カレントアウェアネス-E
No.435 2022.05.26
E2497
公立図書館におけるCOVID-19対応:国立国会図書館の調査研究
関西館図書館協力課調査情報係
国立国会図書館(NDL)では,2002年度から,図書館協力事業の一環として,図書館及び図書館情報学に関する調査研究(E1781参照)を実施している。
2021年度の調査研究では,公立図書館における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応について調査し,その結果を整理・共有することにより,広く図書館界の参考に資することを目的とした。
本調査研究は,日本図書館協会(JLA)の協力を得て実施した。実施に当たっては,安形輝氏(亜細亜大学国際関係学部教授,JLA課題調査委員会委員),大谷康晴氏(本調査研究主幹,青山学院大学コミュニティ人間科学部教授,JLA課題調査委員会委員),岸田和明氏(慶應義塾大学文学部教授,JLA課題調査委員会委員長),嶋田学氏(京都橘大学文学部教授,元・瀬戸内市民図書館館長),吉井潤氏(都留文科大学非常勤講師,株式会社図書館総合研究所主任研究員)による研究会を組織した。
調査基準日を2021年6月1日とし,分館も含めた全国全ての公立図書館を対象にオンラインで質問紙調査を実施した。回答総数2,075館のうち,調査対象ではない施設を除いた2,022館について回答を分析した。調査設計に当たっては,saveMLAKとJLA公共図書館部会による先行調査を参考にしつつ,事態が長期化していることを考慮し,時間的な経過による状況の変化も捕捉できるように質問を工夫した。また,質問紙調査への回答を確認した上で,閉館措置を一切行わなかった中央館1館と,「図書除菌機」及び「電子図書館サービス」の両方を導入している中央館2館に聞き取り調査を行った。質問紙調査及び聞き取り調査に御協力いただいた公立図書館の皆様に改めて御礼を申し上げたい。
以下で,調査結果の概要を紹介する。
COVID-19の影響により,日本の公立図書館のほとんど(97.3%)が,少なくとも一回は閉館していた。感染拡大防止策としては,図書館の施設・設備での対策(消毒,換気,仕切りの設置,座席の間引き等)と利用者へのマスク着用の要請が中心であった。
「郵送・宅配貸出サービス」などの非来館型サービスの提供については,新たに提供するようになった図書館の顕著な増加は見られなかった。このことから,日本の公立図書館は,図書館をなんとか開館させて来館利用してもらうという方針が優先され,非来館型サービスを拡充するという方針はあまり採用されていないと言える。例外として,電子書籍・電子雑誌の提供を行う図書館は増加した。
図書館の財政への影響については,支出する費目によって増減があったものの,全体として顕著な予算削減は見られなかった。また,新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を利用した取組について,約3分の2の図書館が実施した(または実施予定)と回答した。職員のテレワーク(在宅勤務を含む)については,都道府県立図書館では一定程度実施されていたが,市区町村立図書館ではその割合が少なく,勤務形態を柔軟に変更することが難しいと推測される。
調査結果を取りまとめた報告書については,2022年2月に刊行し,国内外の図書館等に配付したほか,電子版をカレントアウェアネス・ポータル及び国立国会図書館デジタルコレクションで公開した。COVID-19はまだ収束には至っていないが,2021年6月時点の日本の公立図書館における対策を振り返り,今後の対応策を検討する際の参考資料として,この報告書をご活用いただければ幸いである。なお,質問紙調査の回答については,今後さらに詳細な統計分析を行う予定である。
Ref:
国立国会図書館関西館図書館協力課. 公立図書館における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応. 国立国会図書館. 2022, 238p., (図書館調査研究リポート, 19).
https://doi.org/10.11501/12226706
“covid-19-servey”. saveMLAK.
https://savemlak.jp/wiki/covid-19-survey
“公共図書館部会”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/divisions/koukyo/tabid/272/Default.aspx
関西館図書館協力課調査情報係. 図書館及び図書館情報学に関する調査研究とは. カレントアウェアネス-E. 2016, (300), E1781.
https://current.ndl.go.jp/e1781