E1903 – 次世代デジタルアーカイブ研究会の新たな挑戦

カレントアウェアネス-E

No.323 2017.04.13

 

 E1903

次世代デジタルアーカイブ研究会の新たな挑戦

 

 2017年1月21日,京都大学において,次世代デジタルアーカイブ研究会のキックオフ研究会「デジタルアーカイブの再設計~資料の利用のために何をすべきか/何ができるか~」が開催された。筆者が代表を務める次世代デジタルアーカイブ研究会は,ウェブ上で学術研究等の資料と情報を共有・保存するために,これからのデジタルアーカイブがどうあるべきかを考える若手の研究者や実務家が中心の集まりである。分野と媒体を問わない様々な資料とデータの作成,公開,長期保存,信頼性の保証等,多様な観点からの悩みや疑問,不満等を自由に議論することを目指している。

 今回のキックオフ研究会は,当研究会が京都大学学際融合教育研究推進センター(C-PIER)・学術研究支援室(KURA)の分野横断プラットフォーム構築事業(研究大学強化促進事業「百家争鳴プログラム」)に応募し,採択・支援を受けて開催された。「デジタルアーカイブ」と呼ばれるものが乱立している中,なぜデジタル「アーカイブ」なのかを再考したうえで,性格が異なる学内組織や地域のMLA等におけるデジタルアーカイブの捉え方,保有している史資料の利用範囲,公開基準等の違いを確認し,これからのデジタルアーカイブ構築における課題を見出すことが目的であった。

 キックオフ研究会の特色としては,デジタルアーカイブやデータベース構築の第一線で活躍し,かつアーカイブズ学と関連学問の最新動向に通じた若手研究者を主な報告者として選定したことである。参加者誰もが忌憚なく話し合える場を作るための一つの試みでもあった。それに対して所蔵資料をデジタル化し,ウェブ上での利用を希望する大学内の組織や地域のMLA関係者が参加者として想定されていたが,図書館情報学や情報学専門の参加者も少なくなかった。

 報告は,大学アーカイブズにおけるデジタルアーカイブ構築の現状と課題,アーカイブズ本来の定義と要件に基づいたデジタルアーカイブの意味と地域連携の事例,地域研究資料の共有とデータベース構築,アーカイブズ記述のための概念モデル作成の動向,ユーザーが語るデジタルアーカイブといったテーマで構成された。報告者とタイトルは以下の通りである。

  • 報告1 「研究資源」から見るデジタルアーカイブの課題―京都大学研究資源アーカイブを事例に―
    • 齋藤歩氏(京都大学総合博物館)
  • 報告2 大学アーカイブズにおけるデジタルアーカイブ構築―東京大学文書館を事例に―
    • 加藤諭氏(東京大学文書館)
  • 報告3 伝統的アーカイブズ学の理念を反映したデジタルアーカイブ
    • 橋本陽氏(帝国データバンク史料館)
  • 報告4 デジタルアーカイブ構築における機関連携の可能性と条件―イギリスの事例から―
    • 渡辺悦子氏(国立公文書館)
  • 報告5 地域研究資料の共有とデジタルアーカイブの距離
    • 亀田尭宙氏(京都大学東南アジア地域研究研究所)
  • 報告6 アーカイブズ記述のための概念モデル(RiC)の動向―Draft 0.1版の概要―
    • 寺澤正直氏(内閣府大臣官房公文書管理課)
  • 報告7 ユーザーが語るデジタルアーカイブに必要な機能と限界
    • 加藤聖文氏(国文学研究資料館)

 すべての報告が終わった後,立教大学共生社会研究センターの平野泉氏のコメントにより,橋本氏の報告で取り上げられた「アーカイブズの結合性(archival bond)」の概念が補足された。これは単に資料と資料の関連性を意味することではなく,同じ業務や活動の証拠として作成された「同じ出所内の記録とその他の記録間の相関関係」を示すアーカイブズ本来の特別な属性である。東京大学文書館の森本祥子氏は,コンテクスト情報を重視してきた従来の「伝統的アーカイブズ」が,関連度が高く,信頼できる検索結果を優先する近年のデジタルアーカイブの利用者に向けて柔軟に対応していく必要性についてコメントした。

 フロアからは,検索性や利便性といった利用者向けデジタルアーカイブの提供,文化資源をデジタルで公開・共有するためのLinked Open Data(LOD)の技術と活用,デジタル資料へのアクセスを担保するライセンス付与,公共研究機関におけるデジタル化事業の効用等についての発言が相次ぎ,活発な議論が交わされた。

 当初の予想をはるかに超える多くの参加者により,学問分野,機関別に構築されたデータベース等をLOD形式で連携する可能性,検索性と信頼性を高める語彙統制の必要性,相互に議論できる研究会の要望等が確認されたのは,本研究会最大の成果でもあろう。しかし,様々な角度からの発言に的確に応じるだけの知識が主催者側になかったこと,デジタルアーカイブ構築について基礎的かつ実践的アドバイスを求める期待に充分に応えられなかったことは反省として残る。

 今後はデジタル化資料のみならずボーンデジタル資料の保存・公開・利活用に関わる課題と情報共有のために,勉強会やセミナー等を継続していく予定である。

京都大学大学文書館・元ナミ

Ref:
http://research.kyoto-u.ac.jp/gp/1608/
http://www.cpier.kyoto-u.ac.jp/
http://www.kura.kyoto-u.ac.jp/
http://www.rra.museum.kyoto-u.ac.jp/
http://socialarchive.iath.virginia.edu/
http://apps.is.k.u-tokyo.ac.jp/
http://doi.org/10.1023/A:1009025127463
http://www.aim25.com/
http://www.cias.kyoto-u.ac.jp/database/
http://www.ica.org/sites/default/files/RiC-CM-0.1.pdf
https://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/