。またその一方で,アウトソーシングの効果そのものを疑問視する議論も存在する。効果を疑問視するというよりも,必ず効果があると決めてかかることの危険性を指摘していると言ったほうがよいであろう。その種の議論の趣旨は,以下のようにまとめられる。確かに一般的にアウトソーシングには,1)低価格高品質の製品を得ることができる,2)経営の柔軟性を確保することができるという利点がある。しかし,1)については,委託する業務が満たすべき品質の基準を確定し,委託先の業者の能力を的確に見定めないと逆に割高な選択をしてしまう恐れがある。現に,マサチューセッツ州のタフツ大学図書館の遡及入力作業のアウトソーシングにおいては,修正を要するデータが12万件を越すといった惨憺たる結果に終わっている。また,2)についても,委託先の業者の切り替えにもそれなりのコストがかかるなど諸々の理由により,特定の業者との契約関係が継続される傾向にあり,柔軟性どころか業者なしにはやっていけないというところまで依存関係を深めてしまう恐れがある。したがって,図書館業務の核である目録作成部門を全面的にアウトソーシングするのは危険であるというのである。

こうした批判の矢面に立たされているWSUにしても,今回の決定はWSUの固有の事情に基づくものであり,すべての図書館に有効であるとは限らないと述べている。それでは目録作成業務の効率化のためには,他にどのような選択肢が残されているのであろうか。一つの解決策は,新たに外部の力に頼るのではなく,内部組織を再編して,より効率的な作業の流れを作り出す方法である。具体的には,発注と同時に書誌データがダウンロードされるというような統合システムを開発し,収集部門と目録作成部門とを一体化させるという例がある。また,多くの図書館ではFastCatと呼ばれる高速処理ユニットを編成し,受入れ,チェックイン,カタロギングを一手に任せている。FastCatは,主に英語資料を中心に,書誌ユーティリティのデータを無修正あるいは必要最小限の修正を加えるだけで,自館のOPACに取り込むことにより,カタロギングのスピードアップを実現している。

また,自助努力と全面的アウトソーシングの中間に位置する解決策として,外部業者の新サービスを導入するという方法がある。OCLCが95年から開始したPromptCatというサービスは,書店が図書館の一括見計らい納入方式(approval plan)に基づいて選択した資料のデータをOCLCに転送し,OCLCがOnline Union Catalogから該当する書誌データを抽出し,図書館の所蔵の印を付与して,図書館の要望に応じ,カード,磁気テープ,ファイル転送のいずれかの形で提供するという内容になっている。ミシガン州立大学図書館で試行した結果,一括見計らい納入方式に基づいて送付された資料のうち90%がこのサービスで処理できたという。

いずれの解決方法を取るにせよ,OCLCなど書誌ユーティリティのデータをほとんど無修正のまま受け入れることにより,業務の効率化を図るという点では共通している。こうしたことが一般的に行われるようになった理由としては,自館の目録の質を維持するためのデータのチェックにこだわるよりも,利用者に新しい情報を迅速に提供することの方が重要であるという発想の転換の他に,書誌ユーティリティのデータが詳細なチェックを必要としないほど精度を高めているという事実を挙げることができる。

以上のように,程度の差こそあれ,何らかの形で外部資源に頼らなければならないというのが一般的な趨勢であるといえよう。しかし,このことは必ずしもカタロギングに関する専門知識が不要になったということを意味するものではない。前述のFastCatにしても,すべての資料を扱うわけではなく,扱いの難しい外国語の資料などは,依然として従来からの目録作成部門に回されるのが普通である。また,アウトソーシングの場合であっても,まったくの手放しというわけではなく,最終的にデータの品質の評価をするのは図書館の仕事である。要するに伝統的な業務分担の枠組みが見直しを迫られていると言うのが適当であり,外部資源の利用をも視野に含めた柔軟な姿勢が図書館に求められていると見るべきであろう。

山岡 規雄(やまおかのりお)

Ref: Winters, Barbara. A. Catalog outsourcing at Wright State University: implication for acquisitions managers. Libr Acquis 18(4) 367-373, 1994
Rider, Mary M. Developing new roles for paraprofessionals in cataloging. J Acad Librariansh 22(1) 26-32, 1996
Dunkle, Clare B. Outsourcing the catalog department: a meditation inspired by the business and library literature. J Acad Librariansh 22(1) 33-44, 1996