カレントアウェアネス-E
No.459 2023.06.29
E2609
公立図書館におけるCOVID-19対応(2):NDLの調査研究
関西館図書館協力課調査情報係
国立国会図書館(NDL)では、2002年度から、図書館協力事業の一環として、図書館及び図書館情報学に関する調査研究(E1781参照)を実施している。
2022年度の調査研究は、2021年度(E2497参照)に引き続き、公立図書館における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応をテーマとし、2021年度の調査データを使用してさらに調査・分析するとともに、2021年6月の調査時点で想定されていなかった影響についてのインタビュー調査を実施することとした。インタビュー調査に御協力いただいた公立図書館の皆様に改めて御礼を申し上げたい。
本調査研究は、日本図書館協会(JLA)の協力を得て実施した。実施に当たっては、安形輝氏(亜細亜大学国際関係学部教授、JLA課題調査委員会委員)、池内淳氏(筑波大学図書館情報メディア系准教授)、大谷康晴氏(本調査研究主幹、青山学院大学コミュニティ人間科学部教授、JLA課題調査委員会委員)、大場博幸氏(日本大学文理学部教授)による研究会を組織した。
以下で、2022年度に行った調査研究の概要を紹介する。
●COVID-19拡大防止策および非来館型サービスの実施状況に基づいた、クラスター分析による図書館の類型化
2021年度の調査結果から、感染防止策や非来館型サービスの実施については、図書館の属性によって何らかの特徴が見いだせることが予想されたため、クラスター分析による図書館の類型化を行った。地域、設置自治体の種類、運営形態(自治体による直営か、あるいは指定管理者による運営か)、人口規模等といった図書館の属性に従い類型化を試みた結果、COVID-19の拡大防止策として図書館が施設面、資料面、利用者向け等でどのような対応をとったかは、三大都市圏が所在する地域(関東地区、近畿地区、東海北陸地区)とそれ以外(北日本地区、中国・四国地区、九州地区)とで類型的に異なることが示唆された。
また、人口規模が小さい自治体が設置する図書館は、大きい自治体とは異なる類型となることが多く、図書館がどのようなCOVID-19対策を講じたかは人口規模によって異なる傾向があることが示唆された。一方、運営形態、施設種別(図書館単独の施設か、あるいは複合施設か)等の違いによっては、明確な類型は見られず、対応に顕著な差は生じていなかった。
●COVID-19諸対策の類似度とその原因に関する多重コレスポンデンス分析と潜在クラス分析
各図書館が講じたCOVID-19対策の中には、Aという対策とBという対策が同時に行われることが多いといった傾向があることも予想された。そこで、2021年度調査の際のアンケート質問を、「来館利用のための取組」に関するものと「非来館型サービス」に関するものの二つのグループに分けた上で、アンケート回答について、多重コレスポンデンス分析及び潜在クラス分析を行い、対策同士の類似度を調査した。
その結果、「来館利用のための取組」のうち、「入館予約(図書館への入館を予約制にする)」という防止策だけは他の防止策との関連性が見られなかったのに対し、それ以外の防止策はいずれも、関連性を持つ防止策がほかにあることが示唆された(例えば、「開館時間の短縮」と「データベース端末の利用制限」、「検温」と「空気清浄機の設置」等)。
一方、「非来館型サービス」については、「音楽配信」や「電子書籍・電子雑誌の提供」は類似性を持つ防止策としてグルーピングできること、一見似たような防止策に見える「郵送による貸出」と「図書館職員等の宅配による貸出」は類似するグループには属さないと言えそうであることなどが分かった。
また、大都市圏の人口規模が大きい自治体の図書館では「非来館サービス重視」の傾向が強く、そのほかの地域の図書館は、感染症流行への懸念の大きさにより「感染回避優先」と「通常の来館サービスの維持」という二つのグループに分かれた。
●公立図書館サービスの提供実績への影響
JLA刊行の『日本の図書館 : 統計と名簿』2021年版のCD-ROM版に掲載された、2020年度の業務統計データを用いて、「開館日数」「来館者数」「貸出点数」「自治体内貸出率」「予約件数」「予約貸出率」「参考業務受付件数」の七つの項目について、全国集計、都道府県単位の図書館別集計を行うとともに、政令市・特別区・市・町村といった設置自治体種別、都道府県別によるクロス集計を実施した。その結果、全国レベルでは電子書籍の利用は大きく増加したものの、紙資料を含む貸出全体の減少分を埋め合わせるほどではなかったことが示された。また、行動制限の影響から自治体内登録者への貸出の比率が上昇した図書館が多かったほか、人口が多く、人口密度が高い大都市圏ほど、上記七つの項目の数値の増減がCOVID-19の影響を強く受けていたことが示された。
●聞き取り調査
業務継続計画(BCP)が発動された自治体の中央館にあたる図書館1館に対し聞き取り調査を実施した。同自治体内にある13の図書館のうち、BCPの発動に伴い図書館職員が保健所の応援に動員された図書館では、図書館の通常業務が維持できなくなり、また、少数しかいない正規職員の負担が著しく増大する構造となっていたことが示された。
●今後の公立図書館のあり方について
電子図書館サービスに対する要望が高まる可能性があり、図書館業界全体でその対応を進めることと、改めて施設としての図書館が身近にあることの意義を理解してもらう努力が必要であろう。
調査結果を取りまとめた報告書は、2023年3月に、カレントアウェアネス・ポータル及び国立国会図書館デジタルコレクションで公開した。日本の公立図書館におけるCOVID-19対策を振り返り、今後の対応策及びサービス展開を検討する際の参考資料として、御活用いただきたい。
Ref:
国立国会図書館関西館図書館協力課編. 公立図書館における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応(2). NDL. 2023, 131p., (図書館調査研究リポート, 19-2).
https://doi.org/10.11501/12767955
関西館図書館協力課調査情報係. 図書館及び図書館情報学に関する調査研究とは. カレントアウェアネス-E. 2016, (300), E1781.
https://current.ndl.go.jp/e1781
関西館図書館協力課調査情報係. 公立図書館におけるCOVID-19対応:国立国会図書館の調査研究. カレントアウェアネス-E. 2022, (435), E2497.
https://current.ndl.go.jp/e2497