E2024 – 北米研究図書館協会による今後の評価プログラムへの提言

カレントアウェアネス-E

No.346 2018.05.17

 

 E2024

北米研究図書館協会による今後の評価プログラムへの提言

 

 2017年12月,北米研究図書館協会(ARL)は,研究図書館の今後の評価プログラムへの提言をまとめた報告書“ARL Assessment Program Visioning Task Force Recommendations”を公開した。

 同報告書は,今後の評価のためのプログラムに関するタスクフォース(Assessment Program Visioning Task Force)が作成したもので,ARLが現在提供している評価プログラムと現実のニーズに差があることを指摘し,それを解消するべく評価のためのサービスを調査し今後取り組むべき事項の提言をまとめたものである。調査は,現在の有効に機能している評価プロセスの特徴の発見(Discover),将来の評価プロセスの可視化(Dream),評価プロセスの計画と優先順位づけ(Design),評価プロセスの実行(Deploy)の手順で進められる予定である。同報告書は,前半の2段階の調査結果をまとめたものであり,今後の調査でより具体的な提言やビジネスモデルの開発等が行われる予定である。

●今後の研究図書館の評価プログラムのビジョンについて

 同報告書では,今後の評価プログラムを新たに策定するにあたり,研究図書館が社会,経済,文化,政策に与える効果を説明するのに役立つことを重視している。そして現行のARLの統計は,図書館が他館と比較する際の基準となっている点で意義があるが,今後は図書館の成果を館外に説明するのに役立つ指標へと変わる必要があると述べている。

 次項で示す今後の評価プログラムへの提言に加えて,成功のための行動原則として(1)ARL内の他のグループとの方針の統一と協働,(2)国内外の機関との連携の構築と維持,(3)加盟館の専門知識の利活用,(4)既存の評価のための技術基盤から独立した資産としてデータを管理・投資すること,の4点が示されている。

●今後の評価プログラムへの提言について

 今後の評価プログラムへの提言は,(1)ARLのビジョンと評価の一致,(2)ARLのビジョンを新しい評価方法に反映させるための枠組みの開発,(3)指標や評価のための技術基盤の更新,(4)知識の共有とコミュニティー支援,の4点でまとめられている。そして,各項目について,具体例を挙げ方針を示している。

 第一に,ARLが掲げるビジョンに沿って評価プログラムを構築し,ARLの基準やアドヴォカシーと一致させるべきだと述べる。そのうえで研究図書館は自館が保有するデータを基に評価されるような仕組みを整備することを主張する。具体例として,今後の研究図書館が評価されるべき指標を定め,モジュール式にして加盟館個別の事情に応じて選択可能な型式とすることを提案している。また,親組織や利害関係者に図書館がもたらす効果を説明するのに役立つ方法論を共有することが重要であるとしている。

 第二に,加盟館がARLのビジョンを新しい評価方法に反映させるための枠組みを開発すべきであるとし,ARLのビジョンを概念的な枠組みと加盟館が理解するのに役立つメンタルモデルに落とし込むために,ARLの他のプログラムや委員と協働する必要があると述べている。具体的には,研究図書館の包括的評価の枠組みを定義することや,支出額や職員数等の予算的・人的規模を示す投資指数は図書館の規模によるランク付けにつながるため発表を停止し新たな指標を検討すること,ARLの活動を支持してもらうために有用なデータを既存の統計類を基に検討することなどがある。

 第三に,収集するデータ要素と評価に使用する技術基盤の更新を挙げ,加盟館の現在のニーズに沿ったツールや技術基盤を採用することを提案している。これまで評価に用いてきたツール類(LibQUAL+(CA1526参照),ClimateQUAL(E938参照),MINES)が現在はデータ収集のコストの割にあまり加盟館で活用されていない等の理由から,利用をやめるか最小限に留めることを提言している。既存の統計については,収集するデータを変更し,分析可能なポータルに発展させるべきだとしている。また,現在高等教育機関の評価活動に携わっている国内外の諸機関(米国大学・研究図書館協会(ACRL),米・中等後教育総合データ組織(IPEDS),英・Jisc,カナダ研究図書館協会(CARL),米・IR協会(AIR)等)と連携し,高等教育に関するデータを活用可能な共有のポータルを立ち上げられないか検討するなどとしている。

 第四に,ARL内で専門知識の共有とコミュニティー支援体制の構築を挙げている。ARL加盟館の経験や専門知識をARL内で事例研究等の形式で共有することや,管理職や実務担当者,専門家等,立場に応じた評価に関する研修を用意し,コミュニティー支援を進めることを提案している。具体的には,“ARL Assessment Knowledge Base”を構築し,図書館評価会議(E1609参照)の会議録や,報告書シリーズのSPEC Kit,図書館評価のブログ・メーリングリストを含む既存のARLの評価に関するコンテンツを集約することを挙げている。そして,既存のコンテンツやツールを用いた情報収集・提供から,より迅速に行動できるコミュニティーを試験的に立ち上げて逐次情報提供を行うスタイルに移行することを提案している。

 同報告書で示されている提言は,研究図書館に求められる役割の変化に対応するだけでなく発信力向上に役立つために,これまでのARLの評価に関する体制を大きく変えることを企図している。どのような形で提言が具体化するのか,今後の動向に引き続き注目したい。

関西館図書館協力課・小野恵理子

Ref:
http://www.arl.org/storage/documents/VTFPublicReport/2017.12.04-AVTF-PublicReport.pdf
http://www.arl.org/news/arl-news/4441-arl-assessment-program-visioning-task-force-releases-recommendations
http://www.arl.org/publications-resources/publications-ordering-information/4442-arl-assessment-program-visioning-task-force-recommendations
E938
E1609
CA1526