E2224 - デザイン図書館というデザイン<報告>

カレントアウェアネス-E

No.384 2020.01.30

 

 E2224

デザイン図書館というデザイン<報告>

九州大学大学院芸術工学研究院・古賀徹(こがとおる)

 

   2019年10月21日,九州大学大学院芸術工学研究院は,九州大学芸術工学図書館と共催で,第11回デザイン基礎学セミナー「デザイン図書館というデザイン」を開催した。株式会社リ・パブリックの市川文子氏と丸善雄松堂株式会社の増井尊久氏をお招きし,海外の大学図書館に関するトレンドや事例の紹介を通して,誰もがクリエイターになり得る時代の大学図書館のありかたを考えた。

   デザイン図書館というテーマの背後には,知識をめぐる考え方の大きな転換が潜んでいる。知識とは,すでに存在する情報を静かに取得したものではなく,いまや創造的活動のなかで生み出され,その創造性を支える生きたものである。

   ソクラテスが「善く生きること」を目指すかぎりの認識を知と呼んだように,増井氏にとって,「クリエイティブに作る」過程のうちにあるものが知なのである。だからその習得とは「クリエィティブ・ラーニング」以外のものではない。

   知識とは「制作する活動(ポイエーシス)」と一体である。昨今の図書館のうちにファブ・スペースが導入されたり,アーカイブや展示の機能が求められたりするのも,まさにこの知行一致の文脈においてのことである。だとすれば知識とは,決して本の中に潜んでいるのではなく,まさに活動する人間の身体のうちに,つまり生きて創造し発言するその身振りとしてのみ存在することになる。図書館はまさに活動する身体をいわば蔵書としなければならず,だとすれば「図書館とは本ではなく人である」,ということになるはずだ。

   増井氏は,今日拡大するデザインの活動領域のうちから,人と物にかかわる三つの領域を取り出して論じる。一つ目は,手による実体的な工作の場所であるメイカー・スペース,二つ目はコンピュータを用いたプログラミングの場所であるハッカー・スペース,最後はレーザーカッターや3Dプリンタを用いたり,手で創ったものをスキャンしてプログラムのうちに組み込んだりする,手とコンピュータを媒介する領域である。これら三つの領域をまとめてファブ・スペースと呼ぶとすれば,この活動領域はいまやデザインの主要な部分を構成している。

   これらの領域は,展示されること,つまり他者に見られ,影響を与えることを最終的な目的としている。制作過程やその作品が他者に見られているという意識は,学生や教員のモチベーションを大きく向上させると増井氏は言う。なぜならそのとき,制作活動はすでにプライベートではなく,パブリックな活動になっているからである。20世紀の哲学者であるハンナ・アレントによれば,人々が集まる場所で,他者に見られることを意識してなされる行為こそ,「活動 action」の名で呼ばれるのである。

   そこで市川氏は,この三つの領域に都市を付け加える。ひとりひとりが善く生きようとすれば,その活動は当然のことながら人々が住む都市(ポリス)へと波及するだろう。市川氏は,自動車を都心から排除したスペイン・バルセロナのスーパー・ブロックの実践を紹介する。そこでは,自動車をブロックして生まれた空間を今度は別の人が引き継いで児童遊園にしたり,のみの市や,アウトドアシネマを開催したりする。デザインはたとえひとたび挫折しても,次の誰かがそれに手をかけ,予想不可能なそのプロセスは決して完結しない。このように引き継がれることで,善き生を想像する個々人の力は「パブリック・イマジネーション」を形成すると市川氏は言う。

   こうしてデザインは,市民たちが善きあり方を次々と引き継いでいく政治(ポリティクス)へと移行する。その過程は,市川氏によれば,何か特定の目標を実現する手段ではない。そのプロセスを生きる人々は,試行錯誤を安心して繰り返すことができるそのプロセスを自らのホームグラウンドとして実感する。それが,善き生を自らの手で追究しうる「エイブル・シティ」というものなのであり,愛着を持ってそこに住み込むこと自体が目的となるのである。

   だとすれば都市における図書館の任務とは,デザインの試行錯誤を支え,その成功と失敗の過程を記録し,次の試行錯誤に対して準備を整えること,つまり人々の「イマジネーションの誘発」の連鎖を維持することにある。図書館それ自体もまた,様々な人々の手によって引き継がれ,それ自体クリエイティブに形成されていくのだと思われる。

   いまや図書館の自由とは,時の権力の圧力や制約からの消極的な自由を意味するだけではないだろう。市民たちの自由が,みずからの活動を通じて周りの人々に,ひいては都市全体になんらかの影響を与える積極的な可能性を意味するとすれば,そうした自由を妨げるさまざまな社会的なバリアを解消し,その活動を促進するクリエイティブなありかたが,これからの図書館の自由をかたち作っていくと思われるのである。

Ref:
https://www.kidnext.design.kyushu-u.ac.jp/3705?lang=ja

 

 

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