E2280 – 電子書籍サービスのスクリーンリーダー対応状況について

カレントアウェアネス-E

No.394 2020.07.09

 

 E2280

電子書籍サービスのスクリーンリーダー対応状況について

総務部企画課

 

   2019年6月28日に施行された「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(以下「読書バリアフリー法」;CA1974参照)に続き,同法7条で規定された「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画」(以下「基本計画」)が2020年7月に公表予定である。読書バリアフリー法および基本計画(案)(4月から5月にかけて実施されたパブリック・コメントで提示)では,従来の点字図書,拡大図書等だけでなく,「視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等」に重点が置かれており,基本計画(案)の「基本的な方針」でも,「アクセシブルな電子書籍等の普及及びアクセシブルな書籍の継続的な提供」が掲げられている。

  電子書籍のフォーマットとしてはEPUB3(CA1796参照)が標準になっており,リフロー型であればフォーマット自体にはアクセシビリティ上の課題は少なくなってきていると考えられる。基本計画(案)でも,アクセシブルな電子書籍の点数を増やすだけでなく,「アクセシブルな電子書籍等を利用するための端末機器等を視覚障害者等がより円滑に使える環境を整備することも必要」との記載が見受けられる。

  国立国会図書館総務部企画課は,基本計画協議の窓口として,国立国会図書館における全体的な施策の検討を担当している。そこで,概況を把握するため,国内外の電子書籍サービス・電子図書館サービス・電子ジャーナルについて,アクセシビリティポリシーやスクリーンリーダーでの利用を前提としたアクセシビリティの調査を試みた。なお,以下の記述は2020年5月から6月時点のものであり,その後変更されている場合があることをお断りしておく。

  先行研究としては,青木千帆子氏によるAndroidおよびiOSを搭載したモバイル端末を用いた調査がある。同調査によると,2015年時点ではAmazon Kindle,Google Play Books,iBook Store,楽天Koboのスマートフォン用アプリケーションが本文読み上げに対応していた。

  今回は,パソコンで閲覧するケースを想定し,Windows10でスクリーンリーダーのPC-Talker Neoによる読み上げを調査した。結果として,2020年現在,Windows上ではほとんどの電子書籍サービスで読み上げが不十分であるということが判明した。

   AmazonのKindleのウェブサイトは問題なく読み上げ,閲覧用アプリケーションを使った閲覧についても,雑誌や漫画といった視覚情報を主としたものでない限り,アプリケーション上で読み上げた。ただし,読み上げはPC-Talker Neoの音声合成エンジンによるものではなく,Windows標準のものに切り替わった。視覚障害者が自力で本をダウンロードし読書するまでたどり着くことが可能なサービスといえる。

  楽天Koboについては,ウェブサイトはPC-Talker Neoで読み上げるものの,サムネイルで並べられている電子書籍のタイトルは読み上げないため,購入する電子書籍を選択することはできなかった。また会員の登録フォームを開くところまでは進められるものの,以後は読み上げないため,会員登録に困難が生じた。電子書籍を閲覧するアプリケーションについても,ログイン画面でIDとパスワードを入力するテキストボックスとログインボタンを読み上げないため,先に進めなかった。

  紀伊國屋書店が提供するKinoppyも,ウェブサイトはPC-Talker Neoで読み上げる。しかし閲覧用アプリにある,電子書籍を購入するためのリンクボタンを探り当てることができない。アプリを離れ,ブラウザ上のウェブサイトで電子書籍を購入することは可能だが,今度はアプリ上で購入した電子書籍のタイトルを読み上げないため,電子書籍が複数ある場合,選ぶことに困難が生じた。また,コンテンツを開くことはできるが,本文は読み上げなかった。

  大日本印刷株式会社(DNP)が運営するhontoも上述の2社の電子書籍サービスと同様,ウェブサイトはPC-Talker Neoで読み上げる。会員登録し,コンテンツを選択・購入することも可能である。しかし閲覧用アプリはキーボードで操作することができず,また本文も読み上げなかった。

  図書館流通センター(TRC)が提供する電子図書館サービス“LibrariE&TRC-DL”は,視覚障害者も想定し,テキストで構成された「視覚障害者向け利用支援サイト」を装備するほか,ブラウザ上でそのまま資料を閲覧できる。一部のリフロー型電子書籍は,文字の大きさ変更・文字色反転・音声読み上げ機能に対応し,全盲や弱視といった障害の固有性に応えるものとなっている。ただし読み上げ音声はサーバ上で生成されるため,利用者が普段使用しているスクリーンリーダーで読み上げることはできず,細かな読み上げの制御ができないという弱点もある。

  また,OverDrive Japanが提供する電子図書館サービスは,利用者が普段使用しているスクリーンリーダーで読みたい電子書籍を選択し,貸出処理をすることができる。一部の電子書籍については,本文をスクリーンリーダーで読み上げることもできた。ただし一部のボタンに代替テキストが入っていないなど,スクリーンリーダーでは確認できない部分があるために,視覚障害者の自力での操作が困難という弱点もある。

  よりアクセシビリティに関する規制の厳しい海外の事例を付記すると,EBSCO社の電子書籍サービスでは,本文を含むテキストが読み上げ可能なだけでなく,全盲・弱視・色覚障害・ディスレクシア・聴覚障害等のそれぞれの障害に応じたサービス使用方法が説明されていた。またElsevier社が運営するScience Directにおいても同様で,本文テキストの読み上げに加えて,様々な種類の障害への配慮がなされているようである。

  今回の調査で,電子書籍サービスによってアクセシビリティ上の問題が生じる箇所は異なり,電子書籍データだけでなく,閲覧用アプリケーション,電子書籍ストア(ウェブサイト)のすべてにおいて配慮が必要となることが確認された。この観点から,国内の電子書籍サービスのアクセシビリティは,十全といえない状況にある。基本計画の遂行に伴い,多様な利用者への理解・配慮が進んでいくことを期待したい。

Ref:
“視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律の施行について(通知)”. 文部科学省. 2019-07-08.
https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/1418383.htm
“視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画(案)」に関するパブリック・コメント(意見公募手続)の実施について”. 文部科学省. 2019-07-08.
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/mext_00190.html
青木千帆子. 「2015年電子書籍フォーマットのアクセシビリティ対応状況に関する実態調査」. arsvi.com. 2016-02-29.
http://www.arsvi.com/2010/1602ac2.htm#22
青木千帆子, 小高公聡, 丸山信人. 電子書籍ビューアーのアクセシビリティ機能. 情報管理. 2016, 59(5), p. 315-321.
https://doi.org/10.1241/johokanri.59.315
“Kindle本 (電子書籍)”. Amazon.
https://www.amazon.co.jp/Kindle-キンドル-電子書籍/b?ie=UTF8&node=2275256051
“楽天Kobo”. Rakuten.
https://books.rakuten.co.jp/e-book/?gclid=EAIaIQobChMIidTc3J-16QIVIcEWBR3CewuAEAAYASAAEgLeevD_BwE#argument=bgyDAcwK&ai=a5b8e2b5cbab5b&csid=we_gdn_gaw
Kinoppy.
https://k-kinoppy.jp/
honto.
https://honto.jp/
“電子図書館サービス”. 株式会社図書館流通センター.
https://www.trc.co.jp/solution/trcdl.html
OverDrive Japan.
https://overdrivejapan.jp/
“EBSCO eBook Accessibility User Guide and FAQs”. EBSCO Connect. 2020-05-01.
https://connect.ebsco.com/s/article/EBSCO-eBook-Accessibility-Guide?language=en_US
“ScienceDirect Accessibility Features”. ELSEVIER. 2019-11-19.
https://www.elsevier.com/solutions/sciencedirect/support/web-accessibility
野口武悟. 読書バリアフリー法の制定背景と内容、そして課題. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1974, p. 2-3.
https://doi.org/10.11501/11509684
濱田麻邑. 動向レビュー:次世代DAISY規格と電子書籍規格EPUB3. カレントアウェアネス. 2013, (316), CA1796, p. 15-18.
https://doi.org/10.11501/8228834