カレントアウェアネス
No.208 1996.12.20
CA1098
「分類」の新たな役割
長らく図書館の名脇役として並ぶところのなかったカード目録も早々に表舞台を去り,その裏方たち―整理技術のツール類も,新天地で新たな技を発揮できるかどうか,今曲がり角にいる。分類法も例外ではない。
すでに2年前のことになるが,1994年10月,第36回アラートン集会(イリノイ大学図書館学校主催の研究集会)が「図書館と情報ネットワークにおける分類法の新たな役割」をテーマに開催された。DDC(デューイ十進分類法),UDC(国際十進分類法),BSO(Broad System of Ordering注),BC(ブリス分類法),NLMC(米国国立医学図書館分類法),LCC(米国議会図書館分類法)といった6つの主要分類法の代表者が,それぞれの将来構想について発表したほか,パネルディスカッションも行われた。また,会議の締めくくりにはM.ベイツ(Bates)らによって,分類が新たな役割を追求するにあたっての12の指針が,非常に積極的かつ前向きな姿勢で提示された。ここでは,主としてL.M.チャン(Chan)の基調報告とベイツらの指針をもとに,分類全般の対応策と課題を整理するとともに,個別の分類法としては,DDC第21版の改訂方針について簡単に触れておきたい。
まず,一つには従来から分類がもっている利点を,ネットワーク環境下で活用できるように積極的にアピールすることが必要である。論理的な主題の関係づけと階層構造,そして記号法が分類法のいわば「売り」である。膨大なファイルの中から必要な分野だけを切り出すために,分類が有効なのは言うまでもない。記号を介した検索は,より正確かつ網羅的に主題を集中させることができ,さらにその網を広げたり狭めたりできる。また,体系的な配列はブラウジングに適し,階層構造は画面上で利用者を導くナビゲーションに威力を発揮するはずである。UDCのような国際的な分類法には,多言語間のスイッチング機能が期待でき,ファセット構造を備えた分類法ならば,事後結合型の検索方式を取り入れることも可能であろう。こうした機能を実現するには,既存分類法の改訂や新たな分類システムの開発に加えて,オンライン目録開発に分類側からも参加して,分類を取り入れた主題検索システムを開発すること,また,インターネット上での分類の利用を拡大することなどが必要である。
次に重要な点は「連携」であろう。コンピュータ目録においては,分類法も件名標目やシソーラスといった統制語彙システムとともに,主題検索用の索引言語の一つとして同じ土俵に上る。その場合,分類にいかに前述のようなメリットがあるとしても,利用者には記号より言葉のほうがとっつきやすい。両者をリンクすることができれば,ある言葉を手がかりに分類へ導き,分類の構造を通じて検索の網を広げることができよう。また,統制語彙システムを媒介に,他の分類法とリンクすることも不可能ではなかろう。1996年になって,LCが刊行したCD-ROM,Classification Plusは,LCCとLCSH(米国議会図書館件名標目表)をリンクし,フルテキストで収録したツールであり,その成果が注目される。
しかしながら,今後新たに分類の対象となるような情報資源は,今まで分類法が相手にしてきた資料とは,大きく異なっているはずである。分類が対象とすべき情報の単位も定かではないし,主題の概念さえ変化してゆくであろう。その際,本当に既存の分類法でよいのだろうか。チャンの報告にも,いかに旧来の分類法を新しい環境下において活用するかを模索する姿勢とともに,それに代わる新しい分類システムの開発に,図書館の分類の担い手たちがかかわることを期待するスタンスが読みとれる。
さて,DDCであるが,20版(1989)から7年を経て,1996年に21版が刊行された。刊行形態は,冊子体(4分冊)とWindows対応のCD-ROMである。94年当時のミッチェル(Mitchell)の報告によれば,索引やマニュアルの充実が図られたほか,表の大幅な改訂は350−354(行政),370(教育)そして560−590(生命科学)を中心に行われ,宗教分野でも,296(ユダヤ教)および297(イスラム教)が改訂されている。主題分野の新たな考え方を反映し偏りを正すこと,ファセットを整備し,より構造的な整合性を高めることが,その改訂方針である。
たとえば報告中の例は,DDCの方針を端的に示している。「米国の州の人事行政」一般を扱った図書は,20版では353(米国の行政)の下位の353.9(州の行政)の下で細分され,353.931という6桁の分類記号であった。ところが21版では,352(行政一般)の下位の352.6(人事行政)の下で細分され,分類記号は,352.62130973と11桁になる。この中には,2つのファセットインディケータと2種類の補助表の記号が含まれている。米国を主題の上で特別待遇することをやめ,行政分野の最近の動向に従った結果であるという。
確かに,分類法が今後主題検索システムの骨格として役割を果たしてゆくためには,新しい知識に則した体系と,すぐれた構造が追求される必要があろう。しかし一方で,少なくとも端末機に向かう一般利用者には,わかりやすく親しみがもてる形で提供されなくてはなるまい。分類法と利用者の間に介在する「分類する」者の役割も,新しい環境においてますます多様に,難しい選択を迫られるものになるのであろう。
中井 万知子(なかいまちこ)
注:ユネスコのUNISIST(世界科学技術情報システム計画)の一環として,国際的な学術情報のスイッチングを目的に開発された大わけ分類システム。1978刊。
Ref:Cochrane, Pauline Atherton. New roles for classification in libraries and information networks. Cat Classif Q 21(20) 3-4, 1995
Chan, Lois Mai. Classification, present and future. Cat Classif Q 21(20) 5-17, 1995
Mitchell, Joan S. DDC 21 and beyond: the Dewey Decimal Classfication prepares for the future. Cat Classif Q 21(20) 37-47, 1995
Library of Congress introduces Classification Plus. LC Inf Bull 55(12) 256, 1996