E2022 – ヒューリスティクスを踏まえた情報探索とは<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.346 2018.05.17

 

 E2022

ヒューリスティクスを踏まえた情報探索とは<文献紹介>

 

Savolainen, Reijo. Heuristics elements of information-seeking strategies and tactics: a conceptual analysis. Journal of Documentation. 2017, vol. 73, no. 6, p. 1322-1342.

●研究の背景

 ヒューリスティクス(heuristics)は,「問題解決,学習,発見に利用可能な類似の事例における経験に基づく意思決定」と一般的に理解されている。例えば,検索エンジンの検索結果を参照する際に上位10個のページにアクセスが集中する。これは経験則的に,結果の上位に挙がったものが求めている情報との関連性が高いと検索者が考えるためである。

 多くの場合,情報探索における判断には,発見プロセスを容易にするために経験則の要素が組み込まれている。そのうち,ヒューリスティクスの概念は,あたかも自明であるかのように捉えられているものの,これまでの情報行動研究では,その本質は曖昧なままである,と本文献では指摘されている。本文献は,ヒューリスティクスを情報探索に利用することで迅速かつ効果的に情報を見つけられる可能性がある,との課題意識のもと,研究者の情報探索における戦略・戦術のヒューリスティクスな要素に焦点を当てた研究である。

 本文献の著者であるサボライネン(Savolainen, R)は,情報行動研究において多大なる貢献をし,2016年に米国の情報科学技術協会(ASIS&T)の学会賞を受賞している,情報行動の研究者である。

●調査手法

 調査は,情報探索の戦略・戦術におけるヒューリスティクスを取り上げた文献のうち,1979年から2016年の間に公表された31件の文献を対象に概念分析をすることで行われた。分析に当たっては,情報探索におけるヒューリスティクスに関連する文章を特定し,その文章をカテゴライズする,という方法がとられた。

 この手法を用いて,研究者はどのように情報探索におけるヒューリスティクスな要素を発見したのか,どのように情報探索のためのヒューリスティクスの要素を概念化してきたかを明らかにしている。

●調査結果

 著者は,研究者は主に次の3つの方向性で,ヒューリスティクスな要素を発見していることがわかったとする。

(1)情報探索の一般的な手法
 多くの場合,何から始めるかを明確にする,ハイパーリンクをたどる,トップページを斜め読みする,ウェブサイトの特徴を分析して選定・区別する,アラート機能を使用する,お気に入りページを再訪するといった情報探索の一般的な手法にヒューリスティクスの要素を発見しているとした。

 より詳細に手法を発見したものとして,マーチオニーニ(Marchionini, G)の研究があるとした。彼は目的,計画,形式のレベルによって,探索戦略を次の2つの段階に分けた。

  • 分析的戦略(analytical strategies):目的があり,計画的,形式だった探索戦略
  • ブラウズ戦略(browsing strategies):目的がなく,データドリブン(得られたデータを意思決定や課題解決に役立てること)で形式だっていない探索戦略

 ブラウズ戦略に基づく行動として,雑誌をめくったり,ネットサーフィンをしたりすることが挙げられ,分析的戦略よりもヒューリスティクスの要素が強いことが指摘されている。

(2)検索のヒント
 経験則を検索に有用なヒントとしてモデル化することにより,ヒューリスティクスな要素を発見していた。代表的なものとして,ベイツ(Bates, M.J.)の研究が挙げられている。彼女は29種類もの検索戦略(search tactics)と16種類の発想戦略(idea tactics)を明らかにした。検索戦略は検索の有効性や効率性を向上させるもので,発想戦略は思考や創造的プロセスを改善するものである。発想戦略は,検索結果を絞り込むために,全体を表すような言葉から部分を表すような検索語に変えることや,より狭い概念を表す検索語を使う方法などがあり,検索戦略よりもヒューリスティクスの要素が強いことが指摘されている。

 すべての検索状況に適用できる手法は存在しないため,人は検索において,直感,問題解決能力,個人知識ベースに頼らざるを得ない。ハーター(Harter, S.P.)は,そうした中で複数の方法で検索すること,自分の検索方法を批判的に評価すること,などを行っていることを明らかにした。

(3)個々の経験則の概念化
 著者は,以下の3つのヒューリスティクスの要素に焦点を当て,概念化を行っていた。

・「熟知」(Familiarity)
 調査した文章の中では,熟知の要素について述べている研究が最も多かった。過去の情報探索行動の状況が,新しい状況にも適用できるという前提のもと,過去の意思決定に有用であった情報源を利用することである。具体的には,過去に有用であったウェブサイトをブックマークし,類似の調査の際に再度閲覧することなどを挙げていた。これは,信頼性の判断に大きく関係するものであり,探索戦略の構築に重要であるとしている。

・「認知」(Recognition)
 人は情報の固有性,価値の高低を認知し,アクセスするかどうかを決定している。具体的には,研究者が自らの専門分野に関する新着図書をチェックする際にその図書の著作者を確認し,知らない人物の場合は読む価値がないと判断することなどを挙げていた。認知によるヒューリスティクスはどのように情報を求めて収集するか,情報探索プロセスをどのように停止するか,という点で重要であるとしている。

・「代表性」(Representativeness)
 人はアクセスしようとする情報について,類型の中で代表性のあるものかを判断している。具体的には,医療に関する情報について,米国医師会のような専門家と思われる団体によるものであれば信頼して利用することなどを挙げていた。天災など,不確実な状況下で物事が起こる可能性を判断するときなどに使うとし,個人が情報源を評価する際に重要であるとしている。

●考察・まとめ

 調査結果の(1),(2)で挙げた2つのアプローチが,ヒューリスティクスに関する初期の研究の特徴であった。最近の調査では,調査結果の(3)に挙げたように個々のヒューリスティクスの要素についての研究も進められていた。本文献では個々に検証されているが,著者は,ヒューリスティクスの要素は情報探索に同時に組み込むことが可能であるとする。一方で,本文献で述べられたもの以外のヒューリスティクスの要素も重視する必要があると指摘している。

 本文献は,情報探索の戦略・戦術について具体的な内容を明らかにするとともに,(3)で挙げた「熟知」,「認知」,「代表性」の3つのヒューリスティクスの要素を概念化することができたとする。今回はこの3つのみに焦点を当てているため,情報行動の他領域に一般化することはできないとされている。今後は直感や嗜好など,他のヒューリスティクスの役割の調査が課題であり,仕事や健康や余暇などの日常的な状況において解明する調査も必要であると指摘されている。

東京都立中央図書館・青野正太

Ref:
https://doi.org/10.1108/JD-11-2016-0144