E2487 - 教育現場への古典籍無償貸出プロジェクト「和本バンク」

カレントアウェアネス-E

No.434 2022.05.12

 

 E2487

教育現場への古典籍無償貸出プロジェクト「和本バンク」

同志社大学古典教材開発研究センター・加藤弓枝(かとうゆみえ)

 

  同志社大学古典教材開発研究センター(以下「センター」)では,2021年11月に,有志から明治時代以前の和本(日本の伝統的な装訂で作られた書物)を募り,寄贈された書物を授業での使用を検討している小学校・中学校・高等学校・高等専門学校の教員へ無償で貸し出す「和本バンク」のプロジェクトを試行的に開始した。本稿では,取り組みの背景・経緯,今後の展望等について紹介する。

●「和本バンク」開始の背景と目的

  「和本バンク」の取り組みは,2021年度日本近世文学会春季大会のシンポジウムにおいて山田和人センター長の「古典教育に学会は何ができるか」という発表で呼びかけを行ったことを契機として始まった。

  センター長の「子どもが古典籍に触れる経験は教育的効果が高く,雑本・端本でもその効果は薄まらない。教育現場で活用できる和本をご提供いただきたい。」という呼びかけに,賛同者からセンターへの和本の寄贈が続き,現在までに100冊以上の和本が集まっている。当初は「雑端バンク」と命名し,蔵書整理を行っていたが,作業が一段落し実際に試行的に運用を開始するにあたり,名称をより一般的な「和本バンク」と変更した。

  寄贈書の内容は,教科書に載っている古典文学,漫画の元祖とも呼ばれる草双紙,江戸の古地図,昔の子どもが実際に遊んだ双六,明治の教科書など,学術的なものから遊戯的なものまで多岐にわたる。寄贈された和本の内容からも分かるように,教科書に載っている文学作品は,古典と呼ばれるもののごく一部であり,古典とは大海のごとく深くて広いものである。

  「和本バンク」は,ガラスケース越しではなく,実際に和本を手に取り,めくってみたり,匂いを嗅いだり,意外な軽さや重さを実感したりすることで,一人でも多くの子どもに,和本を身近に感じてもらい,古典という過去の遺産をリアルに受け止める体験をしてもらうことを目的としている。

●「和本バンク」を活用した授業実践例

  2022年3月には,名古屋大学教育学部附属中学校の協力を得て,新型コロナウイルス感染症の感染予防対策を取った上で,「和本バンク」を活用した特別授業を,センター研究員でもある加藤直志氏(同校)・三宅宏幸氏(愛知県立大学)・筆者(名古屋市立大学)が中学3年生の国語の授業時間に実施した。

  当日は,古典に親しんでもらうこと,古典への興味関心を高めることを目的に,グループごとに異なる和本を配付し,文字・挿絵・大きさ・重さ・紙という5つの観点から,現代の書物との相違点と共通点を考察してもらった。また,くずし字で書かれている和本の内容についても書名や挿絵などをヒントにまとめてもらった。授業の後半にはグループごとの発表時間を設けたが,生徒たちの鋭い考察に舌を巻いた。

  同校ではくずし字資料を用いた特別授業を以前より実施しているが,本物の和本が持つ効用であろう,いずれのグループも例年より課題の考察がより詳細であった。例えば,多色刷りの古典籍を観察することで現代の染料との発色の違いに言及したり,和本の軽さや丈夫さから和紙の優位性に踏み込んだり,実際に手に取ったからこそ気付ける意見が次々と出され,外部講師はオンラインでの参加であったにも関わらず,生徒たちの活気を対面時のように感じることができた。

●古典教材の未来を切り拓く!=コテキリ

  山田センター長は,自身のTwitterやFacebook等で「和本は過去・現在・未来をつなぐタイムカプセルだが,そこに存在するだけなら文化遺産である。しかし,それが活用されると文化資源となる。」と発信してきた。センターでは,「古典教材の未来を切り拓く!」研究会(通称「コテキリ」)を年2回開催しているが,今後も和本(やそこに記されたくずし字)が文化遺産・文化資源であることを忘れず,その価値を教育の現場で問い直し続け,成果を研究集会などで公開していきたい。

  また,「和本バンク」などの活動を拡げるには,現場の教員の協力が欠かせない。現在センターでは,和本の専門知識を持ち合わせない授業者でも手軽に利用できるような教材を開発しており,和本貸出システムとその運用方法についても検討している。また,教材データを共有し,相互利用できる教材データバンクを構築中であり,2023年春にはモジュール教材集としても利用可能な書籍を公刊する。

  研究集会への参加者は回を重ねるごとに増加しているが,センターによる活動の認知度は高くはない。しかし,着実にその輪は広がりつつある。今後も当センターでは,教員のみならず,学生や院生,研究者,司書,学芸員,出版社,一般の人々と一緒に,古典教材の未来を切り拓いて行きたい。

Ref:
同志社大学古典教材開発研究センター.
https://kotekiri20.wixsite.com/cdemcjl
“和本バンク”. 同志社大学古典教材開発研究センター.
https://kotekiri20.wixsite.com/cdemcjl/wahonbank
“@kotekirinokai”. Twitter.
https://twitter.com/kotekirinokai
“@kotekiri”. Facebook.
https://www.facebook.com/kotekiri
“興味関心を喚起するくずし字や和本を用いた新しい古典教材の開発に関する実践的研究”. KAKEN.
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20K00326/
“2021年度日本近世文学会春季大会シンポジウム”. 日本近世文学会.
http://www.kinseibungakukai.com/2021haru_symposium/
“第7回日本語の歴史的典籍国際研究集会を開催”. 国文学研究資料館.
https://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/sympo2021.html

 

 

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