カレントアウェアネス
No.208 1996.12.20
CA1097
テクニカルサービスの今後
テクニカルサービス部門の将来は,どのようになるのか(CA1035参照)。アレン(Allen)等は,電子技術の発信地,北米のテクニカルサービスについて,経営の立場から,現状を分析,未来を推測している。
1. 緊縮予算と能率向上
将来に変化をもたらす要因には,情報通信産業の発展とともに,緊縮予算がある。分析は主に大学図書館についてである。そこでは,国の政策の影響から経費節減が1990年代の合い言葉だ。雑誌購読料の高騰・電子出版購入費・コンピュータの維持費用も,予算を圧迫し続けるだろう。そこで,人件費を削り,能率向上を目指すとともに,アウトソーシングできるものを探す。現在広く行われている収集業務と製本に加えて,議論噴出の目録業務,リソースシェアリングも有望である。もちろん,外注には,事前の注意深い業務分析,業者の選定,交渉が必要である。
目録については,現在はコピーカタロギングが主流であるが,OCLCの新規サービスの普及により,外注化が進みそうである。例えば,Prompt Catサービスにおいて,OCLCは収集請負業者と協力し,図書館に発注資料が到着すると同時に目録が取り込まれるようにした(CA1099参照)。
リソースシェアリングについては,地域のネットワークが育っているが,OCLCによる全国的規模での基盤作りが課題である。また,図書館面積の拡大が難しい中,共同して雑誌を製本保存するようにできればさらに有効だろう。なお,図書館に入りきらなくなった資料は,将来も遠隔地の書庫に保存される。現存のすべての資料の電子化は見込まれていないのである。
2. 電子資料と紙資料
電子出版は増加の一途をたどるが,当分紙資料の出版もなくならない。2015年に流通する知識の50%が紙という予測がある。利用者は,電子資料という新しい選択肢を得たのであり,テクニカルサービス部門はサービスを多様化して対応するのである。
3. アクセスの拡大
インターネット上の電子情報について,アクセスの確保が課題である。電子ジャーナルについて,MITは既存の図書館システムに取り込んでしまったが,他の図書館では,GopherやWWWページポインターを作成しているだけだ。将来は,目録中に直接,ポインターを取り込むことになるかもしれない。また,仮想図書館開発プロジェクトも,政府の補助金で進行中である。OCLCの実験プロジェクトでは,USMARCとAACR2が電子情報に耐えるかもみられた(CA1025参照)。
電子資料に限らず,より多様なアクセスを可能にするため,現在のMARCをHyperMARC (MARCIII)に改訂すべきという意見がある。著者名のアクセスポイント形を一つの形にまとめるのではなく,複数の形を認めて,それらを関連付けること,一つの物理単位,その集合,あるいはその一部に対してそれぞれ別のレコードを作成し,それらを関連付けることが,提案されている。
この点については,英国図書館のオディー(Oddy)は,AACR2は変える必要がなく,MARCを変えれば電子資料にも対応できると言う。また,標目形について,BLとLCが共同で著者名典拠ファイルを作成するプロジェクト,BLがLCSH利用を拡大すること(CA1093参照)を紹介し,テクニカルサービス部門は標準化における協力こそが課題と主張する。
さて,話を再び北米に戻そう。章レベルのアクセスについては,図書館目録では扱われず,紙資料ではBlackwell社のTOCやFirstSearchのProceedingsFirstなどの商業的サービスが現在利用できるが,今後もそのような状況が続くだろう。電子資料については,仮想図書館開発プロジェクトにおいて,電子資料のマーク付けに関する標準仕様を開発しようとしている。
また,全ての資料へのアクセスの確保を目指せば,滞貨の解消と,現在,図書館の方針で目録が作成されていないヴィデオ等の目録作成が課題となる。これらは,プロジェクト処理が原則であり,アウトソーシングの候補である。
4. 組織の変化
上記の要素を取り込んで,アクセスのための新しいシステム作成が必要となるだろう。アウトソーシングで浮かせた人材はここに投入されるのである。その際テクニカル・サービス部門が,データファイルの作成・維持管理のみに責任を持つことだけに留まるかどうかで将来は異なる。図書館組織が非階層化し各部局間の壁が薄くなれば,パブリックサービス部門,システム作成部門との協力を密にし積極的にシステム作成に参加して行けるかも知れない。
カタロガーが書誌作成,分類作成の専門家であることの比重は軽くなるかもしれないが,アクセスシステムのデザイン,維持管理を新たに専門とすることができるかも知れない。
5. ソフトウェアの進歩
画像を主体とした電子資料が登場しており,それらを収集整理分類し,アクセスの手段を提供しなければならないが,これには新しいソフトウェアが必要である。
他に,全文へのアクセスができる自然言語検索システムが実験中であり,収集整理業務のエキスパートシステムの開発も望みがないわけではない。
情報ネットワークを広げるために,Z39.50(CA931参照)が開発されたが,図書館で作成したファイル以外にさらにアクセスしやすくなるようにソフトウェアの開発が続けられるだろう。
さて,過去においてもそうであったように,情報技術の進歩が将来の図書館運営を変化させることは疑いようがない。経済的に許される限り,資料として業務として,図書館はその技術を取り込んで行く。しかし,その目的が,いつでも,どこでも,必要な時に情報を提供するという点であることに変わりはない。テクニカルサービス部門はそのための基盤を作る。新しい状況にどのように対応するのかは,図書館によって,異なるだろう。しかし,その対応策の核となる部分であることは同じである。変化する資料に対応し,利用者の要求に合わせて優先順位を変え,仕事の量が多すぎればアウトソーシングを考え,よりよいシステムに積極的に変えて行くのである。
安積 暁美(あづみあけみ)
Ref: Allen, Nancy H. et al. The future of technical services: an administrative perspective. Adv Librariansh 19, 159-189, 1995
Oddy, Pat. Bibliographic standards for the new age. Libr Rev 45(2) 30-40, 1996