カレントアウェアネス-E
No.350 2018.07.12
E2039
漫画で伝える「図書館」と「法律」
2018年5月20日,京都市の梅小路公園緑の館において,大学図書館問題研究会(大図研)京都地域グループ主催のイベント,大図研京都ワンディセミナー「“羊さん”こと水知せりさん(漫画家)が語る「“学術情報の伝達”と“利用者の活用術”」」が開催された。
最初に,「マンガを使った学術情報の伝達について」という項目で,筆者が実践していることを紹介した。
実践例その1として,まずは図書館見学漫画を紹介した。これは,大きく分けて,通常通り開館している図書館に行って,その利用の感想などを漫画で伝える「図書館見学漫画」と,各地で開催される図書館イベントの感想を漫画で伝える「図書館イベント漫画」がある。事前の取材の申し込みをする場合と,急きょ取材をする場合があるが,どちらも写真撮影には職員の許可を取り,掲載媒体を伝えるなど作成のプロセスも含め紹介した。その中で,上記漫画の目的は主に利用者への図書館に関わる情報の伝達であったが,現場の方々にも漫画にすることを喜んでいただけるなど,想定していた以上の好反応を得られており,作者としても大変ありがたく思っていることも伝えた。
次に,実践例その2として筆者が主に執筆している法律擬人化漫画の紹介を行った。これは,法律を擬人化して(1)法律と,(2)それに関わる資料の紹介を漫画でしていく試みである。筆者が所属している龍谷大学法情報研究会の研究の集成として出版した『裁判員時代の法リテラシー』にも寄稿しているが,筆者は読者が持つであろう,法律に対する苦手意識をまず漫画で解きほぐし,図書館などが所蔵している関連資料にも関心を持ってもらおうという試みとして法律擬人化漫画を作成し,同人誌,ウェブ上での発信を続けている。しかし,現在のところ元々法律に高い関心を持つ法律専門職やその関係者が主な読者層になっており,当初想定していた「法律に馴染みが無い人々」をどのように読者層にしていくか,様々な手法を試している。具体的には,イラスト専用SNSやTwitterなどを利用して情報を流すことによって読者層を広げる工夫をしている。また,4コマ漫画やストーリー漫画など,漫画の表現形式も内容によって変えるなどの工夫をしていることを紹介した。
次に「公共図書館と大学図書館のイメージギャップと使い分け」と題して,利用者が求める情報の形態や利便性と図書館が提供しているサービスとの間にギャップがあるのではないか?という問題提起から,公共図書館に慣れ親しんで来た大学新入生が大学図書館に出会った時に疑問に感じるであろうことを,筆者の経験や,図書館員生活で受けた質問から集約し,情報提供媒体の変化も含めてこれからの図書館像について議論した。具体的には,大学図書館と公共図書館とは,装備の考え方によって書架に並んでいる図書の外観や揃えられている資料の性質が異なること,サービスの対象者が所属によって厳密に限られることなどを例として挙げた。
この中で,図書館がこれまで提供してきた「場所」「人」「資料」について,利用者のニーズにどこまで応えるか,館としてのあり方を含め,フロアの参加者と共に活発な議論が行われた。質問の中にあった「特定の層に向けたサービスを強化することで,今まで利用していた他の層が離れてしまうのではないか」という懸念はどんなビジネスモデルでも共通するもので,そこは経営戦略として利用者の動向をしっかりと見つつ,しかし旧来のスタイルに固執せずに新たな図書館の在り方を模索すべきなのではないかという結論が導かれた。
最後に,漫画という表現媒体について日頃考えていることを述べたい。親しみやすく手に取ってもらいやすい,ということで筆者は漫画を使って図書館や法律に関わる情報発信を行っている。しかし,漫画は基本的に公共図書館でも大学図書館でも収書対象としているところは少ない。これは,漫画が長期保存に向かない装丁をしているものが多いことにも原因の一端はあるが,表現手法上過度なデフォルメ等があるなど,表現媒体としての問題点を内包していることも原因の一つである。しかし,表現手法だけで収集対象としての価値が無いものとするのはかえって問題があるのではないかと考える。漫画は巻号が多くなりやすく,終期が予測し難いなど様々な要因や事情はあるが,個々の作品内容を判断し,利用者の反応を確認しながら専門図書館だけでなく,一般的な収書対象として広く保存,提供してもらえるようになることを祈っている。
漫画家・水知せり
Ref:
https://www.daitoken.com/kyoto/event/20180520.html
http://hitsujitoshokan.web.fc2.com/law/manga/manga2.html
http://hitsujitoshokan.web.fc2.com/law/manga/manga1.html
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I028822153-00