カレントアウェアネス-E
No.287 2015.08.27
E1703
ボーンデジタル資料の管理にアーキビストの専門知識の活用を
2015年7月,OCLC Researchが,アーキビストの専門知識を図書館でのボーンデジタル資料の管理に取り込むことを提言した報告書“The Archival Advantage : Integrating Archival Expertise into Management of Born-digital Library Materials”を発表した。
報告書では,リサーチライブラリアンが記録や保存の対象としている,研究データ,電子メール,ウェブサイト,ブログ,Twitter,wiki等の,灰色文献(E1382参照)とされるボーンデジタル資料の管理に,アーキビストの専門知識を取り込むことが必要だと指摘されている。それは,アーキビストが,オリジナルなものが1点のみで,コピーが流通せず,特定の所有者が管理するユニークな資料を扱う専門家であり,ボーンデジタル資料の管理には伝統的なアナログのアーカイブ資料の技術こそが関係するからである。
そして,報告書では,ボーンデジタル資料の収集・管理に係る次の10の領域の課題が示され,各々の課題に回答を与えるアーキビストの専門知識がまとめられている。
(1)資料の法的所有権について
大抵の資料は個人や組織によって法的に所有されており,資料保存機関に受け入れる際には,提供者が寄贈や売却する法的地位があるかを確認する必要がある。これらの課題は,アーキビストがコレクションを受け入れる際に日々直面している課題であり,ボーンデジタル資料を受け入れる際にも関係する能力である。
(2)資料の提供者に働きかける際に取り組む事項について
資料保存機関には,資料の提供者から当該資料の保存施設として積極的な評価を得る必要があり,また,資料移管に関する運用規定が存在する。この時,アーキビストは提供者と強固な関係を結び,条件について交渉し,法的課題を取り上げ,個人情報といった慎重に扱うべき話題を議論する専門家として働くことができ,それは,ボーンデジタル資料を受け入れる際にも関係する。
(3)資料に関する知的財産の法的所有権について
複数の人々によって作成された著作物は,各々が著作権を保有しているため,資料その物と同様,知的所有権についてもその移管の処理を行うことが重要である。アーキビストが提供者に知的所有権について説明することは日常的業務であり,ボーンデジタル資料に関しても同様である。
(4)組織の収集目的における資料の重要性について
ボーンデジタル資料は,アナログの資料と同様に,収集する前に作成された背景に基づいて評価される必要がある。アーキビストは,収集するボーンデジタル資料が合法か,価値のある情報を持つか,または他の価値を持つか否かを評価する能力を持っている。
(5)資料が作成された背景と著者の全著作物との関係について
アーカイブのコレクションは主に個々のアイテムが意味を持つというよりは,集合することで意味を持つ。コレクションの背景を理解することは,収集のための予備調査から資料を処理してメタデータを作成するまでの,アーカイブの管理のほぼすべての段階において重要であり、ボーンデジタル資料についても同様である。
(6)コレクションが正確で信頼できるものであるかについて
ボーンデジタル資料はアナログ資料よりはるかに容易に変更することができ,誤って変更されることもある。ファイルの複製,フォーマットの移行等は,適切な訓練を受けた図書館員やアーキビストによって,信頼性を脅かさない方法で行われなければならない。
(7)資料へのアクセスまたはその利用に対する制限について
法令や提供者からの要望により,特定の種類の資料へのアクセスを制限するかどうかを決定する必要がある。デジタルの領域では,制限の管理はアナログ資料よりもはるかに複雑である。アーキビストは,実際の閲覧室やデジタル空間での利用の制限という法的な課題に対処してきた経験をもつ。
(8)組織に所有権が移管される時点で契約条件が議論されることについて
資料の提供行為は本質的には,それがアナログであれデジタルであれ、既存の権利所有者から資料収集機関に知的所有権を移管することである。アーキビストは,資料の法的所有権について交渉する際のように,提供行為を通じてボーンデジタル資料の所有権が移管されるプロセスを監督することが可能である。
(9)予見可能な将来に向けてのボーンデジタル資料の保存について
ボーンデジタル資料を処理するための技術を学んだアーキビストは,安全な処理のためのツールの選択と使用を含めて同資料の長期保存の問題を熟知している。
(10)発見とアクセスのためのメタデータの十分な作成について
多くのアーカイブ資料には,出版物においては通常示される著者,タイトル,刊行年といった同定識別のためのデータ要素が明示的に含まれていない場合がある。アーキビストには,それら要素を確定させる専門能力があり,ボーンデジタル資料においてもその能力は活用される。
関西館図書館協力課・武田和也
Ref:
http://www.oclc.org/content/dam/research/publications/2015/oclcresearch-archival-advantage-2015.pdf
http://www.oclc.org/research/publications/2015/oclcresearch-archival-advantage-2015.html
http://hangingtogether.org/?p=5271
http://www.oclc.org/research/events/2015/08-11.html
E1382
E1342
E1507