E2023 – 特殊コレクション・アーカイブ資料のサービス評価統計の地平

カレントアウェアネス-E

No.346 2018.05.17

 

 E2023

特殊コレクション・アーカイブ資料のサービス評価統計の地平

 

 2018年1月,米国大学・研究図書館協会(ACRL)と米国アーキビスト協会(SAA)は,「アーカイブ資料及び特殊コレクションのサービス評価のための統計基準」(Standardized Statistical Measures and Metrics for Public Services in Archival Repositories and Special Collections Libraries)を公開した。近年の特殊コレクション・アーカイブ資料(以下「特殊コレクション等」)に対する関心の高まり及び特殊コレクション等によるサービスの価値を示す必要性が,基準の策定につながったと考えられる。基準策定の背景に触れながら,基準の内容を紹介したい。

●基準策定の背景と目的

 2010年にOCLC Researchが,特殊コレクション等の現状に関する調査の結果をまとめたレポートを公表している(E1120参照)。その中で,特殊コレクション等のサービス評価にあたり,利用者の属性を分類する基準が各資料所蔵機関で不統一であるなど,統計取得の際に共有する基準がないことが課題として認識されていた(このことは,1998年に北米研究図書館協会(ARL)が実施した特殊コレクションに関する調査の報告書でも言及されている。また,従来いくつか作成されてきたアーカイブズに対する評価基準も,サービス面よりも管理運営体制に重点が置かれているようで,サービスに関する評価基準はあまり見受けられない。)。

 OCLC Researchによるレポートが公表され,専門誌や学会発表の場等で特殊コレクション等のサービス評価に関する議論がなされる中で,ACRLの貴重書・手稿部会(RBMS)とSAAは,統計基準を策定するための合同タスクフォースを2014年に設立した。タスクフォースは,2015年に,サービスに関する統計取得についての調査を各資料所蔵機関に対して実施し,その際に得られた311件の回答をもとに,2016年に基準原案を作成した。2017年6月に最終案が提出され,同10月にACRLの理事会で,2018年1月にSAAの理事会で,それぞれ承認された。

 上述の背景から,本基準の策定は,各機関で共有できる統計取得の基準を確立することを目的としたものである。統計取得の基準が確立することは,機関間のサービス統計を相互に比較可能なものにすることにつながる。

●基準の構成

 本基準は,取得すべき統計を大きく8つに分類している。属性ごとの利用者数(User demographics),レファレンス対応(Reference transactions),閲覧室の利用(Reading room visits),資料の利用(Collection use),イベント(Events),インストラクション(Instruction。学校の授業等の一環として資料所蔵機関が実施する講座を指す。),展示(Exhibitions),ウェブサービス(Online interactions)がそれである。それぞれについて,どの資料所蔵機関も取得することが望ましい「基本的な統計項目」と各機関がそれぞれの都合により取得するものを選択すればよい「発展的な統計項目」を挙げ,さらにそれらの統計データから計算で得ることができる指標のいくつかを「代表的な指標」として紹介している。本基準で示された「基本的な統計項目」を,分類ごとに列挙すると以下のとおりである。

  • 属性ごとの利用者数:内部の利用者数と外部の利用者数(ここでいう内部・外部の区別は,資料所蔵機関の性格によって異なり,たとえば地方公共団体の公文書館であれば当該地方公共団体の職員と住民が,大学図書館・文書館であれば学生・卒業生・教職員が内部の利用者にあたる。)
  • レファレンス対応:レファレンス質問数
  • 閲覧室の利用:1日当たりの来室利用者数
  • 資料の利用:資料の出納回数(閲覧室での閲覧以外の,展示やスタッフの利用のための出納も含めた総出納回数)
  • イベント:イベントの実施件数
  • インストラクション:インストラクションの実施件数
  • 展示:展示の実施件数
  • ウェブサービス:オンラインコンテンツの閲覧数

 また,各機関で共有できる統計取得の基準を確立するという策定意図から,実際の業務がどのような統計数値として記録されるべきかを,資料提供過程の具体的な例も示しながら詳しく説明している。末尾の用語集と共に,各機関が同じように基準を理解し運用できるようにとの配慮がなされている。

 本基準で挙げられる統計項目の多くは,各機関の提供したサービスの量を記録するものであるが,「発展的な統計項目」の中には,それらのサービスに際し各機関がどの程度のコストをかけているかを記録する項目もある(レファレンスの回答やイベント・展示会の準備に要した時間など)。コストの測定は,費用対効果の算出のみならず,サービスのために必要となる資源の算定にもつながるということが,その意義として述べられている。

 挙げられた統計項目は,各機関が業務の中で取得できるもので,利用者への調査などを必要とせず,統計取得に過重な負担がかからないように配慮されている。しかしその一方で,本基準においても言及されているように,サービスが利用者に与えた効果などは測定することができない。今後,質的な面での評価手法がさらに議論されていくことが求められている。

利用者サービス部政治史料課・藤田壮介

Ref:
http://www.ala.org/news/member-news/2018/01/acrl-rbms-saa-release-standardized-statistical-measures-and-metrics-public
https://www2.archivists.org/news/2018/acrl-rbms-saa-release-standardized-statistical-measures-and-metrics-for-public-services-in
https://www2.archivists.org/sites/all/files/Standardized%20Statistical%20Measures%20and%20Metrics%20for%20Public%20Services%20in%20Archival%20Repositories%20and%20Special%20Collections%20Libraries_011718_0.pdf
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/standards/statmeasures2018.pdf
https://www.oclc.org/content/dam/research/publications/library/2010/2010-11.pdf
http://www.arl.org/storage/documents/publications/special-collections-arl-libraries.pdf
https://catalog.hathitrust.org/Record/002745649/Home
https://www.oclc.org/content/dam/research/publications/2015/oclcresearch-making-special-collections-accessible-2015.pdf
https://doi.org/10.1108/14678041011064115
https://www2.archivists.org/groups/saa-acrlrbms-joint-task-force-on-public-services-metrics/survey-results-introduction
https://www2.archivists.org/groups/saa-acrlrbms-joint-task-force-on-public-services-metrics/final-version-of-standard-submitted-/
E1120