E1902 – 図書館情報専門職養成史の再検討<報告>

カレントアウェアネス-E

No.323 2017.04.13

 

 E1902

図書館情報専門職養成史の再検討<報告>

 

 2017年2月10日,筑波大学知的コミュニティ基盤研究センターは,筑波大学春日エリア情報メディアユニオンにてシンポジウム「図書館情報専門職養成史の再検討:組織記憶を構築する試み」を開催した。

 筑波大学図書館情報メディア系では,2012年度からの5か年間,知的コミュニティ基盤研究センターを拠点に,旧文部省図書館員教習所などの図書館情報メディア系前身校(以下,前身校)に関わる資料をアーカイブし目録を作成してそれらの資料に関する調査研究を進めてきた。2014年度からは科学研究費(科研費基盤研究(B)「21世紀図書館情報専門職養成研究基盤アーカイブ構築:図書館情報専門職の再検討」(研究代表者:水嶋英治))を獲得して研究を発展させてきた。シンポジウムはその成果発表会として企画された。当日は研究者や図書館・文書館・博物館関係者,学生等,約80名の参加があった。図書館情報メディア系教員9名の報告の後,報告者と参加者が歴史資料に関わるアーカイブの構築について活発な討議を行なった。

 報告の概要は以下の通りである。筆者は基調報告「資料が語る前身校の歩んだ道のり:図書館情報専門職アーカイブ構築プロジェクトの5年間」としてプロジェクトの概要を説明し,前身校関係歴史資料を活用した「21世紀図書館情報専門職養成研究基盤アーカイブ」の構築と研究の展開を紹介した。

 第1部は「アーカイブの構築」というテーマで3本の報告があった。白井哲哉は「記録資料のアーカイブと組織化」として,本プロジェクトにおける資料組織化の試みを日本アーカイブズ学の立場から紹介した。発表では資料を創造し所有してきた組織・個人とそこに存在する資料をその資料群固有の特徴として同定し,他の場所にある組織・個人による資料群とは峻別する「出所原則」に基づいて,アーカイブズ学において特定の資料コレクションを意味する“fond”の意義を考察した。アーカイブズ学では資料コレクションを原則として4つの階層fond,series,file,itemとして捉える。ここではまず「前身校資料」をfondとする。前身校資料は図書館情報大学から現在の筑波大学図書館情報メディア系に継承されたが,両組織は同じ場所に位置していたため,資料の移管・収集はエリア内で行なわれた。これらの資料と前身校と関係があった個人からの寄贈資料それぞれをfondの下の階層に位置づけられるsub-fondと認識した。そして各sub-fondの構造を紹介したのち,sub-fondsを構成し個別秩序を有する資料群であるseriesの事例を報告した。松村敦は「記録資料のデジタル化」として,原資料への誘導を実現するための資料のデジタル化について報告した。システムのデモにより原資料の一部を紹介し,今後の展望として全資料のデジタル化や資料の関係性の整理について述べた。水嶋英治は「実物資料の存在形態から情報発信へ」として,図書館情報メディア系が所蔵する図書館情報学関係の実物資料約280点に関する目録作業を行なった後,これらの資料を撮影しデジタル化するとともに,いくつかの静止画を組み合わせて動画ファイルを作成して映像化したこと,さらにこれらの電子化資料に関してFacebookを利用して情報発信したことを紹介した。取り扱う資料の「時代性」と「地域性」を考慮した実物資料整理の成果・評価を博物館学の理論と照らし合わせて考察した。

 第2部は「アーカイブズの活用」というテーマで3本の報告があった。原淳之は「文部省図書館員教習所時代の研究」として,文部省図書館員教習所(1925年に「文部省図書館講習所」に改称)の設立経緯,カリキュラム,司書検定試験との関係などに注目しつつ調査した結果を報告した。同所では,男女共学というスタイルで一般教養的,専門実践的な教育が施されていたことを示した。大庭一郎は「図書館情報大学時代の研究」として,前身校が継承してきた歴史的資料群を精査する一環として,図書館情報大学に関する文献資料(図書,雑誌記事,教職員・卒業生・図書館職員の回想録,図書館情報大学の刊行物,等)を収集し,それらを分析・考察した結果を示した。さらにオーラル・ヒストリーの手法を踏まえ,文献資料で把握できない事柄について図書館情報大学の関係者にインタビュー調査を行い,口述記録を作成したことを報告した。阪口哲男は「資料情報のLOD化:何をつながるようにするのか?」として,記録資料の所在についてウェブを通じて広く公開し様々な研究者の目に留まるようにするために,記録資料の目録のLinked Open Data(LOD)化を進める手法について示した。他のLODとつなぐための一般的な語彙定義とともに独自の語彙定義を用いたスキーマの設計と,目録からの機械的な処理によるキーワード抽出の試みについて報告した。

 逸村裕は「コメント:比較の観点から」として,2016年12月に慶應義塾大学名誉教授で国立公文書館元館長の高山正也氏に慶應義塾大学文学部図書館・情報学系と図書館短期大学/図書館情報大学を比較して語っていただいたインタビューについて報告した。司書養成,文部(科学)省との関係,図書館情報大学設置に関わる折衝,研究協力,カリキュラム,図書館(情報)学の変遷とあり方,学生に関わる話など多彩な内容であった。

 宇陀則彦は「体系と文脈の交差:世界はそれを知識情報学って呼ぶんだぜ!」として総括報告を行なった。図書館とアーカイブズの差異を明らかにしつつ,両者が人の知の営みから生まれた組織・機能であることを踏まえて,知識の伝達と共有という観点から共通の土台で議論する可能性を示した。そして知識の記録を保持し知識を共有し新しい知識を形成していくという「現象」は人間社会の普遍的な営みであり,これらを解き明かす学問が知識情報学であると結論づけた。

 なお本プロジェクトの最終報告書『21世紀図書館情報専門職養成研究基盤アーカイブ構築:図書館情報専門職の再検討』は「つくばリポジトリ」から閲覧可能である。

筑波大学図書館情報メディア系・吉田右子

Ref:
http://www.kc.tsukuba.ac.jp/lecture/symposium/20170210.html
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26280117/
https://www.facebook.com/LIS-Archives-555185041287631/
http://hdl.handle.net/2241/00145583